「ふぅ、やっと事務所につきましたね…あれっ?」
 のんびり歩いて事務所にたどり着いた私たちだけど、その入口であの子が何かに反応した。
「里緒菜ちゃん、どうかした?」
「いえ、入口に見慣れぬものがありましたので、ちょっと…」
 そんなこと言う彼女が目を向けたのは、事務所の片隅にあるもの。
「見慣れぬ、って…里緒菜ちゃんが最後に事務所きたのって、いつだっけ?」
「そう、ですね…二週間くらい前でしょうか」
 そうだよね、前に事務所行くついでってことで喫茶店にきてくれたのがそうだったもん。
「そっか…あれはちょっと前に置かれたの。ほら、もうすぐ七夕だから」
「まぁそうでしょうね、見れば解ります」
 そこにあるのは、すでにいくつかの短冊のつけられた笹…そばには何も書かれてない短冊の置かれたテーブルもある。
「うん、事務所の子とかがあれに願いごと書いてるの。七夕に近くの神社へ持ってくんだよ」
「あぁ、あの神社ですか…」
 里緒菜ちゃんとお散歩で行ってるし、おなじみだよね…夏にはそこのお祭りで事務所の子が出るミニライブもあるし楽しみ。
「里緒菜ちゃんも願いごと書いてこうよ」
「めんどくさい…ですけど、まぁこのくらいでしたら」
 ということで短冊のあるテーブルへ向かう…けど。
「他の人は何て書いてるんでしょうね。見てみていいですか?」
「うん、いいと思うよ」
 ここに飾ってあるのって、ファンの子とかが好きな声優さんとかの願いごと見れる様に、って意味もあるものね。
「ではさっそく…『夏梛ちゃんと一緒にたくさんお仕事ができますように』って、これはあの新人さんですか…」
「うん、麻美ちゃんだね」
「…あぁ、確かそんな名前でしたっけ」
 もう、里緒菜ちゃんはもっとまわりに興味とか持つべきだよ。
 ちなみに夏梛ちゃんも麻美ちゃんのこと書いてたって思うし、やっぱりあの二人って仲いいよね。
「こっちは『頼れるセンパイになりたい』…って、これ山城さんじゃないですか…」
「あっ、うん、そうだよ。里緒菜ちゃんの頼れるセンパイになれたらなぁ、って」
 ほんとはセンパイって呼んでほしい、って書こうかなって思ったんだけど、さすがにそれを書くのはどうかなって。
 でも…夏梛ちゃんや麻美ちゃんは呼んでくれてるし、やっぱり里緒菜ちゃんにも呼んでもらいたいなぁ。
「どうして私限定なんですか…」
「えっ、それは…う〜ん、何となく?」
 夏梛ちゃんたちにも、って気持ちはもちろんあるけど、でも一番は…って思っちゃうんだよね。
「何です、それ…でも、そこまで言うんでしたら、気が向いたら頼ってみましょうか、センパイのこと」
「うんうん、任せて…って、あっ! 今、センパイって呼んでくれたっ?」
 とっても自然な感じだったから聞き流しそうになっちゃったけど、間違いないよっ。
「そう呼ぶのも悪くないかな、って…あ、もちろん嫌でしたらやめますけど」
「ううんっ、嫌なんてそんなこと絶対ないし、とっても嬉しい…ありがとっ」
「そんなに喜ぶことじゃないって思うんですけど、センパイって本当に…」
 そういって微笑むあの子が何を言いたかったのかは解んないけど、嬉しいのは確かだもんっ。
「ほらほら、里緒菜ちゃんも願いごと書いてっ」
「そんなに急かさないでくださいって…今から書きますから」
 あの子はそう言うと短冊に何か書いて笹につけるの。
「何て書いたの? 見てもいいかな?」
「はい、別にいいですよ」
 ということで、さっそくあの子がつけたばっかりの短冊へ目を通してみる。
「えっと、『もっとだらだらしたい』…って、もう、里緒菜ちゃんっ?」
「あれっ、何か問題ありました?」
「う、う〜ん、そういうわけじゃないんだけど…」
 それに里緒菜ちゃんらしい、っていえばそうだし、私が何か言うことでもないんだよね…むぅ。
「まぁ、いいじゃないですか。センパイも一緒にだらだらしていいんですよ?」
「遠慮しとくよ、そんなの」
 そうは返したけど、里緒菜ちゃんとならそういう時間を過ごすのもありかも、ってちょっとだけ感じたりして。
 それに…今日は里緒菜ちゃんにセンパイって呼んでもらえる様になっただけで大満足かも。
 うんうん、本当に短冊に書いたみたいに頼れるセンパイになれる様に頑張らなきゃ。


    -fin-

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