事務所を後にした私たち、今日はちょっと時間も遅めっていうこともあって食事は外ですることにして、夏梛ちゃんと麻美ちゃんの二人も一緒にレストランへ行ったの。
人付き合いをあんまりしない様子な里緒菜ちゃん、それに人見知りな麻美ちゃんもすっかり打ち解けてるみたいで一安心…二人での食事もいいけど、こうやってみんなで食べるのも楽しいよね。
食事も終わって、帰る方向の違う二人とはそこでお別れ…麻美ちゃんが暮らしてるのは高級マンションってことで、さすがお嬢さまってとこかな。
二人になった私たち、夜道で手を繋いで向かうのは学生寮のあるあの子の通う学校…じゃない。
「ここがセンパイの暮らしてるアパートですか…何ていうか、普通ですね」
「普通で悪かったね…ぶぅぶぅ」
「誰も悪いとは言ってないじゃないですか…ふふっ」
そう、私たちがやってきたのはそういう場所だったんだけど、ここからあの子に一人で帰ってもらうとか、そういうわけじゃもちろんないよ。
「じゃ、あがってあがって」
「はい…おじゃまします」
二階にある私の部屋へあの子を招き入れる…そう、今日はあの子がここに遊びにきてくれたの。
「…ものすごく整頓されてますね。もしかして、わざわざ掃除しました?」
「うん、そりゃまぁ…好きな子をはじめて呼ぶんだもん、当たり前だよ」
夏休みの間は私があの子の部屋へ押しかけてたから、彼女からここにきてくれるのは今日がはじめて。
というより、ここにきてから誰かを呼ぶ、なんてこと自体これがはじめてだったりするんだけど、ね。
「私はありのままのセンパイを見たいのに…つまらないですね」
「わ、里緒菜ちゃん…って、つまらないってどういうこと?」
「いえ、別に…センパイの隠された秘密とかを見られるんじゃないかな、なんて期待してたとか、そんなことはありませんよ?」
むぅ〜、なるほど、そういうつもりだったんだ。
「私は普段からちゃんと掃除してるし、見られて困るものなんて何もないよ?」
「まぁ、そうみたいですね…見るからに物が少ないというか、殺風景ですし。それもセンパイらしいかもしれませんけどね?」
部屋の中を見回されながらそんなこと言われちゃった。
部屋には一通りの家具はあるし、本やゲームソフトなんかもあるけど…まぁ、自分で言うのもあれだけど彩りが少ないってのは確かかも。
「…でも、どっちにしてもやっぱり掃除されたのは、少し複雑な気分かもしれません」
「…へ? どうして?」
「だって、センパイがはじめて私の部屋にきたときは…あまりに急なことだったっていっても、あんな状態を見られちゃったわけじゃないですか」
私がはじめて彼女の部屋へ入ったのは…うん、確かにあれは私の完全な不意打ちだった。
そのときの部屋は、片付けが面倒だからってとっても散らかってたっけ…あれ以来私がお掃除してあげてたんだけど最近は行けてないし、大丈夫かな?
「こんなことでしたら、私も事前に何にも言わずにくるべきだったでしょうか」
もう、だから普段からちゃんとお掃除してるからそういうことしても変わらないのに。
「ふふっ、里緒菜ちゃんったら」
でも、そんなこと気にするあの子がかわいらしくって、思わずぎゅってしちゃう。
「きゃっ…もう、センパイったら、まだ部屋に着いたばかりなのに、もう我慢できないんですか?」
「うっ、何だかその言いかただとちょっと変な意味にも聞こえちゃうけど…でも、うん、ちょっと我慢できない」
「ふふっ、しょうがないですね、センパイは…んっ」
悪戯っぽく微笑んだ彼女の唇が私の唇に重なった。
私の部屋にはじめて里緒菜ちゃんを呼んだんだけど、今日はそれだけじゃない。
「お風呂入れる様になったけど、もう入る?」
お水とチョコバー出してあげて一服したところでそんな声かける。
お風呂にまで入ってもらう、ってことからも解るって思うけど、今日はあの子がここに泊まってってくれるの。
明日は学校がお休みってこともあってそうなったわけなんだけど…うぅ、やっぱりちょっと緊張しちゃうかも。
でも、それ以上にどきどきして楽しみ…麻美ちゃんも今日は夏梛ちゃんが泊まってくってとっても楽しみそうだったけど、気持ち解るなぁ。
「そうですね、そうさせてもらいます。センパイ、先に入ってもいいですよ?」
うん、今日はレッスンとかで疲れたって思うし、お風呂に入ってのんびりしたいよね…って、あれ?
