「…よしっ、こんなものかな。里緒菜ちゃん、お掃除終わったよ〜」
 食後はしっかりお掃除に集中…今度は回想モードに入ったりすることなく満足できるところまでできて、さっそくあの子を呼んでみる。
「そうですか、お疲れさまです…」
 なんていってもここはワンルームなお部屋だからあの子はベッドで横になっててその呼びかけて身体を起こしてくる…ま、お掃除は私が勝手に言い出したことだし、彼女にはのんびりしててもらわなきゃ。
「…って、ずいぶんきれいになっちゃいましたね」
 そんな彼女、部屋の様子を一望してちょっと驚いちゃったみたい。
「うん、頑張ったもん。これからはあんまり散らかしたりしない様にしてね」
「えぇ〜…めんどくさいです」
「もう、そんな面倒なことじゃないと思うんだけどなぁ」
 毎日きちんとしてれば、少なくてもお料理するよりは楽な気がするんだけど…里緒菜ちゃん、それなのに毎日お弁当作ったりしてくれてるんだよね。
「…う〜ん、しょうがないなぁ。じゃあ、これからも私がときどききてお掃除してあげる」
「えっ、いえ、そこまでしてもらわなくっても…」
「いいっていいって、里緒菜ちゃんのためにできることをしたいな、って私が思ってるだけなんだし、それに…こうしてまた里緒菜ちゃんのお部屋にきたいもん」
「そう、ですね…私も、センパイにこうしてきてもらえるのは、嬉しいです」
「わぁ…里緒菜ちゃん、よかったっ」
 嬉しくなって、ベッドの端に腰かけてたあの子につい抱きついちゃった。
「わっ…も、もう、大げさなんですから」
「そんなことないって思うんだけど」
 あの子は顔を赤らめながらも嬉しそうで、とってもかわいくって愛しくなっちゃう…だから、さらにぎゅっとしちゃうんだ。
 あぁ、私、やっぱり里緒菜ちゃんのことが好きで好きでしょうがないよ。
「こうして里緒菜ちゃんのお部屋で、二人きりで過ごせたりして、幸せだよ〜」
 その幸せをかみしめながらゆっくり身体を離して、彼女のすぐ隣に腰かけさせてもらう。
「私もですから、別に掃除のために、なんて考えたりせずに、普通にきてもらっていいんですよ?」
「ん〜、そうだね、じゃあ里緒菜ちゃんに会いにくるついでにお掃除もしてあげるっ」
「それ、結局同じなんですけど…あ」
 あれっ、何かに気づいたみたいに言葉を詰まらせちゃった?
「ん、どうしたの?」
「いえ、今は夏休み中で学生寮に人がいないからいいんですけど、二学期がはじまったらさすがにセンパイは目についちゃいますよね、って…」
 あ、なるほど、そういうことか…う〜ん。
「でもでも、学生寮にこうして入ったことは一応許可もらってるよ? 二学期はじまると難しいのかな?」
「えっ、ここにきたの、一応許可なんてあったんですか…じゃあ、人目さえ気にしなければいいのかもしれませんね」
 うんうん、よかったよかった…けど、さすがに今使わせてもらってる練習場所に行くのはちょっと難しいかも。
 何しろ、あそこは校舎の中、だもん…こっちは許可もらってないし、もらおうとしても取れそうにないかも。
「とにかく、お掃除お疲れさまでした。一応、お礼は言っておきます…ありがとうございました」
 っと、そういう先のことはまた後で考えればいっか。
「ううん、いいっていいって」
「疲れたでしょうし、もう結構な時間ですから、お風呂に入ったらどうですか? 準備はできてますよ」
 そう言われて、壁にかかった時計へ目をやってみると時間はもう午後十時過ぎ…いけないいけない、ちょっと集中しすぎちゃったみたい。
「わっ、わざわざありがと。食器の後片付けもしてくれたし…うんうん、ほんとにありがと」
「べ、別に、そのくらいはさすがの私でもしますし…」
 なでなでしてあげるとちょっと恥ずかしそうになったりして、かわいい。
「それで、お風呂はどうします?」
 ここの学生寮はキッチン同様にお風呂も一部屋ごとにあるみたい…大浴場も別にあるそうだけど、とにかくキッチンに較べたらそう珍しくないか。
「うん、それじゃお言葉に甘えて入らせてもらっちゃおうかな」
「解りました、じゃあこっちです」
 立ち上がった彼女について、一人用ってことで結構狭めな脱衣所に案内される。
「じゃ、脱ぎましょうか」
 と、そこに入ったはいいけど、里緒菜ちゃんは出てくどころか扉を閉じてYシャツに手をかける?
