第二章

 ―外の世界に出るなんていうことは滅多にないリセリア。
 そのリセリアが同じ場所で、似た状況の中でたすけていただけた…。
 これは、ただの偶然でございましょうか。
 いいえ、リセリアはそうは思いません。
 それはきっと、運命が引き起こした必然…そう思います。

 ―晴れた日の昼下がり、リセリアはお城の中で一番高い場所である尖塔へやってきていました。
 小高い丘の上にあるお城の中でももっとも高い場所ですから見晴らしもよく、さすがに人の動きまでは解らないながらも城下町もよく見えます。
 そうして思うのは、昨日のこと。
「昨日は、メイドとしてお城を抜け出し、あの中を通ったのですよね…」
 帰りも馬車に乗って無事にお城まで戻って…リセリアも、そしてリセリアの代わりにお城に残ってくださったラティーナさんのほうも、その正体がばれてしまうことはございませんでした。
「無事に、でございますか…」
 城下町から東のほうへと視線を移すと、そちらには平原が広がっています。
 昨日は、その平原の先にある森の中で異形の者に襲われたのです…本来でしたら生きて帰ってこれてなどいないところです。
 それが、今こうしてここにいられるのは、全て…。
「…リセリアさま、こちらにいらっしゃったのですわね」
「リーサさん…はい、昨日のことを考えておりました」
 昨日、あの場所に一緒にいたリーサさんが隣へやってまいります。
「悪魔の襲撃からわたくしたちをたすけてくださったかたのこと、ですわね」
「はい…あのときのことは、忘れられるはずもございません」
 リセリアたちの危機に颯爽と現れ、下級らしいとはいえ悪魔を一瞬で真っ二つにしてしまった人。
「せっかくお会いできましたのに、一言もお話しすることができませんでしたけれど…」
 悪魔を斬った後、あの人はすぐにその場を後にしてしまわれたのです。
 リセリアが呼び止めても、それを聞かずに…。
「声を聞くこともできませんでしたものね…。本当に、昨日の人はリセリアさまが昔お会いになられた運命のかたなのでしょうか?」
 リーサさんが疑問を呈するのも当然だと思います。
 だって、昨日のあの人は声を聞くことができなかったばかりか、そのお顔すらも拝見することができなかったのですから。
「やっぱり、あの兜の下の素顔が気になりますわ…」
 全身を包み込む漆黒の鎧を身にまとったその人は、口元以外の頭部全てを隠してしまう、やはり漆黒の色をした兜を身につけていたのです。
 ですから、正面からお顔を拝見しても、解ったのは口元のみ…。
 昨日のかたは圧倒的な強さとそんな格好、そして鎧についていたマントとともになびく、腰のあたりまであるリセリアのものよりもさらに長く、そして黒く美しい髪が印象的でした。
 何だか真っ黒ですけれど、唯一肌の見えていた口元を見る限り、肌はとても白かったです。
「そうですわ、リセリアさまが以前お会いしたという運命のかたの外見は、どんな感じだったのですか?」
 あっ、そういえばまだ言っておりませんでしたっけ…昨日は言おうとしたところで悪魔が現れてしまったのでした。
「はい、リセリアと同い年くらいの…長い黒髪のかたでございました」
「あら、昨日のかたとご一緒ですわ…他はいかがなのでしょう?」
 昨日のあのお姿では年齢が解りませんけれど、きれいな口元を見る限りではやはり同年代な気がいたしました。
「とてもお顔の整った、鋭い雰囲気を持ったかたでございましたっけ…」
「とてもお美しいリセリアさまがおっしゃるのですから、かなりのものなのでしょうね」
「あら、リーサさんったら…うふふっ。とにかく、あとは剣士の様な感じの黒っぽい服を着て、そして実際に剣を持っていらっしゃいました」
 あのときも、その剣でリセリアのことをたすけてくださったのですから…。
「なるほど…お顔や声は確認できませんでしたけれど、確かにかつてリセリアさまがお会いしたかたに似ておりますわね。そして何より、あの場面で現れてリセリアさまのことをたすけてくださった…となると、もう間違いなさそうですわ」
 そう言ったリーサさんは、満面の笑顔をこちらへ向けます。
「おめでとうございます、リセリアさま。運命の王子さまに、また巡り会うことができましたわね」
「ありがとうございます。けれど、これもリーサさんのおかげでございます」
「いえ、リセリアさまがずっと一途に想い続けてきた結果ですわ」
「そうでしょうか…うふふっ」
 夢にまで見た、あのかたとの再会…それが叶ったのですから、感謝をしてもしきれません。
「けれど…このままで満足をするわけにはまいりません」
 昨日は確かにお会いできました…これだけでもものすごい運命を感じます。
 それだけではなく、またたすけていただけて、確かな運命を感じることができました、けれど…。
「どうして、リセリアの呼びかけに応えてくださらず、立ち去ってしまわれたのでしょう…」
「それに、あの格好も気になりますわ…」
 リセリアのこと…忘れてしまわれたのでしょうか…。
 それに、リーサさんの言うとおりあの格好も気になります…以前お会いしたときも剣士みたいな服装でしたけれど、あれでは悪い人にも見えてしまいます。
 もちろん、リセリアたちのことをたすけてくださったあの人が悪い人であるはずがございません。
「また、お会いしたいです…」


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