宮殿の外に出ると、空はすっかり晴れ渡り、先ほどまでの光景は夢みたいです。
「…あら?」
 そんなきれいな空から、それ以上に美しいかたが降りてまいりました。
 背に白い翼を持った戦乙女…精霊のお姫さまをお姫さま抱っこしております。
「エリノア、それにアリアさんも、ご無事で何よりでございます」
「ああ、リセリアも…一人で飛び出していったときにはどうなるかと心配したが、よかった」
 ゆっくりとリセリアの前に降り立つ美しい戦乙女…エリノアでございますね。
 リーサさんにラティーナさん、ジャンヌさんもご無事とのことで、よろしゅうございました。
「ラティーナさんも、先ほど意識を取り戻してくださいました…今、皆さんとご一緒にこちらへ向かっています」
「まぁ、それはよろしゅうございました…アリアさん、本当にありがとうございます」
「いえ、そんな、わたくしは…」
 ゆっくりと地面に降りるアリアさんは、力を使いすぎたのか少し足元がおぼつかないみたいですけれど、何とか大丈夫みたいです。
「リセリアは、ここで…兄に、会ったのか?」
「はい、灰になってしまわれましたけれど」
「そう、か…すまない。本来ならば、僕が決着をつけるべきところを…」
 悪魔に魅入られ、さらには悪魔憑きになった人の末路…アリアさんには解らなかったみたいですけれど、エリノアは一言で全てを悟られたみたいです。
「よろしいのですよ。エリノアのほうこそ、アリアさんをちゃんとお護りできたみたいで…お疲れ様でございました」
 あのかたへとゆっくりと歩み寄って、そのまま頭をなでて差し上げます。
「リ、リセリア…」
 照れた表情と同時に、少し複雑な表情もされてしまいました…どう、なされたのでしょう。
「リセリアは…僕のこの姿を見て、何とも思わないのか?」
「あら、戦乙女なエリノアでございますか? うふふっ、とってもかっこいいと思いますよ」
「…それだけ、か?」
 あら、もしかするとリーサさんたちはこのお姿を見てものすごい反応でもしてしまったのでしょうか…と、きっとそうではございませんね。
 エリノアがリセリアのことを想ってくださっている…だからこそ、不安になってしまうのでしょう。
 そのお気持ちは解ります…けれど。
「…もう、何を心配なさっていらっしゃるのですか?」
 すっと、あのかたを抱きしめます。
「リセリアは、エリノアがたとえ王女であってもなくても、戦乙女であってもなくても、そんなことは全く関係ございません…エリノアを愛している、という気持ちは全く変わりませんよ」
 もっとも、リセリアはずいぶん前からエリノアが戦乙女ではないか、と予想をしていたのですけれども。
「…ああ、すまない。リセリア…僕も、何があってリセリアのことを愛している」
 うふふっ、ありがとうございます。
 けれど、これでめでたしめでたし…というわけには、まいりません。
「エリノア…もう一人、愛するかたがいらっしゃるでしょう?」
「…な?」
「そのかたにも、お気持ちを伝えてあげてくださいまし。昨日も言いましたけれど、三人一緒に…でございます」
 きっと、エリノアは三人一緒、というところで戸惑っていらっしゃるのでしょうけれど…三人の想いが同じでしたら、何の心配もございません。
 そして、リセリアはゆっくりと離れます…あとは、お二人次第です。
 少し考え込むあのかたですけれど、リセリアが笑顔でうなずいて差し上げると、意を決したみたいで彼女のほうを向きます。
 どことなくさみしげな表情でリセリアたちのことを見守っていた、アリアさんのほうへ。
「アリア、僕は…リセリアのことを、護っていかねばならぬ」
「…はい」
「しかし、同時にアリアのことも護りたいと思う…戦乙女としての義務などではなく、僕自身の意志として」
 あら、さみしそうにしていらしたアリアさん、驚いてしまっております。
「僕は、これから先を…リセリア、そしてアリアの二人とともに歩んでいきたいと思っている。ずっと、ずっと…な」
 愛している、とまでは言えなかったみたいですけれど、エリノアにしては上出来でございますね。
 そのお言葉を受けたアリアさんは、泣きそうになりながら…あら、こちらを気にしております。
 やっぱり、リセリアに遠慮してしまっているみたいですので、やさしく微笑んで差し上げます。
 アリアさんがリセリアのことをお嫌いでしたらどうしようもありませんけれど…大丈夫ですね。
「僕やリセリアは、精霊であるアリアとこの世界で生きられる時間が違う…ゆえに、こちらの世界でずっとそばにいることはできぬであろう。それでも、僕はアリアを支えていきたい…よい、か?」
 たとえそうでも、それでもリセリアたちは決めましたから…その限りある時間を、最後まで一緒にと。
「…はいっ。わたくしも、エリノアさんと、それにリセリアさんと…三人で、これからもずっと一緒に、あたたかい時間を刻んでいきたいです…っ」
 涙をあふれさせてしまうアリアさんをやさしく抱きしめて差し上げるエリノア…。

 ―永遠…生命は限りあるものです、けれど。
 それぞれの想いは、永遠に続くものでしょう。
 三人の、強い想いの力は…。


    (第6章・完/終章へ)
   
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