「わっ、あれっ、里緒菜ちゃんが先に入るんだ。もう、それならそうとちゃんと言ってくれれば…」
「…何言ってるんですか? センパイも入るんですよ?」
 出て行こうとする私を彼女が止めてくる…って。
「えっ、それってもしかして…一緒に入る、ってこと?」
「もしかしなくっても、そういうことですよ?」
 平然と、極めてクールに返されちゃったけど、それって…た、大変なことじゃない!
「わっ、私と里緒菜ちゃんが一緒にお風呂…そ、そんなのいいのかなっ?」
「恋人になったんですから、むしろそれが普通なんじゃありませんか?」
「そ、そういうものなのかな…うぅ〜、私にはよく解らないよっ」
 いけない、ただでさえこんな狭い場所で里緒菜ちゃんがそばにいてどきどきするのに、さらにすっごくどきどきしてきちゃう…!
「あれっ、センパイってもしかして、今まで誰ともお付き合いとかしたことないんですか? 素敵な人なのに…意外です」
「うぅっ、わ、悪いっ? 恋なんて今まで興味なかったし、こんなに誰かを好きになったなんて自分でもびっくりなんだからっ」
「そうなんですか…センパイの初恋が私、なんて嬉しいです」
「そ、そういう里緒菜ちゃんはずいぶん余裕あるみたいだけど、えっと…」
 …あれっ、何だか胸がちくってしちゃった。
「どうしましたか? 言いたいことがありましたら、はっきり言ってみてください」
「う、ううんっ、な、何でもないよ…あぅあぅ」
 しどろもどろになっちゃう私に対して、あの子は…ため息をついちゃう。
「…もう、私が恋愛なんて面倒くさいこと、するわけないじゃないですか」
「わっ、そう…なの?」
「当たり前です、誰かと付き合うとか、どう考えても面倒ですから…。とにかく、私にとっての初恋の相手はセンパイになりますから、安心してくださいね?」
「う、うん…」
 里緒菜ちゃんが今までに他の人と付き合ってたんじゃ、とかそんなこと考えて胸が痛むなんて、私って心が狭いんだな…そんなことがあってもなくっても彼女は彼女なのに、情けなくなっちゃう。
「もう、気にしなくってもいいですよ? それだけセンパイは私を独り占めしたい、って思ってくれているってことなんですから…嬉しいですよ?」
 と、里緒菜ちゃん、さっきもそうなんだけど、完全に人の心を読んだかの様なことを言ってくる…?
「センパイは恋愛なんて面倒くさいって思っていた私を本気にさせたただ一人の人なんですから…覚悟、してくださいね?」
 心が狭いとしても、でもやっぱり、あの子にとって私がはじめての特別な存在になれた、っていうのはすっごく嬉しい…んだけど。
「えっ、覚悟、って…?」
「そんなの…決まってます。私の気持ちをこんなにした…責任を取る覚悟、です」
 微笑むあの子、そう言うと私に抱きついてきちゃう…!
