「こんな朝はやくから誰かきていると思ったら…山城さん、おはようございます」
 お参りも終えて神社を後にしようとしたとき、ふとそんな声がかかってきた。
「あっ、おはようございます、竜さん。そちらもいつもはやくからお疲れさまです」
 声のしたほうへ顔を向けると見知った人の姿があったから、こちらからも挨拶を返した。
「いいえ、このくらいのこと、いつものことだし」
 私のそばへ歩み寄り、そんなことを言って少し微笑むのは、神社らしく巫女の装束を身にまとった、長い髪にちょっと鋭い雰囲気を感じさせる、私と同じくらいの年齢な女の人。
「そうは言いますけど、こんな寒い中ですし、やっぱり大変そうです」
 そう、確か同い年な人のはずなんだけど、鋭くってそれに巫女装束なこともあって神秘的な雰囲気も感じちゃうから、つい敬語になっちゃう。
「いいえ、私なんてまだまだ、あのかたに較べたら全然…」
「う〜ん、そうなんですか…」
 私も先輩に較べたらまだまだって感じちゃうけど、誰にでもそういう存在ってあるのかも。
 そんなこの人は西條竜さんといって、あんな服装をしてることからも解るとおりこの神社の巫女さんだ。
「それに、それを言うなら山城さんだってそうなんじゃない?」
「えっ、まぁ、私の場合はただ走ってるだけで働いてるわけじゃないですし…」
 竜さんはこんな時間から神社にきてお仕事をしていて、それで同じくこんな時間に神社にやってくる私とはよく顔を合わせることがあって、こうして会話をしたりする様になった。
「はぁ、先輩も少しだけでも山城さんみたいにしっかりしてくれれば、こちらも楽なんだけど…」
 と、その竜さん、ちょっとため息をついちゃった?
「い、いや、私は全然しっかりしてないし…それに、先輩?」
「ええ、この社で巫女をしている先輩がいるのだけど、朝遅くなることが多くって…せめてそこだけでも直してもらえたらいいのに、と思ってしまったの」
 そこだけ、って…他にも直してもらいたいところがあるんだろうか。
 私が神社にくるのはほとんどこの時間だから、その人には会ったことないんだけど、どんな人なのかちょっとだけ気になるかも。
 それに、先輩かぁ…私に後輩ができたとき、どんな風に思われたりするのかな。
 学生時代のときは悪くは思われてなかったみたいなんだけど、お仕事の世界だもんね…頼りになるとか、そんな風に思ってもらいたいな。

 神社からはまた走ってアパートへ戻る…もう日が昇った後っていうこともあって、町全体が起きはじめたのを感じることができるね。
 部屋へ戻って軽くシャワーを浴びて朝ごはん…こうして今日も一日がはじまってく。
「うん、今日も一日、しっかり頑張ろっ」
 今日はまず事務所からだね…元気にいこっ。


    (第1章・完/第2章へ)

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