〜ティナさん、新たな趣味に目覚める？〜
「…ふぅん、学園内にこんなとこもあるのね」
―夏休みでひと気も少ない学園の校舎を一人歩くあたし…雪乃ティナ。
今のあたしはちょっとした理由で合宿に参加してるんだけど、他の参加者に先んじて出された課題も終わっちゃったから結構自由時間がある。
だからっていって何もしないって気にもならなくって、合宿に参加してる他の六人の様子を見に行ってみたりしてる…やっぱり、こういうのって全員で合格できたほうがいいに決まってるものね。
で、みんながどこで何してるのか確認するために色んなところを見て回ったんだけど、普段あんまり立ち入らない特別棟の中でちょっと気になる場所を見つけた。
まぁ、あんまり大きくはないスタジオだったんだけど、いくつかの楽器が置いてあるのが目につくの。
「楽器、か…」
ふと思い出すのは、夏休み前に閃那と見に行ったコンサート…ライブっていうんだっけ、とにかくそれのこと。
あれ以来、ちょっと興味を持ったことがあるんだけど、思い切ってやってみるのもいいかもしれないわね…。
みんなの課題について、今の段階では特に手伝えることはないってなったから、あたしは一人学園から木々に囲まれた社へ向かった。
学生寮にいなかったし、今日はアルバイトなんかもなかったはずだから、あの子がいるならそこかも…って思ったわけ。
あの子を探してる理由、それはもちろんさみしがらせない、あたしも会いたいっていうのもあるんだけど、今日はあのことを相談してみたい、っていうのもある。
「あの子はどう思うかしら…う〜ん…」
色々考えてるうちに、社の境内にたどり着いてた。
「どうかしたんですかにゃん？」
「…ふにゃっ!?」
で、突然かかってきた声に思わずびくってして変な声出しちゃったけど、目を向けたその先には…。
「あ、あによ、せ、閃那じゃない、もう…って、あ、あによ、その耳は？」
やっぱりここにいた閃那なんだけど、頭に…あたしみたいな猫の耳があったの。
「ふにゃ、また何かに憑かれたみたいですね…多分問題ないですにゃ」
「ま、またって、もう…まぁ、閃那なら大丈夫だって思うけど、油断はしないでよね？」
彼女は色々なものに憑かれやすい体質みたいで…叡那さんはその真逆っぽいものなのに、不思議な感じね。
「はい、ありがとうございます。ちなみに語尾はわざとです…」
「べ、別にお礼言われることじゃないし…って、も、もう、そんなことわざとしなくってもいいんだから。あたしも、それにねころ姉さんやティセもそんな語尾になってないでしょ、全く…」
「でもでも、猫耳っていったら語尾はにゃん、って相場が決まってませんか？」
「う、うっさいわね、そんな恥ずかしいことできるわけないでしょ？」
「え〜…ぶーぶー」
あによ、そんな目で見られたってするわけないんだから。
「ま、全く、せっかく合宿を抜け出して会いにきたっていうのに…」
相変わらずといえば相変わらずな彼女の様子に思わずそうつぶやく。
「何ですか？」
「な、何でもないわよ、もう…ま、まぁ、閃那が元気そうでよかったわよ」
そんなことを言いながら、思わずあの子の猫耳をなでてしまう。
「にゃ、にゃにゃ!?」
「…って、あ、ごめん、つい…！」
慌てるあの子に対してあたしも慌てて手を離すけど、あたしってば何してんのよ…。
閃那にとってつけ耳でない、感覚のある猫耳が自分についてることが新鮮だったみたいだけど、あたしも彼女が猫耳をなでたくなる気持ちが何となく解ったり…って、そうじゃなくって。
「そ、そういえば、閃那に少し聞きたいことがあったのよね…」
「はい、何ですか？」
こんなこと突然たずねたりしたらどう思われるかしら…ま、まぁ、聞いてみなきゃ解んないわね。
「ええ、えっと…もしも、あたしが魔法以外に何か趣味みたいなことをはじめる、とかなったら…おかしいとか、思う？」
「何でですか？」
「いや、だって、あたしって神社のお仕事以外は、ほとんど魔法の、あとはちょっと弓とかの練習ばっかしてきたでしょ？」
まぁ練習は趣味ってわけじゃないんだけど、あれだけ毎日やってきたらそんな面もあるのかも…。
「そんなあたしが、音楽…楽器を何かしてみたいかも、とか、おかしいって思ったり、しない？」
まぁ、そういうことなんだけど…なぜだかちょっと恥ずかしくなるわね。
「別に変だとは思いませんし、いいことだと思いますけど…急ですね？」
「そ、そう？ ならいいんだけど…」
似合わない、とか言われたらどうしようかと思ったんだけど…よかった。
「いえ、ね…ちょっと、前に閃那と一緒にコンサートに行ったときとか、色々気になっちゃって…」
あれは主に歌う人のほうがメインで確かにその人たちの歌声もよかったんだけど、あたしはそっちにも目が入っちゃったのよね。
「ああいうのも楽しそうだし、聴いてるだけじゃなくって実際にやってみるのもいいかも、なんて…ね？」
「なるほど…そういうことでしたか…」
「ええ、だから、お金も今まで特に使ってなかったから楽器も買えそうだし、思い切って挑戦してみるのも…って、どうして安心してるのよ？」
あたしの説明を聞いた彼女、なぜかほっと胸をなでおろしてた…？
「いえ、アニメの影響とか不純な動機で楽器をはじめる人を、私は知ってまして…」
「そ、そうなの…アニメの影響が不純なのかどうか解んないけど、長続きしなかったりしたら確かにあれね…」
でも、アニメってそんなに人に影響与えるものだなんて、なら影響を受けて魔法少女になろうとする人なんかも…って、さすがにそんな人はいないわよね。
あっ、何かのアニメにあたしによく似た魔法少女がいるそうだけど、あたしは全然影響されてないわよ？
「三日ともちませんでしたね…」
と、あの子がそんなことを呟いてる…？
「…へ？ それってどういう…」
「あっ、な、何でもないですよっ？」
あたふたされちゃったけど、まさか…いや、余計な詮索はしないほうがいいか。
「ふぅん、ならいいんだけど…えっと、ありがと。閃那が変とか言わなくって、ほっとしたわ」
思わず微笑んじゃったけど、一方のあの子は赤くなって何も言ってこない…？
「…って、閃那？ どうしたのよ？」
「…はっ!? 危うくティナさんの笑顔に萌え殺されるところでしたにゃ」
「…んなっ!? あっ、あによっ、へ、変なこと言わないでよね…！」
も、もう、こっちまで赤くなっちゃうじゃない…！
しかも、あんなに猫耳を揺らしたりして…思わずなでてしまった。
「ふ、ふにゃーごろごろ」
と、あの子、嬉しそうにすりすりしてくる…？
「…って、何やらせるんですかっ!?」
「ちょっ、そっ、そっちが勝手にしたんでしょっ？」
全く、もう…。
でも、そんな閃那もかわいらしい…って、な、何でもないわよっ。
-fin-
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