序章
「父上、母上、きれいな場所ですね」
―一面の花畑の中、二人の大人に声をかける子供…それは、幼き日の僕の記憶。
もう過ぎ去ったもの…そして、二度と思い出したくない忌まわしき記憶。
そう、これは夢…。
もう、何度同じ夢を見ればよいのだろう。
「父上、母上、少しあの森の中へ行ってみます」
…行くな。
一体何度、届くことのない声で幼き日の自分へそう声をかけただろうか。
この先何が起こるかも知らず、無邪気に走り去る僕…。
「すっかり遅くなってしまったな…謝らないと」
数時間がたち、同じ場所へと僕が戻ってきた。
そして、その場所で目にしたものは…。
「…くっ!」
気がつくと、僕は自室のベッドの上にいた。
「また、あの夢か…」
ずいぶんとうなされてしまった…額に浮かんだ汗をぬぐいつつ、息を整える。
あの夢は、いつもあの場面で覚めてしまう。
あの場所、あの時に、僕が目にしたものは…。
「くっ…」
ゆっくりと身体を起こし、ベッドから降り窓のそばへ歩み寄る。
外はまだ夜…大きな月が闇夜を照らしている。
「父上、母上…見ていてください。僕が、必ず…」
月を見上げ、それに誓う。
この誓い、何があっても果たしてみせる。
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