「あっ、そういえば里緒菜ちゃん、さっき部屋を掃除してたときに見つけたものがあるんだけど…」
あの子も夕ごはんをほぼ食べ終えて、まったりとした時間…ふと思い出したことをたずねてみる。
「何ですか、何か恥ずかしいものでも見つけましたか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
そんな風に感じちゃいそうなものがあったりするのかな…。
「こんなのがあったんだけど、里緒菜ちゃんってこういうゲームよくするの?」
掃除のときに見つけて気になって、それでそばに置いてたものを手にしてあの子に見せてみた。
「あ〜…これですか。まぁ、ゲーム全般好きですけど、それは特別です」
それを見たあの子はそんなこと言うけど、これは私にとっても特別なものだったりするんだよね…。
私が手にしてるものは何かといえば、携帯ゲーム機のソフト…内容はいわゆるギャルゲーっていうやつになるのかな、ゲームはそこそこする私だけどこのジャンルのゲームはちょっと手を出したことない。
なのにどうしてこれは特別なのかといえば、それは一つの大きな理由によるものなんだけど…。
「これは特別、って…どうして? これ、そんなに面白いゲームだったの?」
あの子にとっても、っていのが不思議になっちゃってそうたずねてみる。
「う〜ん、どうでしょうか…確かに面白い作品でしたけど、でも特別って言っちゃうほどかってなると、何ともいえないかもしれません」
「そうなんだ…じゃあどうして?」
「そんなの…センパイは、このゲームって特別だと思わないんですか?」
「…へ、私? う、うん、確かに私はそう思ってるけど…」
「じゃあ…そういうことです。センパイと同じ理由だと思いますよ?」
平然とそんなこと言われたけど、ということは…ああいうこと、なの?
「え〜と、それってつまり…私がメインキャラの一人を、しかもはじめて演じてるゲームだから、ってこと?」
「はい、そういうことですよ?」
また平然とうなずかれちゃったけど…そう、このゲームは私にとって、そういう理由で特別だった作品。
さっき掃除中に回想モードに入っちゃったのもこれを見つけたからだったってわけなんだけど…里緒菜ちゃんがそんな理由で持っててくれてたなんて。
「何ていうか、その…うん、ありがとっ」
ちょっと恥ずかしいけど、でも…うんうん、とっても嬉しいな。
「これはやっぱり、里緒菜ちゃんが出る作品も私が買っていかなきゃ、だね」
「え…いえ、わざわざそんなことはしなくってもいいですよ?」
「う〜ん、そう? でも、今一緒に練習してるアニメのDVDは買わなきゃね。何ていったって、里緒菜ちゃんと私がどっちも主役なんだから」
「それは…さすがに止めはしませんけど、無理はしないでくださいね」
何と、十月からはじまるアニメの主人公、二人の女の子の役がそれぞれ里緒菜ちゃんと私、ってなってるの…アニメの主人公役ってだけでもすごいのに、さらに里緒菜ちゃんと共演だなんて、これはもう張り切って頑張るしかない。
そういうことで最近は毎日一緒にその練習してて、彼女がお弁当を作ってくれてるのもそのとき一緒に食べるためなの。
今期放送中のアニメにも里緒菜ちゃんがなかなかいい役で出てる作品があるし、そっちも買ってみようかな?
「…そのゲームのセンパイの役って、面白いですよね」
と、私がテーブルの上に置いたあのゲームのことを見ながらあの子がそんなこと言ってきた。
「ん、そう? まぁ、確かに私も演じてて、ちょっと変わってる子かも、とは感じたりしたけど」
私があのゲームで演じたのは、宇田川さやかっていう女の子で、少し背は低めな、でもかなりの美少女…いや、あの手のゲームの登場人物は大抵そうなんだけど、ね?
