〜アサミーナとかな様と雪のお社〜
―朝、目が覚めてカーテンを開けると、外にはいつもとちょっと違った景色が広がっていました。
「わぁ…夏梛ちゃん、見てみて」
「んみゅ…もう、朝からどうしたんです、麻美…?」
まだベッドでお布団にくるまってる夏梛ちゃんに思わず声をかけると、彼女はまだ少し眠そうにしながらも起きてきてくれました。
「うん、窓の外が…一面の銀世界になってるよ」
「銀世界、って…わっ、ほんとほんとです。夜のうちに降り積もったんですね」
改めて一緒に窓の外を見て、彼女も思わず声を上げちゃいます…そう、外は雪が降り積もっていて、見慣れた街が白い世界になっていたんです。
このお部屋はマンションの高い階層ですから、よりいい景色…。
「きれいきれいですけど、ちょっとちょっと寒そうです…でもでも、こんなに雪が積もっていたら、雪遊びもできちゃいそうです」
「わぁ…それ、とっても楽しそう。雪遊びなんてしたことないし、ちょっとやってみたいかも」
「えっ、麻美ったら、そうなんですか?」
驚かれちゃったけど、私って友達がほとんどいなかった上にお家の中ですごすことが多かったから…。
「じゃあじゃあ、もう晴れてるみたいですし、今日は思い切って遊んじゃい…って、今日は収録がありましたっけ」
「えぇ〜、せっかく夏梛ちゃんと遊べるって思ったのに…こんな雪が積もってるんだし、お仕事お休みにならないかな?」
「もうもう、何言ってるんです、大切なお仕事をお休みしようなんてダメダメです」
はぅ、怒られちゃった…でも、私も夏梛ちゃんも強く望んでこのお仕事をしているんだし、それにお仕事があるっていうのは幸せなことなんだから、彼女の言うとおりです。
でも…でも、雪がこんなに積もるなんてあんまりないことだし、やっぱり残念なものは残念です。
そんながっかりしている私を見かねたのか、彼女はため息をついちゃいました。
「…しょうがないですね。じゃあ、お仕事が終わってから、ちょっとだけ遊びましょうか」
「わぁ…夏梛ちゃんありがと、大好きっ」
嬉しくって、思わずそのままぎゅって抱きついちゃいました。
「はぅはぅ、麻美ったら…しょ、しょうがないんですから…」
「うふふっ、夏梛ちゃん…」
彼女のぬくもりが私をより幸せにしてくれて、そのまましばらく抱きしめ続けちゃいました。
今日は街にあるスタジオで収録がありますけれど、そのあと二人で遊ぶことにしました。
場所は、町外れにある神社…あまり人のこないところなので雪が踏み荒らされず残っていそう、っていうこともありましたけれど、そこは私たちにとって特別な場所でもあったから。
初詣で訪れたそのお社で、私は夏梛ちゃんからいつかの約束のお返事をもらえて…それで今、こうして私のお部屋で二人一緒に暮らすことができたんだから。
夏梛ちゃんが恥ずかしがるからお部屋に飾ってあった夏梛ちゃんのポスターとかは外しておいたけれど…うん、彼女本人がいるんだもの。
お仕事の関係でどちらか一方が外泊になることもあるけれど、大丈夫…こうして一緒に暮らせるだけで、まさに夢みたいなことなんだもの。
雪の降り積もった外は寒いけれど、大好きな夏梛ちゃんとぎゅって手をつなげば大丈夫…うん、今日も頑張ろう。
「はぅ、急がなきゃ…!」
まだずいぶん雪が残っていて足元がおぼつかない道、それでも私は走ります。
だって、夏梛ちゃんを一人、こんな寒い中で待たせちゃうわけにはいかないもの…!
「もう、どうしてこんな日に限って、私のほうの収録時間が長かったのかな…」
そう、こんなことは滅多にないんですけど、今日は私のほうが夏梛ちゃんよりもお仕事の量が多かったんです。
お昼には収録の終わった夏梛ちゃん、一緒にお弁当を食べた後、一足先にお社に向かったんだけど…その後、意外と私の収録が長引いちゃいました。
だから、この間夏梛ちゃんは…そう思うといてもたってもいられなくって、滑りやすくなっているお社の石段も一気に駆け上っていっちゃいます。
「はぁ、はぁ…つ、着いた…」
石段を上り切ったところで完全に息を切らせちゃって、足を止めて息を整えますけれど…そ、そんなことより、夏梛ちゃんは?
あたりを見回すと、ちょうどお社の前にあの子の姿があったけど…もう一人誰かいて、楽しそうにお話ししてます?
その人はちょっと猫耳にも見えるリボンで髪をツインテールにした、そして巫女さんの装束を身にまとった女の子…あんな服装ですし、このお社の人ですよね。
ちょっと妬けちゃいそうになりましたけれど…ううん、夏梛ちゃんが一人でさみしい思いをして待っていた、なんてことになっていなくってよかったですよね。
「夏梛ちゃん、お待たせ…遅くなっちゃって、ごめんね?」
だから、息を整えてから、笑顔でそう声をかけながら駆け寄ったの。
私が駆け寄ると、巫女さんは私たちに一礼して立ち去っちゃった…私たちの関係を察して、っていう感じだったよね。
「麻美、気にしなくってもいいですよ? それより、お仕事お疲れ様でした」
「うん、ありがと、夏梛ちゃん」
あの子に微笑まれて、さっきまでの疲れも一気に吹き飛んじゃいました。
うんうん、夏梛ちゃんも元気そうだし…って、あれっ?
「ねぇ、夏梛ちゃん…お社、あんまり雪が残ってないね…」
思わずあたりを見回しちゃいましたけど…そう、お社の境内は思いのほかすっきりしちゃっていたんです。
「あっ、えとえと、さっきの巫女さんがお掃除しちゃったみたいです」
「そ、そうなんだ…」
お社の端には雪だるまがあったりして、その奥の森の中はまだ雪が残っているみたいですけど、森の中はちょっと不安ですよね…。
「でもでも、神社の裏手は雪が掃除されずに残っているそうですから、そっちで遊ばせてもらいましょう?」
「わぁ…うん、それじゃさっそく行こ?」
ほっとしちゃった私は彼女の手を取って、一緒にお社の裏に回ったのでした。
「んしょ…っと、うん、これで完成だね」
「はい、私と麻美、二人の雪だるまですね」
手付かずの雪が残っていたお社の裏で、私と夏梛ちゃんは二人で雪遊び…高校ももう卒業した歳ですけど、たまにはこんなのもいいですよね。
夏梛ちゃんがかわいらしい雪うさぎを作って私もそれを真似てみたりと色々したのですけれど、最後に…もうすぐ日が落ちちゃいそうな中で作ったのは、寄り添いあう様に並ぶ二体の雪だるま。
それは、私と夏梛ちゃん、二人を表現しているの。
「うふふっ、私たちも、こうして寄り添いあっていきたいね」
「そ、そんなのそんなの当たり前です…!」
大好きな夏梛ちゃん…これからも、一緒に色んなことをしていこうね。
-fin-
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