〜すみれさんの想い〜

 ―先日、カフェテリアであの子、片桐里緒菜ちゃんに会ってから、私…山城すみれの心の中がちょっと落ち着かない。
 ううん、あの子と出会ってから今まで多かれ少なかれこういう感じには結構なったんだけど、今回はちょっと酷いかも。
 そんな気持ちを落ち着ける意味もあって、そしてそのあの子が今日はお仕事だから、その無事をお願いするためにも、カフェテリアのことがあった翌日、私はジョギングがてら町外れの神社へ足を運ぶ。
「う〜ん、私の気持ち、って…」
 石段を登る私だけど、やっぱり自然とあのことを考えちゃう。
「…山城センパイ? 奇遇奇遇です、こんなところで会うなんて」
「…へ?」
 少し上のほうからかかってきた声に顔を上げると、そこには見覚えのある人影。
「あっ、誰かと思ったら夏梛ちゃんじゃない…うん、奇遇だねっ」
 声をかけてきたのは同じ事務所の後輩な灯月夏梛ちゃん…石段を駆け上って彼女のそばへ行く。
「センパイもトレーニングですか?」
 そんなこと訊ねてくる彼女はいつものゴスいおよーふくじゃなくってジャージ姿…まぁ、私もそんな格好なんだけど。
「ん、そうだね、それとお参りかな…夏梛ちゃんもトレーニングみたいで、お疲れさま」
「いえいえ、いつもの日課ですです」
「やっぱり毎日頑張ってるんだね…えらいえらい」
 と、ここでちょっと…ううん、結構な違和感に気づく。
「あれっ、今日は麻美ちゃんはいないの?」
「麻美は今日は別のお仕事お仕事です」
「そっか…」
 だから夏梛ちゃんがどことなくさみしげに見えるわけだけど、その二人っていったら…。
「あっ、そういえば昨日、夏梛ちゃんと麻美ちゃんの写真集を見たよ」
「ふぇ!? ありがとうありがとうです」
「ううん、そんな…」
「…って、センパイ、麻美のファンだったんですか?」
「…あれっ、どうしてそうなるの?」
「あんな高い高いものですから、よほどのファンじゃないと買わない気がして…」
「わっ、あれってそんな高かったんだ…値段までは見てなかったよ」
 そこもちょっと驚いちゃったけど、私が気になったのはちょっと別のところ…。
「それにしても、自分のファン、って考えにはならないんだ…謙虚なんだね」
 麻美ちゃんのファン、って限定してたもんね…二人の写真集なのに。
「麻美はかわいいですから、仕方仕方ないです」
「そんなこと言って、夏梛ちゃんだってかわいいくせに」
「私、私はかわいくなんかないですよ。小さい小さいだけですし」
「…あれっ、夏梛ちゃんまでそんなこと言うんだ…う〜ん、何だか意外な感じ」
「そ、そうですか? 意外意外ですか?」
 彼女にとっては私の言葉が意外だったみたいで不思議そうにされちゃった。
「うん、ちょっと自分に自信を持ってない感じの麻美ちゃんなら解るんだけど…」
「それはそれは、私も私も自分に自信があるわけじゃないですから…」
「う〜ん、やっぱりみんなそんなものなのかな…?」
 アイドルとして堂々とステージに立ってる印象の強い夏梛ちゃんでもああ言うんだから、そうなのかも。
「そんなそんなものだと思うのですよ?」
 夏梛ちゃんもうなずくし、それはそれでいい…けど。
「まぁ、でも実際里緒菜ちゃんや夏梛ちゃん、麻美ちゃんはかわいいんだけどね?」
 第三者から見れば、これは間違いないと思う。
「そうですね…麻美と里緒菜ちゃんはかわいいかわいいです」
 う〜ん、でもあくまで自分は抜いちゃうんだ…。
「もう、全く、だから夏梛ちゃんもかわいいって…って麻美ちゃんから言われたりしない?」
「よ、よくよく言われますけど…麻美のほうがかわいいかわいいです!」
 わっ、力説されちゃった…けど、気持ちは解るかも。
 私だって、私のことをかわいいって言ってくる里緒菜ちゃんは言いすぎだって思うし…まぁ、私と違ってみんなは本当にかわいいんだけどね?