ゲームの舞台となる学校の理事長の孫、そしてとっても成績優秀な子でもあるんだけど、ちょっとつかみどころがない性格なところがあったかな…クールかつかわいい雰囲気の子なんだけど、でもそんな雰囲気のままにおかしなことをよく言ってきたり、とか。
まぁでもかわいくっていい子だったよね…素の私とは全然雰囲気とか違うし、そういう役をするとやっぱりそう無闇に顔とか出さないほうがいいんじゃないかな、って思う。
とにかくそんなわけだから、素の私を知ってる里緒菜ちゃんなら、あの役とのギャップを感じられて面白い、とか感じたりするのかも。
「あの子の性格とかもそうですけど…センパイがセンパイ、なんて連呼してるんですから」
「…あ、そ、そういうことか。うん、確かにそれはそうかも」
あのゲームの主人公はさやかちゃんの一学年上になって、彼女は彼のことを最後までそう呼ぶ設定…だから私もこの役を演じることになったときに似たこと感じたっけ。
「センパイ、ちょっとあの子の台詞、何か言ってもらえませんか?」
「ん、いいよ。じゃあ、そうだなぁ…こほんっ」
他ならぬ彼女のお願いだし断る理由もなかったからうなずいて一呼吸…うん、いける。
「…はぁ、しょうがありません。今日はこのくらいにしておいてあげます、センパイ」
ちょっとクールな、でも基本的にはかわいらしさのほうがちょっと強めの声で…。
「どうしたんですか、センパイ? このくらいのこと気にしちゃうなんて、センパイもまだまだですね」
さやかちゃんは主人公のことよくいじってからかってる感じ…クールなままでそういうこと言ってくるのがちょっと面白いかも。
「…ふふっ、やっぱりセンパイがそんな台詞言ってるのを見ていると、とっても面白いです」
「むぅ〜、そんなこと自分でも解ってるよ…ぶぅぶぅ」
ゲーム中でさやかちゃんがしゃべってるのならともかく、私がしゃべってるってなると…う〜ん、自分でもおかしな感じがしちゃう。
本当、よく私を採用してくれたなってすら思えちゃう…そして無事に演じられてよかった。
「ふふっ、やっぱりセンパイってかわいいです」
「ぶぅぶぅ、またそんな人をからかって」
「私は本当のことを言っただけですよ?」
全く、かわいいのは里緒菜ちゃんなのに、あんなこと言って…と、そんな彼女の姿がちょっとあの子と重なっちゃった。
「里緒菜ちゃんって何だかさやかちゃんに似てるかも」
「そうですか? 私は特にそんなことは感じませんけど」
「でもでも、二人ともセンパイってよく使うし、それに敬語でしゃべってるし、クールな感じもするし…結構似てるなって思うな」
外見は似てないんだけど、そういうあたりは…うん、やっぱり重なっちゃう。
「なるほど、センパイは私にそういうイメージを持ってましたか…別に私はクールなわけじゃないんですけど」
やる気がないだけ、なんて言いそうでちょっと怖いなぁ。
「…あ、でも、私とあのキャラとで似てるな、って自分でも感じるところ、一つありました」
「あっ、そうなんだ…どこどこ?」
と、里緒菜ちゃん、何だか意味深な微笑みを浮かべて…うっ、ちょっと嫌な予感。
「はい、好きな人のかわいいところを見たくって、ついからかっちゃうところです」
「は、はぅ、やっぱり〜」
そこも似てるなって私も感じてはいたけど、あえて触れないでおいたのに〜。
「ぶぅぶぅ、からかってるって自覚あったなんて、ひどいよ〜。しかも、そんな理由でだったの?」
「はい、そうですよ? だってセンパイ、かわいいじゃないですか」
「もうっ、そんなことないのに…ぶぅぶぅ」
本当に困ったものだけど、そんなこと言ってくる里緒菜ちゃんもまたかわいく感じたりしちゃうんだよね。
「やっぱり、全体的な性格が里緒菜ちゃんに似てる、って感じる…あの役、里緒菜ちゃんがやればぴったりだったかも」
「そうですか? 私は、あの役のセンパイの声、好きですよ?」
「わっ、そ、そう? わぁ、ありがとっ」
里緒菜ちゃんは私のこと好きになってくれたけど、声のほうでもそう思ってくれるなら…なおさら嬉しい。
「はい、ですから今からこのゲームをやってみて、一緒にセンパイの声を楽しんでみましょうか」
「うぅ〜、それはちょっと遠慮しとく。ほら、お掃除の続きもしちゃいたいし」
やっぱりちょっと…ううん、結構恥ずかしいもん。
「それは残念です…じゃあ、さっきみたいにもう一回センパイが演じてくれてもいいですよ?」
「もう、しょうがないなぁ…じゃなくって、だからお掃除の続きしなきゃ」
「センパイは真面目ですね…」
ここで中途半端に終わらせちゃうのはよくないもん…うん、頑張ろっ。
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