〜選ばれし七人(いちごさん編)〜

 ―私、松永いちごは私立天姫学園に通う高等部一年生。
 特殊な能力のある人の集うここにおいて私の持つ能力はかなり地味なんですけど、別にそんなところで成績が決まったりするわけじゃありませんし問題ありません。
 普通の教科の成績も悪くありませんし、生徒会のお手伝いとかもしているんですから全て何ら問題ない…と、思っていたんですけど。
「はぅ、どうしてこんなことに…」
 もう明日から夏休みっていう中、いつもどおり学園内にあるスタジオへやってきた私なんですけど…ため息をつきながら椅子に座り込んじゃいました。
 う〜ん、これじゃとても練習する気持ちになれないです…。
「…どうか、したのかしら?」
「…ふぇっ?」
 と、すぐそばからかかってきた声にびくっとして立ち上がりましたけど、そこにいらしたのは…!
「あっ、お、お姉さま…!」
 そう、私の大切なお姉さま、流々先輩だったんです…!
「ふふ、そんなに落ち込んで、さみしかったのかしら、私のかわいい小花さん…」
「はっ、はわわっ、えと、えと…!」
 いつの間にいらしたのか気づかなかったんですけど、ともかくそのお姉さまが今にも私を押し倒さんが勢いで迫ってきますから、あたふたしちゃいます。
「そっ、そそそれもありますけど、その、えっと…」
 落ち込んでいた理由をちゃんと伝えないといけないんですけど、怒られたり呆れられたりするんじゃないかと思うと言葉を詰まらせちゃいます。
「もう、はっきり言ってくれないと…食べちゃうわよ」
 お姉さまはそうしてさらに迫ってきて…!
「は、はわわっ、え、えと、じ、実は、その…夏休みの一ヶ月間、合宿に出ることになっちゃいまして…」
「あら、合宿…?」
 慌てながらの説明にお姉さまは首をかしげて…と、そのとき、スタジオの端から大きな物音がしてきますっ?
「…って、ふぇっ!?」
 全然驚かないお姉さまに対して私は思いっきりびくってしちゃいましたけど、何ごとですっ?
「…に、にゃあ〜」
 物音のしたほうから届くのは猫の鳴き声…ですけど。
「そっ、そんな鳴き声したって、もうばれてますよっ?」
「なっ…せっかく見逃してあげようと思ったのに」
 明らかに覚えのある声だった通り、そこから姿を見せたのはおなじみの副ヘッドさん…。
「みっ、見逃すって何ですっ!?」
 ま、まぁ、さっきまでのお姉さまとのことなんでしょうけど…はわわっ。
「何だか一騒ぎ起きそうだったからアッカリ〜ンしようかと思って」
 ずいぶん独特な言い回し…って。
「あ、アッカリ〜ン、って…もしかして、そういう魔法も使えちゃうんです?」
「ん? やろうと思えば…でも補助魔法って苦手なのよねぇ…」
 苦手とはいえできるわけで…うぅ、これは油断できません。
「ごきげんよう、エリスちゃん。こっそりのぞくなんて…悪い子」
「う、うっさいっ!」
 一方のお姉さまはにこやかな様子ですけど、もしかして副ヘッドさんのことに気づいてました…?
 気づいてて私に迫ってくるとか…は、はわわっ。
「うふふっ…それで、合宿とは、何のかしら…?」
「あっ、は、はいです、その、天姫トライアルといって、特に問題のある生徒が七人集められて合宿するみたいなんですぅ…」
 ようやく本題に戻って説明をします。
「あら、問題…?」
「は、はいです、その…錬金術のほうで、あまりに爆発を起こして産業廃棄物を量産しすぎたみたいで…」
「それで、問題児扱いになっちゃったのね…?」
「は、はいですぅ…。うぅ、ご、ごめんなさいですぅ…」
 錬金術といえばお姉さまの得意とするものなのに、私がこんなことになっちゃって…。
「でも、合宿に呼ばれるってことは、きっとものすごい可能性を秘めてるってことかもしれないわよ」
 はぅ、そんな私にやさしい言葉をかけてくださるなんて…。
「そ、そうなんでしょうか…一応、出された課題が『賢者の石を作ること』なんですけど、そんなこと私にできるでしょうか…」
「どうかしら…でも、これからの頑張り次第、とは言っておくわね」
 うぅ、そう言って微笑んでくださるお姉さまのご期待に応えるためにも、諦めちゃいけませんよね…。
「にしても、まさかヘッドも参加するなんてね」
 と、副ヘッドさんがそう言ってきます…?
「…って、ふぇっ? あ、あれっ、えっと…も、もしかして副ヘッドさんも…? でも、どうして…?」
「この間、旧校舎を半壊させたのがいけなかったのかしら…」
 わっ、何だか無茶苦茶ですけど、まさか副ヘッドさんまで参加するなんて…。
 知らない人ばかりよりは気楽かもですけど、どうなっちゃうでしょうか…。


    -fin-

ページ→1


物語topへ戻る