上空へ浮かび上がったリセリアたちですけれど、もちろんエリノアを置いて逃げるというわけではございません。
「アリアさん、あそこへ…向かっていただけませんか?」
 空中で静止しているなんておかしな気分ですけれど、そうも言ってはいられなくって、さっそくそうお願いをいたします。
 そうして向かっていただいたのは、城内にある高い尖塔…かつてリセリアが幽閉されていたところです。
「多分、ここにいらっしゃる気がするのですけれど…」
 人一人が入れるくらいの大きさの窓から中をのぞいてみますと、中には二つの人影が…あぁ、間違いございません。
「リーサさん、ラティーナさんっ」
 窓を開け、アリアさんの手を離して中へ入ります…さすがにこの高さです、窓には特に鍵や格子などついておりませんでした。
「えっ、リ、リセリアさまっ?」「わわわ、窓から…これって、夢か幻?」
 メイドの服を着たお二人はさすがにびっくりしてしまわれましたけれど、特にお怪我などなく元気なご様子です。
「いえ、現実でございます。お二人をたすけにまいりました」
「ほ、本当にリセリアさまですわ…!」
 リーサさんがこちらへ駆け寄ってきて、涙をあふれさせながら抱きついてまいりました。
「リセリアさま、よくぞご無事で…肩のほうは、大丈夫ですか?」
「はい、この通りでございます。リーサさんとラティーナさんのお二人も、ご無事で本当によろしゅうございました」
 しばらく抱き合って再会の喜びを感じあいます。
 昔からずっとそばにいてくださったリーサさん…また、おそばにいてくださいましね?
「でも、リセリアさま、今までどうしていたの…?」「そうですわ、あの日突然消えたと思ったら、こんな高い塔の窓の外から現れるなんて…それにエリノアさまがいらっしゃいませんけれど、そちらのお美しいかたは?」
「あっ、わ、わたくしはアリア・ルーンファリアと申しますけれど、美しくなんて…」
 お二人の目がアリアさんへ向きますけれど、詳しい事情は後回しです。
「あの、ラティーナさん、今エリノアが下でジャンヌさんと戦っていらっしゃるのですけれど、ジャンヌさんの様子がおかしいんです」
 ここへきた理由、それはもちろんお二人のご無事を確かめるということが第一でした。
 けれどもう一つ、ジャンヌさんの顔見知りなラティーナさんでしたらあの人の異常な様子の原因を何かご存じなのでは、と思ったんです。
「ジャンヌさんは永遠の生命を得るために、アリアさんを斬ろうとしていらっしゃるのです…」
「えっ、じゃあ…アリアさんって、精霊の姫っ? た、大変だ…あ、あいつのこと、止めなくっちゃっ!」
 やっぱりラティーナさんはあの人の異変についてご存じでございました、けれど…。

 お城の正門裏では、まだエリノアとジャンヌさんのお二人が武器を交えておりました。
 他の兵士たちはエリノアの放った衝撃波などにやられたのか、全員が建物の壁際などに吹き飛ばされて意識を失っております。
「僕は、そなたを斬りたくはないのだが…アリアのこと、諦めてはもらえないのか?」
 鋭い視線で光り輝く剣を構えるあのかたは相変わらず凛々しいです。
「くっ、諦めるわけには…私は、何としても…!」
 対するジャンヌさんは息を切らせながらも槍を構えます。
「そうか、ならば仕方あるまい。アリアを護るため、僕は…」
「…エリノアさん、お待ちくださいっ」
 剣が振られようとしていた、そのとき…アリアさんの叫びが届き、その動きが止まります。
「ジャンヌ、もうやめてっ!」
「な、に…ラティーナ?」
 ラティーナさんの声も届いて…リセリアたち四人は、対峙するお二人の間に割って入るかたちで上空から降り立ちます。
「そうか、リセリアが…二人とも、無事で何よりだ」
「はい、エリノアさまもご無事で何よりですわ」「うん、でも…まずは、ジャンヌを止めなきゃっ」
 そうして、ラティーナさんがジャンヌさんに向き合います。
「空を飛んで二人をたすけ出したのか。しかし、ここに戻ってくるとは…精霊の姫、私に斬られにきたかっ」
「もうっ、まだそんなこと言ってんのっ? そんな方法で治したって、クレアちゃんは喜ばないよっ!」
「あいつが喜ぶかなど、関係ない…たった一つの、この方法に賭けるしかないんだっ」
「バカ…バカっ! そんなことして、ジャンヌはそれからどうなるのよ…!」
「私は、あいつさえたすかれば、後はどうなっても構わないっ」
「もうっ、何で解んないのっ? 自分が姉の犠牲のためにたすかったって知ったら、あの子は…!」
「私は、あいつがたすかったら姿を消す…それとも、このまま見殺しにしろというのかっ?」
 お二人の痛々しい言い合い…生命を狙われているアリアさんでさえ、いえ彼女が一番悲しそうで、泣き出してしまわれそうです。
「…二人は、何を言っているのだ?」
「はい…ジャンヌさんが永遠の生命を求める理由について、でございます…」
 その理由をまだ知らないエリノアに、先ほどラティーナさんからうかがったことを簡単に説明いたします。


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