「あ、そうだ、ちなみに写真集買ったのは私じゃなくって里緒菜ちゃんだったんだよ」
 そういえば、と思い出したことを伝えてあげる。
「もうもう…ほしいなら言って言ってくれれば…」
 それを知った夏梛ちゃんはそんなことつぶやく。
「夏梛ちゃんと麻美ちゃんはお友達だから、って買ったみたいだよ」
「…もうもう!」
 あっ、赤くなっちゃった。
「もう、照れなくってもいいと思うんだけど」
「でもでも恥ずかしい恥ずかしいです!」
 やっぱりかわいいよね…麻美ちゃんが好きになるのも解るなぁ。
「ふふっ、これからも里緒菜ちゃんと仲良くしてあげてね」

「そういえばそういえば、珍しい珍しいです、センパイが神頼みだなんて」
 と、夏梛ちゃんがそんなこと言ってきた?
「そうかな、結構日課になってるけど…って、まぁ、自分のことならそんなことしないんだけど、ね?」
「…ひょっとして…」
 私の言葉を受けた夏梛ちゃん、何か考え込んだみたいになる?
「…ん、どうしたの?」
「ひょっとしてひょっとして、里緒菜ちゃんと何かあったんですか?」
「…へっ? わっ、わわっ、ど、どどどどうしてっ?」
 まさに昨日のことを言い当てられた様な感じがして、真っ赤になってあたふたしちゃう。
「適当適当だったんですけど…図星だったですか?」
「え、え〜と…まぁ、図星っていうか…」
 う〜ん、適当で言い当てられちゃうとか…。
「…あっ、で、でもでも、里緒菜ちゃんは別に何もしてないからねっ?」
 そうそう、これは私が勝手にあれこれ考えてるだけだもん。
「…じゃあじゃあ、どうしたんです?」
「え、え〜とね、私、その…里緒菜ちゃんと一緒にいると、ちょっとおかしくなるみたいなんだよ…」
 せっかくの機会かもしれないから、私のこの気持ちについて話してみることにした。
「ものすごくどきどきしちゃったり、今まで感じたことないくらい幸せな気持ちになったり…こ、これって、え〜と…」
 でも、話すとやっぱりとっても恥ずかしくなる上、これ…もう、私にも答えが見えてるのかもしれない。
「ふむふむ…それは重い重い病かもですね」
 そんな私の言葉を聞く夏梛ちゃんはなぜかとってもにこにこしてる?
「う、うぅ、これってもしかして…や、やっぱり、あれなのかな…?」
「すみれセンパイはどう思うんですか?」
「え、え〜と、も、もしかして、こ、こ…恋、なのかな、なんて…?」
 …は、はぅっ、つ、ついに自分で認めちゃった…!
 とっても恥ずかしくなって、真っ赤なまま思わずうつむいちゃうけど、夏梛ちゃんは微笑ましげに笑ってきちゃう。
「…なっ、なな、何笑ってるのっ? や、やっぱり、おかしかったかな…うぅ〜」
 今まで私は恋なんてしてこなかったし、まして相手はあんな素敵な後輩…そう思われてもしょうがない。
「おかしくないです、センパイは里緒菜ちゃんが好きなんですね」
「…そ、そう? 私が恋するとか、しかも里緒菜ちゃんみたいなかわいい子にとか、おかしくない?」
「でもでも、大好き大好きなんですよね」
 満面の笑顔でそうたずねられちゃう。
「う、うぅ、だ、大好きだよ、もうっ…はぅ、は、恥ずかしい…!」
 でも、この想いに気づいたこと、そして認めたことに後悔とかはないかな。
「ようやくようやく、素直になってきた感じですか?」
「…って、へ? 何のことかよく解んないんだけど…と、とにかくっ、里緒菜ちゃんが私のことどう思ってるか解んないんだし…!」
 そして今の関係を壊したくないし、どうすればいいんだろう…。
 夏梛ちゃんはまず自分で考えてみてください、って言ってきて…うん、これはちゃんと考えなきゃ。


    -fin-

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