〜幸菜さんの隠し事?〜

 ―冬の日、私…雪野真綾は何となくお外をお散歩。
 一応白いコートは着込んでいるけれど、日本の冬は母国の冬に較べると寒さも厳しくなくって過ごしやすいかしら。
「…あら?」
 そうした中、学園のそばにある公園へ足を運ぶと、ひと気のない中で歩いている人影を一つだけ見かける…のだけれど、それを見つけた瞬間に私の足はそちらへ駆け寄っていってしまっていた。
「こんなところで会えるなんて…幸菜ちゃん」
「…ふぁっ!? せ、先輩…奇遇ですね」
 駆け寄りながら声をかける私に驚きながらも微笑みかけてくるのは、私の理想の大和撫子な女の子、真田幸菜ちゃん。
 彼女も白いコートを着ていたけれど、彼女は普段白衣を着ていることも多いから、似合ってるわよね。
「うふふっ、奇遇…じゃなくって、これは運命よ? やっぱり私たち、運命の赤い糸で結ばれているのねっ」
 うんうん、そうでないとたまたましていた散歩の最中で出会うことなんてないでしょうし…嬉しくって、そのまま抱きついちゃう。
「ふぇ!? う、運命だなんて大げさです…そ、そんな非科学的なこと、信じませんからね!」
 あたふたしちゃう彼女はもう真っ赤になってる。
「もう、相変わらずつれないのね…でも、赤くなる幸菜ちゃんもかわいすぎて大好きだけど」
 本当にそのとおりで、我慢できなくってすりすりしちゃう。
「ふぁう!? も、もう、からかわないでください!」
「ふふっ、からかっていないのに」
 もっとも、あたふたしちゃう彼女をもっと見てみたい、っていう気持ちもないことはないのだけれど、ね?

「ふふっ…それで、幸菜ちゃんは、今日は何をしているのかしら」
 彼女を存分に堪能した後、ゆっくり身体を離してそうたずねてみるの。
「べ、別に、私は何もしてませんけど…しいて言えば、お買い物ついでにお散歩ですかね…」
 その答えどおり、彼女の手には買い物袋があった。
「そうなの、お買い物…何を買ってきたのかしら」
「え…? えっと、紅茶の茶葉を…」
 …あら、何だか一瞬固まられた様な気が…それに、買い物袋を後ろに隠されちゃった?
「あら、幸菜ちゃんは紅茶派だったのね…日本茶が似合う雰囲気なのに。どんなお茶を使っているのかしら…見せて」
「…ぎくり。み、見たって仕方ないじゃないですか! わわわわ…日本茶なんて飲みませんし、玉露の濃いやつとか好きじゃないですし!」
 うふふっ、もう、そんなあたふたしたり、擬音を口にしちゃったりして、解りやすいんだから。
「ほらほら、見せてみなさい? 見せないと…」
 意味深な笑顔を彼女へ向けてみる。
「み…見せないと、どうなるんですか?」
 今度はびくびくされちゃった…う〜ん、かわいい。
「うふふっ…それは秘密。でも、そうなりたくなかったら…今のうちに、出してみて」
「はぅ…うぅ…」
 にこにこして見つめる私に、彼女は観念したのか買い物袋を差し出してきたの。
「うふふっ、はじめからそうしていればよかったのに」
 それを受け取って中を見てみると…そこにあったのは茶葉は茶葉でも、紅茶ではなかったの。
「あら、これって…もう、どうしてあんな嘘ついたの?」
 そこに入っていたのは日本茶で、ちょっと不思議になっちゃった。
「だ、だってだって…お年寄りみたいじゃないですか! は、恥ずかしかったんですぅ!」
 ぷいっ、ってされちゃった…その仕草もやっぱりとってもかわいくて微笑ましい。
「もう、そんなことないのに、おかしなこと気にするのだから」
「うぅ、別にいいじゃないですか!好きなんです、日本茶が…濃いやつが!」
 顔を真っ赤にして向きになっちゃって、しょうがないのだから。
「もう、誰も悪いなんて言っていないし、むしろ幸菜ちゃんに似合っていていいと思っているのに…」
 そうそう、幸菜ちゃんは理想の大和撫子なのだから、やっぱりお茶も日本茶に決まっているわ。
「でも、そんなこと気にして隠し事をしようとしたりする幸菜ちゃん、かわいいっ」
 あぁ、やっぱり我慢できない…ぎゅってしちゃう。
「は、はうぅぅ…かわいくなんか…かわいくなんか…」
 あの子はとっても照れちゃったみたいで、私の胸の中で縮こまっちゃってる。
「もう、そういうところがかわいいのに…しょうがない子なんだから」
 さらにぎゅってして彼女のことをまた存分に堪能しちゃう。
 日本茶好きだなんて、やっぱり幸菜ちゃんは素敵な大和撫子ね…彼女の淹れるお茶、ぜひ飲んでみたいわ。
 クリスマスプレゼントは着物にしようと思っていたのだけど、お茶の道具でもいいかも…両方贈れば、さらに喜んでもらえるわよね、うんうん。


    -fin-

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