〜真綾さんによく似た人?〜
「ずいぶん寒くなってきたけれど…でも、やっぱり暑いよりはこちらのほうがいいわね」
―季節は秋を過ぎてもう十二月、すっかり冬となった中、私…雪野真綾はそんなことを呟く。
今年は例年より冷え込みが厳しい、というのだけれども、私の出身はもっと寒い国だったから、このくらいなら大丈夫なのよね…。
そんな私が向かったのは、学園の屋上…そこで度々あの子に会えているから、放課後はまずそこへ向かうのが日課になっているの。
もっとも、最近はそうした様に寒くなってきているから、あまりいないのだけれども…ともかく扉を開いて、屋上へ出る。
「うーっ…あっ! やっときたのれすね…もう、三十分くらい遅刻れす!」
と、屋上へ一歩足を踏み入れた瞬間、その様な声が届いたかと思うと誰かがこちらへ歩み寄ってきた。
屋上にはその人以外に誰の姿もなかった…のだけれども。
「…えっ? あの…遅刻って?」
私の前に現れたのはあの子…ではなくって、私と同い年か少し上くらいのきれいな女の子で、そしてこれまで会った覚えのない人。
そんな人が突然あんなことを言ってきたものだから、もちろん戸惑っちゃう。
「今日は研究所で定期健診の日なのれす! ついでに姉妹と顔合わせだって言ったじゃないれすかぁ!」
外見の割になかなかかわいらしい口調をした人なのだけれども…。
「…研究所? それに、姉妹って…何のことを言っているの?」
やっぱり全く身に覚えのないことばかり言われてしまって戸惑っちゃう。
「うー…? 型式は違いますが、私たちは姉妹みたいなものなのれすよ?」
「型式…? えっと、姉妹って、私と、貴女とが…?」
「大丈夫なのれす? 回路の調子がよくないのれす?」
「いえ、私は大丈夫のはずなのだけれど…懐炉の調子? 私はその様なもの、使っていないわよ?」
「…ふぇ?」
このくらいの寒さなら、そういうものに頼らなくっても十分だもの。
「うー、本当にどうしたのれす? それに、何だか今日は毒気が足りない気もしますけれども」
全くかみ合わない会話に、相手の子も戸惑いはじめちゃった。
「毒気が足りない、って…まぁ、戸惑っているのは事実なのだけれども…。う〜ん、これって…もしかして、人違いをしていらっしゃらない?」
というより、私としてはもうそうとしか考えられない。
「人違い、れすか?」
「ええ、そう。私としては、貴女の様な美少女に会っていれば忘れるはずないのだけれども…覚えがないし」
ええ、そうよね、この子は大和撫子という趣ではないけれど、モデルをしていてもおかしくないくらいの雰囲気の女の子だし、会っていれば記憶に残るはず。
「美少女だなんて、照れてしまうのれす!」
と、その子はといえば、照れた様に私のことをぺしぺしとたたいてきちゃう。
「それに、外見と少しギャップのあるその反応も、かわいいわ」
「えへへ…嬉しいのれす、頑張るのれす!」
「ふふっ、そんな喜ぶことなのかしら」
「褒められると嬉しいのれす」
「ふふっ、それは確かにそうよね…」
やっぱり、何だかとっても微笑ましい感じの子ね…こんな特徴的な子を忘れるわけないわ。
「…って、そうれす、人違いなんてそんなはずはないのれす、私の顔認識を甘く見てはいけないのれす! 八割の的中率なのれす!」
あら、会話が元に戻ったけれど、この子は顔だけで人の違いを判断しているのかしら…。
「う〜ん、八割の的中率ということは…二割は人違いの可能性があるのでしょう?」
「…頭いいのれす、確かにそうなのれす。では、貴女は誰なのれすか?」
「あら、その様に褒めても何も出ないけれど、私は高等部に通う雪野真綾…貴女の待ち人は私、ではないわよね?」
「違う名前なのれす、人違いだったみたいなのれす…でも、本当にそっくりなのれす」
うん、どうやら解ってもらえたみたい…だけれど、まだ小首をかしげているし、そんなに私に似ているというのかしら。
そう言われてぱっと思い浮かぶのは、あの子の作ったアンドロイドのこと…気になるわね。
「う〜ん、その人のお名前は何というの?」
「テニアというのれす、そういえば髪の色が違う気がするのれす…」
と、いけない、そういえば名前は聞いていなかったっけ。
「そう…髪の色が違うのなら、私とは別人だということが解ってもらえたかしら?」
「理解したのれす…でもそっくりなのれす。意地悪なのれす!」
「ええ、意地悪してごめんなさい?」
解ってもらえたのならそれでいいし、それにやっぱり何だか微笑ましくってついなでてしまう。
「って、あなた…それじゃ、ひょっとして、人間さんなのれす?」
「…ひょっとしなくっても、人間よ?」
と、落ち着いたところで今度はまたずいぶん唐突なことを言われてしまう。
「…はぅっ!? ラミア知らない人としゃべってしまったのれす! 怒られるのれす〜!」
「…えっ? い、いきなりどうしたの? 知らない人としゃべったら怒られる、とか…」
しかもものすごく慌てられてしまうものだから、また戸惑ってしまった。
「うぅ、知らない人についていったららめなのれす! マスターに教わったのれす」
そんなことを言われているなんて、やっぱり子供の印象を受けてしまうわ…。
「ふぅん、そうなんだ…でも、ついていったわけじゃないのだから、まだ大丈夫なのではないかしら」
「そうなのれす。まだ、間に合うのれす!」
「ええ、だからこのままわたしについていかなければ、大丈夫」
「解ったのれす!」
ふふっ、元気のいいお返事が返ってきたりして、心配いらないみたい。
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