〜選ばれし七人(ティナさん編)〜

 ―あたし、雪乃ティナが通う私立天姫学園。
 そこは特殊な力を持つ生徒の集う学校だからか校風も普通の学校とは少し違っているみたいで、特殊な行事なども多い。
 かといって勉学をおろそかにしてるってわけでもなくって補習とかもあるみたいだけど、そんなものはきちんと授業を受けてて試験の成績も問題ないあたしには関係ない。
 そう、関係ない…って、思ってたんだけど。
「…はぁ、どうしたものかしらね」
 明日から夏休みって中、あたしは神社の境内でため息をついちゃってた。
「閃那には、どう説明しようかしら…」
 愛しい人の名前を口にするけど、今はかえって気持ちをより重くさせる。
「せっかくの夏休みが合宿でつぶれる、なんて言ったら…悲しまれるに、決まってるわよね…」
 そのことを考えると気が重くって、またため息が出る。
「夏休みがつぶれるって、どういうことですか?」
「うん、何かね、あたしが休み時間を使って魔法の練習をしてたのがどうしてか知らないけど問題になっちゃって、天姫トライアルってのに参加することに…って、んなっ!?」
 後ろから聞こえた質問に普通に返事しちゃったけど、途中でおかしいことに気づいてはっと振り向くと、そこにはアイスを片手にしつつもこっちをじっと見てきてるあの子の姿が…。
「え、えっと…せ、閃那…?」
「ちゃんと…説明してくださいますよねっ」
 笑顔の彼女だけど、目が笑ってない…。
「え、え〜と、つまり、その…天姫学園で成績や素行の悪い生徒を最大七人集めて夏休みの一ヶ月間に合宿を行う、ってのがあるんだけど、それにあたしも選ばれちゃった、ってことで…」
「そうですか…で、何が理由でそうなっちゃったんでしょう?」
 だ、だから、笑顔が怖いって…。
「え、え〜と…その、休み時間とか、お昼休みとかに、ずっと空で魔法の練習をしてたのが、なぜか問題にされたみたいで…」
「あら、そうなんですか。熱心なのはいいことです」
「え、えっと、そう…? あ、ありがと…」
 相変わらず笑顔の彼女なんだけど、それでいてものすごい威圧感で思わず後ずさりしそうになる…。
「合宿もそうですけど、その練習というのも私初耳な気がするんですが…気のせいでしょうか」
 やっぱり彼女は相変わらずの雰囲気で…もしかしなくっても、ものすごく怒ってるわよね…。
「え、え〜と、天姫トライアルのことはこれから伝えようと思ったのよ…」
 これは本当…だって、あたしがこのこと伝えられたのもついさっきだし。
「れ、練習のほうは、や、休み時間なんだし、別に何も問題ないって思った…ん、だけど…」
「この時代の校則も、未来と変わってないなら、学園内で一部施設と緊急時以外での過度な能力使用は禁止されてたはずですけど…」
「あっ、え、え〜と…そ、空ならいいかな〜、って…」
「世の中には領空というものがありまして…残念ながら学園の敷地内でしたらアウトです」
 そう言ってにこってされちゃったけど、あたしが練習してたのは敷地外の空域がほとんど…なんて、わざわざそんなこと言わなくってもいいわよね…。
「…ふふふ、そんなに私が怖いですか?」
 と、人の心を見透かした様な彼女に、エリスさんから受け継いだと思われる悪魔のしっぽが見えて…?
「そ、そんな、閃那のことが怖いなんて、そんなことあるわけないけど…ご、ごめんなさいっ」
 あたしのせいでこれ以上怒らせたくないし、頭を下げる。
「あらあら、何で謝るのかしら…変なティナさん」
「い、いや、本当にごめんなさい、閃那…これから気をつけるし、合宿のときも、時間があるときは閃那に会う様にするから…!」
「…むぅ」
 あ、閃那の顔から笑顔が消えた…?
「べ、別にいいもん…」
 手にしたアイスを食べきった彼女はしゅんとした様子になっちゃって、胸が痛む…。
「よ、よくないわよ…あ、あたしは、できることならずっと閃那と一緒にいたいんだから」
 そんな彼女を見るのは嫌で、ぎゅっと抱きしめてしまう。
「しょうがないですね…その代わり、今日は思いっきり甘えさせてもらいますからね?」
 よかった、ちょっとは元気になってくれたみたい…だけど、あのことはまださすがに言えないわね。
 天姫トライアルで出された課題…魔法を使わずに閃那に勝つ、とか…。
 魔法を使っても無理でしょうに、そんなのどうしたらいいのか…そもそも閃那と戦うとか、厳しすぎるわね…。


    -fin-

ページ→1


物語topへ戻る