「…うぅ、でも、あの子はどこに行ったのれす?」
 一安心したのもつかの間、その子は涙目になってきてしまった。
「う〜ん、何だか放っておけない…私に似た人、というのも気になるし、探してあげようかしら」
 ここで待ち合わせをしていたそうだからそのうちやってきそうな気もするのだけれども…と思いながら周囲を見回してみたのだけれども。
「…って、あら、あそこ…誰かいない?」
 よく見てみると、屋上の物陰に人影らしいものがあるのに気づいたの。
「ふぇ?」
 あの子もそちらへ視線を向けるのだけれど、そこには確かに人影があって…。
「チッ…もう気づきやがりましたか。ラミアちゃんの無様…こほん、いえ、かわいい姿をそっと観察していましたのに」
 そんなことを言いながら、そこの人影がこちらへ歩み寄ってきた…のだけれども。
「あっ、やっぱり誰かいた…って、えっ? あれっ、何この人…私、ではないわよね…?」
 その現れた人というのが私にそっくりだったものだから、ちょっと固まってしまった。
「あっ、テニアどこに行ってたのれすか!」
「ふん、私は誰にも縛られないのよ…と、あら、貴女は…ふふふ」
 そうこうしているうちに、彼女は私の目の前まで歩み寄ってきた。
「ごきげんよう、真綾さん。どうも、ドッペルゲンガーです。私を見てしまったが最後、三日以内に不幸が訪れるでしょう」
「え、えっと、私のこと…知っているの? ドッペルゲンガーなら、おかしくないのでしょうけれど…でも、三日以内に不幸が訪れるだなんて、もうすぐクリスマスだというのに困るわ…」
「…嘘ですから、もっと面白くツッコミを入れてください」
「え、ええ、そうね、嘘か…ちょっと、突然のことで頭が回らなかったわ…」
 いけないいけない、しっかりしないと…ふぅ。
「えっと、この人が、貴女の待っていた人、なの?」
 改めて、あの子へそうたずねてみるけれど…ここまでそっくりなのなら、間違いなくそうでしょう。
「そうなのれす、うちの新入りなのれすっ!」
「先輩面しないでください、反吐が出ます」
 元気に答えてくれるあの子に対して私に似た人は即座にそんなことを言っちゃってる。
「新入り、って…貴女たちの関係、よく解らないわ? しかも、ずいぶんな言われようだし」
「この子口が悪いのれすぅ…くすん」
 私に似た人が口が悪いと、ちょっと複雑な気持ちかも。
「とにかく、血がつながっていない姉妹みたいなものれす。私たちとは規格が違うのれすよぅ」
 う〜ん、先ほどの会話から総合するに…。
「えっと、では、貴女がこの間あの子が起動させようとしていたアンドロイド…なの、ね?」
「経緯はしらねーですけど、おそらくはそうなんでしょう」
 なるほど、やはりそういうこと…もう完全に普通の人にしか見えないし、やっぱりあの子はすごいのね、感心しちゃう。
「でも、いつの間に起動していたのかしら…少しさみしいかも」
「私の起動に立ち会いたかったのですか…すみません」
 そうなのよね…あの子とそう約束をしていたもの。
「あっちの馬鹿がやらかしたのが全ての原因なので、マスターは悪くありません」
 と、私によく似た人…テニアさん、だったはずだけれど、ともかく彼女はそう付け加えながら彼女を待っていた子のことを見る。
「いえ、そんな、謝ることはないけれど、何かあったの?」
「多分、マスターも貴女の前で起動させたかったと思うのですが、何を思ったかそこの馬鹿が誤って起動させてしまったのですよ」
 ずいぶん呆れた様子でそう言われたけれど、あの子が私のいないところで起動させようとしてさせた、というわけでないのならいいか…起動させたい、という意思はあったみたいだし。
「…どうしたのれす? 元気ないのれす」
 と、テニアさんの言葉が耳に入っていなかった様子のあちらの子が少し心配そうに声をかけてくれた。
「…いえ、大丈夫よ、何でもないわ」
 こういう様子を見ると責める気にはならないし、やさしく微笑みながらなでてあげる。
「けれど…彼女の起動時に、何かしてしまったの…?」
 でも、そこは気になってしまったので、少したずねてみた。
「はう、つい…出来心なのれす…」
 と、目をそらされてしまった…う〜ん、この子が誤って起動させた、というのは間違いなさそう。
「そう…でも、起動してしまったものはもう仕方がないし、気にしなくてもいいわよ?」
 誰も悪くないでしょうし、またやさしくなでなでしてあげるのだった。

 そうして私の前に現れた、私そっくりなアンドロイド…幸菜ちゃんが作ったという、テニアさん。
 ちなみに彼女を探していたかわいらしい口調の子はラミアさんといって、永折先生が作ったアンドロイドらしいのだけれども、ともかくこんな新しい出会いがあったわけ。
 テニアさんの口が少し悪いのは私をイメージしたわけではない、らしいけれど…とにかく、この学園にいる楽しみがまた増えたわね。
 テニアさんなどのこと、今度幸菜ちゃんに会ったときにゆっくりお話ししたいものよね。


    -fin-

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