 も、もう、こんなとっても狭い場所で、しかもあんなこと言われたりしたら…恥ずかしさより愛しさのほうがずっと上回って我慢できなくなっちゃうじゃない。
「ん…安心して? 私、絶対に里緒菜ちゃんのこと離さないから…ずっと一緒だよ」
 私からもやさしく抱きしめ返してあげる。
「はい、センパイ…私も、離れません」
 すぐ目の前に、私を見つめるあの子の顔…。
 とってもどきどきするけど、それ以上に身体だけじゃなくって心もぴったりくっついてる感じがして幸せな、愛しい気持ちが大きくなってきて、そのままあつい口づけを交わしちゃう。

 大好きな里緒菜ちゃんと一緒にいたい…離れたくない。
 その気持ちが抑えられなくって、それに二人きりの空間なんだから抑える必要もないから、あの子の言うままに私たちは一緒にお風呂に入ることにしたの。
 でも、やっぱり、特にお風呂っていうこともあって、恥ずかしいって気持ちも大きくなっちゃう。
「う、う〜ん、里緒菜ちゃん、これ…二人で入るのは、ちょっと難しくない?」
 お互い一糸まとわぬ姿なうえ、お風呂は一人用だからやっぱり狭くって、洗い場に二人で立ってるだけでそんな姿の彼女と肌が触れそうになっちゃう。
「大丈夫ですよ、二人並んで座るくらいの広さはあるじゃないですか」
 確かに、湯船のほうも膝を曲げて入れば何とか二人でも大丈夫、かな?
「そんなことより…センパイってやっぱりスタイルいいですよね。ちょっと見とれちゃいます」
 と、浴室の広さのことは全然気にしない彼女、私のことをじぃ〜っと見てきてて…!
「わ、わ〜っ! わ、私なんて全然だよっ?」
 思わず抱きしめるみたいなかたちで胸元のあたりを隠しちゃう。
「もう、女の子同士なんですからそんなに恥ずかしがらなくても…それ以上に恋人なのに」
「うぅ〜っ、そんなこと言われても、恥ずかしいものは恥ずかしいのっ」
 部活の着替えとかだと全然こんなことないのに、それだけ彼女が他の子とは違う存在、ってことかな。
「ふふっ、でも、そんなセンパイもとってもかわいいですからいいんですけど、ね?」
「はぅっ…ぶぅぶぅっ!」
 真っ赤になっちゃいながら抗議の声を上げるけど彼女はそんなことには構わず、微笑ましげに私のことをなでなでしてきちゃう。
「うぅ〜、ぶぅぶぅ! そ、そんなこと言う里緒菜ちゃんのほうがずっとかわいいし、きれいなのに!」
 ものすごくどきどきしちゃって直視できないんだけど、でも一糸まとわぬ姿なあの子は本当に見とれちゃうくらいにきれい…。
「そうですか? 私は別にそうは思いませんけど、でもセンパイにそう言ってもらえると嬉しいです…ありがとうございます」
「ううん、そんな、別にいいよっ。ほら、それより、立っててもしょうがないからお風呂入ろっ」
 素直にお礼言われたりしてちょっと気が楽になってきた…恥ずかしがってばかりもいられないし、二人でのお風呂の時間を楽しもう。

「じゃあセンパイ、後ろだけじゃなくって前も洗ってあげますね?」
「わ、わーっ、そ、そんなの…!」
「ふふっ、遠慮しなくってもいいんですよ?」
 お風呂ではあの子が身体を洗ってくれたんだけど、そんなこと言ってきたりしてとっても積極的でどきどきしちゃう。
「むぅ〜っ、それなら私も里緒菜ちゃんの背中だけじゃなくって前も洗ってあげるっ」
 とってもどきどきしちゃうのは確かだけど、でも彼女に触れたい、そして触れられたいのも確か…だから、私もいつの間にか積極的になっちゃう。
「えっ、それは…その、ありがとうございます」
 私がそんな風になるとは思ってなかったのか一瞬戸惑って顔を赤らめるあの子がかわいい。


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