「センパイ、どうかしましたか?」
「…あ、ううん、何でもないよ。じゃ、お言葉に甘えて先に入ってきちゃおうかな」
「はい、どうぞごゆっくり」
あの子に見送られてお風呂へ向かう私だけど…てっきり一緒に入ってくるかなって思ってたのに、意外な反応。
もしかして私から誘ってくれるのを待ってた、とか…あぅ、もしそうなら大変だけど、一度部屋を後にしたのに戻るっていうのもおかしいし、今日は大人しく一人で入ろう。
お風呂に入ってる途中であの子が入ってくるかも、なんてことも考えたんだけどそんなこともなくって。
ワンルームのお風呂なんて広くないし、あの子に疲れを取ってもらうってことを考えると一人ずつ入ったほうがいいに決まってるんだけど、でも同じくらいの広さだったあの子の部屋のお風呂は一緒に入ってたし、何だかさみしい…って、もう、私ってば何考えてるんだろ。
色々複雑な気持ちになっちゃってあんまりのんびりする気分になれず、そこそこしてお風呂から上がった…んだけど。
「…え。え〜と…里緒菜ちゃん、何してるの?」
部屋へ戻ると、そこにいた彼女の様子が明らかに普通じゃなかったから、その光景を見た瞬間固まっちゃった。
「…え。え〜と…」
明らかにベッドの下を覗き込んでた、って体勢をしてたあの子、私へ顔を向けて固まっちゃう。
しばし固まっちゃったまま見つめあう私たち…。
「…意外にはやいですね。もう少しゆっくりしてきてもよかったんですよ?」
と、あの子、ベッドの端へ腰掛けたかと思うと、何事もなかったかの様に声をかけてきた。
「いや、え〜と…里緒菜ちゃん、何してたの?」
「私は別に何も…センパイが戻ってくるのを待っていただけです」
真顔で答えられちゃった。
「えぇ〜、ほんとに? 明らかに何かしてたみたいに見えたんだけど?」
「ですから何でもありませんって。ただセンパイがいない間に色々探してみようと思っただけで」
そしてさらっとそんなこと言ってきたけど…いやいや。
「もう、それって全然何でもないことないじゃない…ぶぅぶぅ!」
私を一人でお風呂に入らせたの、それをしたかったからだったんだ…むぅ〜。
「心配しなくっても大丈夫ですよ。別に何も見つけられてませんから」
「ぶぅ、そういう問題じゃないよ〜」
口では怒ってみせるけど、実はそんな怒ってなかったりする…里緒菜ちゃんになら何を見られたっていいもの。
「まぁ、私の部屋を見たいなら、好きにどこでも見てくれても大丈夫だよ」
ということでそう言ってあげる…んだけど。
「…そう言われるとちょっとつまらないですね。こういうのはこっそり探すのが面白いのに」
「あ、あはは、そっか…むぅ」
「でも、センパイのことですから、探しても本当に特に何も出てこなさそうですね」
「それってどういうこと?」
「いえ、センパイは真面目そうですから」
何か前にも似たこと言われた気もするけど、そうなのかな…そもそも、里緒菜ちゃんはどんなものが出てきたら面白いって感じるんだろ。
彼女にそう感じてもらえそうなもの、何かないかな…あ。
「そうだ、面白いかは解んないけど、私の学生時代のアルバムがあったはずだよ。見てみる?」
「あっ、それはちょっと面白そうですし、お願いします」
「ん、それじゃ里緒菜ちゃんは先にお風呂入ってきたら? その間に出しとくから」
あの子がお風呂入る時間遅くなっちゃうし、そうしたほうがいいよね。
「じゃあセンパイも一緒に入りませんか?」
やっぱり彼女も私と一緒に入りたい、って思ってくれてたみたい。
でも、ついさっき入ったばかりだからさすがに今回は遠慮…また次の機会、かな。
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