第4.9章
「あ、今日はよく晴れてる…うんうん、よかった」
―朝、目を覚まして窓の外を見た私、思わず笑顔になっちゃう。
もう七月に入ったとはいえまだ梅雨明けはしてなくって、昨日も小雨が降る様なお天気だったから、こういうお天気で朝を迎えられたのは久しぶり。
「うん、それじゃ行ってこよっ」
それだけで気分がよくなるし、さっそく早朝のジョギングへ出発。
今日はあの日だし、なおさらこのままずっと晴れててもらいたいなぁ。
梅雨明けの発表はまだないけど、でも今日は午後になってもいいお天気のままで。
「うふふっ、すみれちゃん、今日はずいぶん楽しそうね」
いつも通りのアルバイトの時間、美亜さんがそんな声をかけてきたの。
「えっ、そうかな? やっぱりこんないいお天気だからかも」
「なるほどね、でも私にはそれだけじゃない様に見えるのだけれども」
「ん〜、そう見える? そんなことないって思うけど」
美亜さんにはそう言ってとぼけちゃったけど、実はそのとおりで今日はもっと心が楽しみになってくることがあるの。
でも、それを正直に言うとまたおかしなこと言われちゃうものね…本当、私とあの子はそういう関係じゃないのに。
「いらっしゃいませ…あっ」
うきうきしたままお仕事はじめて、しばらくたったとき…お店へやってきたお客さんを見て、ちょっと反応しちゃう。
「里緒菜ちゃん、いらっしゃいませっ。さ、こっちへどうぞっ」
「は、はぁ、どうも…」
私に促されて席につくのは、もちろん里緒菜ちゃん…今日は平日ってこともあって学校の制服着てる。
「全く…どうしてそんな嬉しそうなんですか?」
と、注文を取った後、その彼女にちょっと呆れ気味にそうたずねられちゃった。
「だって、里緒菜ちゃん、最近あんまりきてくれなかったし…」
春先には一緒にお散歩したりしてたんだけど、梅雨に入ってからそれもなくなっちゃってたの。
「だからやっぱり嬉しいな、って」
「はぁ、私がこようがこまいが、山城さんには関係ないって思うんですけど」
それは確かにそうかもなんだけど、でもわたしがこんな気持ちになってるのもまた確かなんだよね。
「それに、私がここにきたのも、事務所へ行く前に少し休んでいこうと思っただけですし」
「うん、知ってるよ」
そう、今日は彼女が事務所にお仕事の用事がある日だって解ってて、それでその前にこうしてここにきてくれるよね、って楽しみにしてたの。
別に約束とかはしてないんだけど、最近の彼女はそういうときはここにきてくれる様になってて…やっぱり何だか嬉しくなっちゃう。
「ん〜っ、やっぱりお散歩は楽しいよね…はいっ、チョコバーあげるねっ」
夕方前にはアルバイトを終えて、里緒菜ちゃんと一緒に喫茶店を後にして、そして一緒に歩きながらそんなこと言っちゃう。
「はぁ、ありがとうございます…けど、これって別に散歩じゃないと思うんですけど。私が事務所行くのに山城さんが勝手についてきてる、ってだけで」
「それでも春みたいにこうやって一緒にのんびり歩いてるのが楽しいんだよ…サクサクサク」
彼女の言ったとおり私が勝手についてってるだけだったりするんだけど、梅雨に入ってからこうでもしないと一緒に歩いたりできないんだもん。
「私なんかと歩いてるだけで楽しいとか、それ本当なんですか…サク、サク」
「うん、もちろん…サクサクサク」
「サク、サク…本当、おかしな人ですね」
「そうかな? 里緒菜ちゃんはこうやって私と一緒にお散歩するの、楽しくない?」
「別に楽しくないことは…って、ですからこれは山城さんが勝手についてきてるだけなんですけど」
「うんうん、解ってるって」
里緒菜ちゃんも嫌なわけじゃない、って解ってますます嬉しくなっちゃう。
「里緒菜ちゃん、もうすぐ梅雨も明けるって思うし、そうしたらまた一緒にお散歩とかしようよ」
だから、そんな提案してみる…んだけど。
「えぇ〜、ちょっと気が進みません。梅雨が過ぎたら次は夏ですし…暑い中歩くとか、嫌です」
「…あぅ、そっか」
彼女の性格ならそんなお返事くるのが自然なわけだけど、でもあんなはっきり言われちゃうとやっぱりちょっとしゅんってなっちゃう。
「でも、まぁ、こうやって今日みたいに勝手についてくる分には、好きにしていいですよ」
「わぁ、うん、ありがとっ」
その言葉も嬉しかったんだけど、それ以上に私がしゅんとしたときあの子が少し笑った気がしたんだよね…ちょっとどきっとしちゃった。
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