〜盛夏の一コマ・それから(アサミーナとかな様編)〜

 ―私たちの初ライブにもなった夏祭りも無事に終わって。
 夏梛ちゃんはまたすぐにお仕事が入ってきちゃいますし、そうでなくっても八月は中旬にかけて大きめのお仕事があったりしますけれど、でもお祭りの翌日から数日は私も夏梛ちゃんもお休みがいただけました。
 この時間を何か有効に使いたいな…って考える私、石川麻美の頭に、あるいい考えが浮かびました。
「えっ、海に行きませんか、ですか?」
「うん、夏といったらやっぱり海だと思うし、夏梛ちゃんと過ごせたら楽しそうって思って…ダメ、かな?」
 ということで、一緒に過ごすために待ち合わせてた喫茶店でさっそく提案してみました。
 まぁ、「やっぱり海」なんていっても、私はここ何年も海になんて行っていませんけれど…でもでも、夏梛ちゃんとなら行ってみたいんです。
「べ、別に別にダメじゃないですけど、この時期だとどこもどこも人でいっぱいなんじゃないですか?」
 確かに夏梛ちゃんの言うとおりで、人ごみは嫌いなうえ彼女をそんな中に連れて行くのももちろん嫌なんですけど…。
「あっ、そのことなら私に考えがあるから大丈夫だよ。それに、ちゃんとお休みできるところもあるから、一泊二日くらいで…どう、かな?」
「麻美とお泊り、ですか…」
 ちょっと考え込む夏梛ちゃん…。
「…あ、麻美がそこまでそこまで言うんでしたら、しょうがないですね…!」
「わぁ、ありがと、夏梛ちゃんっ」
「も、もうもう、そんな大きな大きな声あげないでくださいっ」
「あっ、ごめんね、嬉しくってつい…」
 ここの喫茶店は静かで落ち着いた雰囲気なところですし、気をつけなきゃ。
「全く全く…でも、水着とかはどうするんです?」
「あっ、それなら今から買いに行けば大丈夫だよ。今日は準備して、明日出かけよ?」
 大好きな夏梛ちゃんとお泊りで海へ…とってもどきどきしちゃいます。

 そうして迎えた翌日は快晴、とっても暑くはありますけれど、海に行くと思えば雨などよりはずっといいですよね。
「は〜い、では明日のお昼過ぎにまたお迎えにきますから、それまでお二人で楽しんでくださいね」
「ありがとうございます、如月さん」
 目的地まではマネージャの如月さんが運転する車で連れていっていただけました…目的地で降ろしてもらって、去っていく車を見送ります。
「それでそれで、今まで詳しい説明なしで連れてこられちゃいましたけど、ここはどこなんです? 立派な洋館があって静かなところですけれど…」
 あたりを見回す夏梛ちゃんの言葉どおり、私たちが降ろされたのは白い洋館の前…周囲は遠くにぽつぽつ家が点在しているものの静かで、そう遠くない場所から波の音が耳に届きます。
「うん、ここは私の実家の別荘だよ。プライベートビーチもあるから、二人で海を満喫できるね」
「わっ、そ、そういうことだったんですか…。確かに確かにそれでしたら他の人を気にしなくってもいいですけど、麻美ってやっぱりお嬢さまなんですね…」
 といっても、私が今まで海にこなかった、それに両親は海外で過ごすことが多いですから、ここはあまり利用したことはないんですけど…とにかく、荷物を持ってさっそく中へ入ります。
「中も立派立派です…けど、静かすぎです。他に誰かいないんですか?」
「えっ、ここには私たち二人きりだよ。夏梛ちゃんと二人だけで過ごしたいんだもん」
「は、はわはわ、も、もう、そんなそんなこと…!」
 もう、夏梛ちゃんったら、そんなに顔を赤くしちゃったりして、かわいいんだから。
 でも、ここで明日まで二人きりだって思うと、私もどきどきしちゃいます。

 別荘にはすでに食材など必要なものは用意されていますから、二人で過ごすのに何の問題もありません。
 お昼ごはんは私が作って、それを食べてからいよいよ海へ向かいます。
 お互い水着に着替えて、別荘の裏から外へ…。
「わぁ、すごいすごいです…きれいな砂浜が広がってます」
 そこからの景色に感嘆の声をあげる夏梛ちゃん…そう、別荘の裏側はすぐに砂浜、そして海になっているんです。
 他に誰もいない、私たち二人だけの場所…夏梛ちゃんに気に入ってもらえたみたいで、よかったです。
「えと、夏梛ちゃん、じゃあまずは…上着を脱ごっか?」
「そ、そうですね…」
 水着に着替えていたもののここまで上着を羽織っていた私たちですけれど、同時にそれを脱ぎます。
 その下は、昨日お互いに選びあった水着姿で…。
「わ、麻美…」
「…わぁ〜、夏梛ちゃん、素敵っ」
 普段ゴスいおよーふくをよく着ていてそれがとっても似合っている夏梛ちゃんですから水着もフリルのたくさんついたものを選んであげたんですけど…うんうん、大正解。
「夏梛ちゃん、とってもかわいいっ」
「そっ、そうですか? こ、子供っぽいんじゃ…」
「そんなことないよ、とっても似合ってて、ぎゅってしたくなっちゃうくらいかわいいんだからっ」
 あぁ、夏梛ちゃんの水着姿を見られちゃうなんて、とっても幸せ…。
「も、もうもう、そんなことばっかり言って…!」
 うふふっ、照れてる夏梛ちゃんもかわいすぎます。
「あ、麻美だって、とってもとってもかわいいくせにっ」
「…えっ?」
 と、顔を真っ赤にした彼女の言葉に、少し固まっちゃいました。
「も、もう、夏梛ちゃん? 私なんて…」
「私は冗談なんて言わないんですから…麻美だって、私をどきどきさせちゃうくらいかわいいんですよ?」
「そ、そんな、夏梛ちゃん…」
 ど、どうしよう、私をそんなふうに言ってくれる人なんていなかったのに、夏梛ちゃんが…。
 はぅ、嬉しいですけど、恥ずかしいです…!
「顔を赤くしておろおろする麻美、かわいいです」
「も、もう、そんな、夏梛ちゃん…!」
 完全にいつもと逆になっちゃいました…けれど、夏梛ちゃんにああ言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいな。
「…でもでも、やっぱりそのお胸とかは私と全然全然違います…」
「…きゃっ? か、夏梛ちゃん、どこ見てるのっ?」
 思わず手で隠しちゃいそうになりましたけれど…ここには夏梛ちゃんしかいないんですし、彼女にでしたら、見られてもいいですよね。


    -fin-

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