第4.2章
「ん〜…よしっ、こんなとこかなっ」
―よく晴れた日の朝、ごはんを食べてから自分の部屋をお掃除。
普段からお掃除はちゃんとしてるけど、今日は特に念入りに、時間をかけてやっておく。
だって、今日ははじめての…。
「…うぅ〜っ、何だかどきどきしてきちゃったよ」
九月ももうすぐ半ばってとこだけど外はまだまだ暑いって中、今日も午後はあの喫茶店でアルバイト。
「ふふっ、すみれちゃん、何かいいことあったの?」
と、着替えてすぐに美亜さんがそんなこと言ってきたの。
「へ? どうしてですか?」
「そんなの、見ればすぐに解っちゃうわ。もちろんあの子のことで、っていうことも」
う〜ん、私が解りやすいのか、美亜さんがすごいのか、とにかくやっぱり敵わないなぁ。
「まぁ、そうなんですけど…でも、いいことはこれからある、って感じかな?」
「なるほどね、それが待ちきれなくって楽しみ、っていうことなのね…うふふっ、何があるのかしら」
何があるのしてもあの子がこないことにははじまらないから、まずはいつもどおりしっかりお仕事。
「そういえば、先日はすごかったわね…すみれちゃんがみんなの前であの子とお付き合いしていることを公言したうえに口づけまでしたりして。いいものを見させてもらったわ」
「うっ、あ、あれはまぁ、その、勢いでしちゃったっていうか…」
お客さんがこないから美亜さんが話しかけてくるんだけど…あのこと言われると恥ずかしい。
「ふふっ、これでまたすみれちゃん目当てのお客さんが増えそうね」
「…へ、そ、そう? どうしてそうなるか、よく解んないんだけど…」
「いいのよ、すみれちゃんは普段どおりにしてくれていればいいんだから」
そんなこと言われて微笑まれちゃったりして。
う〜ん、そもそも私目当てできてるお客さんなんているの、って思っちゃうけど、これは確かにいるみたいなの。
近くにある学校にある子たちの中にそういう子がいるんだけど、そういった子たちとは別に、私のためにわざわざきてくれる特別な子がいる。
「全く、今日は事務所でレッスンがありますし、その途中で寄っただけですよ? センパイに会うためだとか、自意識過剰なんじゃありませんか?」
学校も放課後の時間になって、その子…里緒菜ちゃんが喫茶店へ姿を見せてくれて、しばらくしてから美亜さんに見送られてそこを後にしたんだけど、そんなこと言われちゃった。
「はぅ、そ、そうなの? 結構いつもきてくれるから、てっきり…」
きてくれるだけで十分なんだけど、それでもちょっとしゅんってなっちゃう。
「…って、もう、本気にしちゃったんですか? ちょっと夏梛さんの真似してみただけですのに」
と、呆れた様子でため息をついた彼女、私の手を繋いでくれた。
「夏梛ちゃんの、って…あ、もしかしてツンデレ?」
「そういうことです。私がセンパイに会えもしないのに毎日外出するとか、そんな面倒なことするわけありませんし」
里緒菜ちゃんって結構こうやってはっきり気持ちを言ってくれるんだよね…私のことがないなら全然外に出ない、っていうのはそれはそれで問題なんだけど。
「特に、今日は事務所でのレッスンの後あれなんですから…私も、楽しみにしているんですよ?」
そんなこと言う彼女の横顔は、ちょっと赤くなっちゃってた。
「うんうん、私もとっても楽しみだよっ」
ちょっとどきどきしちゃうけど、それ以上に嬉しいって気持ちが大きくなって、彼女に笑顔を返すの。
十月からは私と里緒菜ちゃんが一緒に主演として出演するアニメがはじまるっていうこともあって、今日の事務所でのレッスンもあの子と一緒。
もちろん真剣にしないといけないけど、でも嬉しいって気持ちも出てきたり…ううん、集中集中っ。
「あっ、すみれセンパイに里緒菜さん、お疲れさまです」「お二人も今日はレッスンでしたか?」
と、レッスンを終えてスタジオを出たところで、ダンスルームから出てきた夏梛ちゃんと麻美ちゃんの二人に声かけられた。
「うん、二人ともお疲れさまっ」「お二人はダンスのレッスンだったんですか…今日はもうおしまいですか?」
「ですです、今日はもうおしまいおしまいです」
二人は私たちよりも結構先にきてたはずだし、頑張ってるね。
「今日はこの後、夏梛ちゃんが私のお部屋へお泊りにきてくれるんです…うふふっ、とっても嬉しくって、楽しみです」
「あぅあぅ、麻美、そういう余計な余計なことは言わなくってもいいですっ。それにそれに、そんなこと楽しみにすることでもありませんし…!」
と、本当に心から幸せそうに微笑む麻美ちゃんに対して、夏梛ちゃんが赤くなってあたふたしちゃう。
「えぇ〜、そんな…夏梛ちゃんは楽しみじゃないの?」
「そ、それは…知りませんっ」
ぷいってしちゃう夏梛ちゃん…二人が出会った頃から彼女は麻美ちゃんに対してはああいう態度取ってた気がするけど、完全に照れ隠しなツンデレで微笑ましくなっちゃう。
それに、今日は二人もそうなんだ…ん?
「あ、そういえば二人は一緒に暮らしてるってわけじゃないんだ?」「わざわざ泊まりに、ということは…そうですよね」
何だか二人はいつも一緒、ってイメージが強いからちょっと意外だったかも。
「はい、残念ながら…私は一緒に暮らそう、って言ってるんですけど、夏梛ちゃんがうんって言ってくれなくって…」
「だ、誰も誰も拒否してるわけじゃありません…ただただ、少し少し考える時間がほしいだけです」
二人を見てると考えるまでもない気もするんだけど、何だかこれも微笑ましいし、そっと見守ってあげよう。
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