〜やきもち?〜

「ほら、そんなのでへばってちゃ強くなんてなれないわよ?」
「ふにゅん、厳しいにゃ…」
 神社の境内で竹刀を振るあたしと小さな女の子。
 あたしは雪乃ティナっていって、学校に通いながらこの神社で巫女の見習いをしてる。
 で、空いた時間とかで魔法とか弓とかの稽古をしてるんだけど、今日はちょうどこの子がいたから一緒に剣の稽古をしてるってわけ。
 その子はセニアっていって、どうもティセの子供らしい。
 つまり、未来からきたってことになるわね…そう、彼女と同様に。
「ふにゃ〜、もう嫌にゃ〜!」
「…って、こらっ!」
 もう…森の中に逃げてっちゃったわ。
 あの子はああ見えて特別な剣に選ばれた存在らしく、今はその剣の精霊みたいなものに稽古をつけてもらってるそう…なんだけど、今みたいな調子みたい。
 ま、子供なんだからしょうがないか…。
「…ん?」
 石段を上って境内にやってきた人影に気づくけど、あれって…。
「閃那じゃない、どうしたの?」
 そう、やってきたのはセニアと同じく未来からやってきた子で、あたしにとって特別な人。
 って、閃那ってばなぜかあたしを見ると森の中に走ってっちゃった?
「ど、どうしたのよ?」
 意味が解らないままにあたしもその後を追うのだった。

「はぁ、はぁ…」
 森の奥で息を切らして立ち止まってる彼女。
「も、もう、どうして逃げんのよ…?」
「って、ティ、ティナさんっ? どうして追ってくるんですっ?」
 それに追いついたあたしが声をかけると、びっくりした様子で振り向いてくる。
「い、いや、あんな感じで逃げられたら、普通気になるでしょ…」
「そんな…ティナさんは、私のことなんてどうでもいいんですよねっ?」
「…は? ど、どうしてそうなんのよ?」
 あまりに唐突すぎな言葉に、こっちが戸惑っちゃうわよ。
「とぼけないでください、私は知ってるんですから…ティナさん、この間境内で他の人と抱き合ってましたよねっ?」
「…へ?」
 いや、そんなことするわけないじゃない。
「あたしが閃那以外の人とそんなことするわけないでしょ?」
 閃那とだって、恥ずかしいってのに…。
「じゃあ、この前のは何だったんです? なでられたりして…」
 なでられ…っていうので、何のこと言ってるのかやっと解った。
 数日前、南のほうにある神社からきた巫女だっていう朱星雀って人が神社にきたときがあった。
 その人はものすごく馴れ馴れしくって、挨拶だって言って抱きついてきたりしたのよ。
 さらに、ツインテールにして隠してるあたしの猫耳をなでてきたりして…あたしがねころ姉さんやティセの姉妹だって知ってたから気づいたのね…。
 とにかく、あの人はもちろん閃那が疑ってるみたいな関係じゃない…説明して何とか解ってもらう。
「まぁ、その人については解りました…けど、ティナさん、本当に私のこと好きなんですか?」
 ま、まだ疑いのまなざし…閃那のこういうとこは、エリスさんに似たのね。
「そんなの、当たり前でしょ?」
「でも、ティナさんはいつも恥ずかしいとか言って…証拠を見せてくださいっ」
 えっ、しょ、証拠とか言われても、どうすればいいのよ…。
 しかもこんな森の中だし、ちょっと戸惑っちゃう…けど、彼女を想う気持ちに間違いはないってことは解ってもらいたいし、しょうがないわね…!
「…閃那?」
「何です…って、ん、んんっ!」
 あたしは彼女を抱き寄せ、そのまま唇を重ねた。
 あつい口づけ…本当に大好きだから何秒も続けられて、それに離したくないって思うんだからね…?
「んっ…閃那、解ってもらえた…?」
 ゆっくり唇を離して見つめるけど、ものすごいどきどきしてる…。
 一方の彼女は、ちょっととろんとした表情…。
「…閃那?」
「ティナ…嬉しいっ」
「って、わっ!」
 ものすごい勢いで抱きつかれて、思わずバランスを崩してその場に倒れこんじゃう。
「ティナ、もう…我慢できません。いい、ですよね?」
 ちょっ、こんな森の中で何言ってんのよ…!

「…あの、ティナさん?」
「ん、どうしたのよ?」
 一本の木の根元にもたれかかりながら二人寄り添いあって、あたしは彼女を愛おしく抱き寄せる。
「ティナさんって、子供が好きですよね。神社でよくみんなの相手をしてますし」
「ん…そう、なのかしらね…?」
 確かに今日のセニアとか、他にも神社に遊びにくる子の相手はよくするけど、あんまりそういうことは意識してなかったわね。
「私とティナさんに子供ができたら、どんな子になるでしょう…?」
「う〜ん、そうね…」
 閃那は叡那さんとエリスさんとの間にできた子供…だから、いつかあたしたちも…。
 今はまだそんな先のことなんてあんまり想像もできない…けど、この幸せを守っていけたら、ね…。


    -fin-

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