〜盛夏の一コマ(ティナさん編)〜
―じめじめとした梅雨も明けて、いよいよ真夏を迎えた。
学校も夏休みに入って授業とかはなくなったけど、あたしの日々の過ごしかたはあんまり変わらないかも。
「…はぁっ!」
雲一つない上空で、バリアジャケットに身を包んでデバイスを手に一人魔法の練習。
「ふぅ…ちょっと、暑いわね」
それを二時間くらい続けたところで、上空で静止して一息つく。
ずいぶん汗をかいてしまってて、じっとしててもものすごく暑い…そういえば、今日は今年一番の暑さになるかも、ってことだっけ。
これだけ上空だと地上よりはずっと涼しいはずなんだけど、日の光も強いし、あんまり変わらない感じね…しょうがない、まだちょっとはやいけど、少し休憩を入れようかしら。
ゆっくり高度を下げていって…降りる場所は、涼も取りたいから大きな滝のあたりでいいわよね。
「…あっ、ティナさんっ!」
大きな滝のそばにゆっくり降り立つと、すぐそばからあたしを呼ぶ、そして聞き覚えのある声がした。
目を向けると、とってもよく見知った人がこちらへ歩み寄る姿が見えた。
「あによ、閃那じゃない…こんなところで、どうしたのよ?」
「私はちょっと滝に打たれにきたんですけど、そんなことよりティナさんは…まさか、魔法の練習ですか?」
今のあたしはバリアジャケット姿のままだし、まぁそうにしか見えない。
「こ、こんな四十度を越える気温の中でそんな…どのくらい練習していたんですか?」
「えっと、二時間くらいだけど…」
「なっ…何考えてるんですっ、そんなことしてたら倒れちゃいますよっ?」
「い、いや、そのくらい…」
「もうっ、とにかく日陰に行きましょうっ」
強く手を引っ張られて大きめの木の下に連れて行かれて、そのまま座らされてしまった。
「こんなにたくさん汗かいて…体調は大丈夫ですか?」
「だ、だから何とも…って、わざわざ拭かなくってもいいから…!」
「いいえ、ダメですっ。ティナさんは大人しくしててくださいっ」
強い口調で言われちゃって、ただただ黙って汗を拭かれることになった。
「全く、いつもこんな無理して…ティナさんは頑張りすぎですっ。どうしてそこまでするんですか?」
こんなに心配してもらえる、っていうのは幸せすぎることなのよね…。
「いや、その、もしものとき、閃那に迷惑かけちゃダメだし…」
大切な人はあたしが護る、って言いたいところなんだけど、あたしより閃那のほうがずっと強いし、せいぜいこんなことしか言えない…。
「…もう、全く、ティナさんは…」
「って、せ、閃那っ?」
いきなり頭をなでられ、あたふたしてしまった。
「頑張り屋さんのティナさんも好きですけど、もっと自分を大切にしてくださいね? 無理して身体を壊されたりしたら、私…」
さらに、そっと抱きつかれてしまった。
「そ、そうよね、悪かったわ」
あたしってこういうパターンが多いわね…あまり、心配かけない様にしないと。
と、抱きついてきた閃那が頭をもぞもぞ動かしはじめて、さらに息遣いが荒くなってきた?
そういえば、閃那も暑い中ここまで歩いてきたのよね…って!
「せ、閃那、大丈夫っ?」
「はぁはぁ、ティナさんの汗の香り…それに、やっぱりお胸も大きいです…」
「…んなっ、ちょっ、は、離れなさいっ!」
ほ、本当に何やってんのよ…!
「それにしても夏の過ごしかたが魔法とかの練習ばっかりっていうのは、感心できませんね」
何とか大事になる前に離れてくれた閃那だけど、そんなことを言ってきた。
「そ、そう? 何もしないで過ごすよりは、ずっと有意義だと思うんだけど…」
「そうかもしれませんけど、やっぱり夏らしいことをしないと…ということで、この夏はめいっぱい二人で過ごしましょう」
「…へ?」
まぁ、それも確かに悪くないわよね…。
「えっと、でも、閃那にはアルバイトがあるんじゃないの?」
「それは大丈夫です、学園は夏休みですから…二人でいっぱいお出かけしましょう」
あぁ、そういえばそうよね、学園内にあるカフェテリアだから、休みの間はお客さんもずいぶん減りそう。
「って、出かけるって、また東京のほうじゃないでしょうね?」
前の夏に閃那に連れて行かれたイベントを思い出す。
ものすごい暑いっていうのに、あの人ごみ…閃那がまた行きたいっていうなら別にいいんだけど、あんまり想像したくないわね…。
「あっ、あれですか? でも、最近は好きなジャンルもほとんど出ないですし、りんねさんが参加しないなら見送りでしょうか」
りんねさん、って…あぁ、あのときの人か。
あの人、あのイベント以来会う機会もないけど、ずいぶん謎が多い人よね…。
「それよりも、ティナさんと夏らしいこと…海とかプールとか、とにかく水遊びをしたり、花火をしたりしたいですね」
ふぅん…一人ではする気のないことだけど、閃那とか…。
「そうね、あたしも…いいと思うわよ?」
そのあたしの返事を聞いた瞬間、彼女は目を輝かせて勢いよくその場に立ち上がった。
「決まりですね…それじゃ、さっそく行きましょう」
「へ? 行くって、どこによ?」
「決まってるじゃないですか。夏の必須アイテム、水着を買いに行くんですっ」
妙に気合が入ってるわね…圧倒されちゃいそうになるんだけど。
「い、いや、水着ぐらい、学校指定のものがあるし…」
「それってスク水じゃないですかっ。確かにそれもマニアな方向で捨てがたいですけど…って、水泳の授業でそれを着てるティナさん、見てみたいです」
気合が入りすぎてて、怖いくらいになってきたわ…。
「とにかく、私がティナさんに似合う水着を選んであげますから、行きましょう。あぁ、楽しみです〜」
あたしにそんな彼女を止めることなんてできなくって…あぁ、これからどうなってしまうのかしらね。
-fin-
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