〜センパイの想いと…〜
「サクサク…さてと、今日もまずはあの子の無事を願っていこうかな」
―チョコバーを口にしながら私、山城すみれが向かうのは、町外れにある神社。
あの子に会えない日にお散歩するときは、ここにきておまいりするのが日課になってる。
「…って、あれっ?」
と、石段を上った先で見知った人影が目に留まるから、足を止めて声を上げちゃう。
「あ、山城さ…センパイ。こんなこんなところでどうしたんです?」
「あっ、夏梛ちゃん、こんにちはっ」
お互いに存在に気づいて歩み寄るけど、そこにいたのは私と同じ事務所の後輩、灯月夏梛ちゃん。
「うん、私はお散歩ってところかな」
「そうそうなんですか…私と私と一緒ですね?」
「あっ、そうなんだ、夏梛ちゃんもお散歩なんだね」
「今日はあの子は一緒じゃないんですか?」
「あれっ、でも今日は麻美ちゃんは一緒じゃ…って、へ? あの子って?」
何だか私の言葉と重なる様なことをたずねられて、思わず聞き返しちゃう。
「いえ、里緒菜ちゃんは一緒じゃないんですね?」
「…って、里緒菜ちゃんは今日はお仕事だけど、どうしてそんなこと聞くの?」
「いえ、最近一緒にいるイメージがありまして…」
「…へ、そうかな?」
夏梛ちゃんが言ってるのは、片桐里緒菜ちゃん…彼女と同じく事務所の後輩で、私がここで無事を願ってこうとしてた子。
「う〜ん、確かに最近一緒に練習したりすることは多いかも」
あの子は面倒くさがりやさんなところがあるから、そういう機会が増えてきたのはなおさら嬉しい。
「…ひょっとして二人、付き合ってるとか?」
「ん、付き合ってるって…え、えぇっ!?」
と、夏梛ちゃんがこっちをじっと見ながらとんでもないこと言ってきた…!
「そ、それってつまり、え〜と…夏梛ちゃんと麻美ちゃんみたいな、っていうことっ?」
「違う違うんですか?」
思わず真っ赤になっちゃう私に、彼女は首を傾げてきちゃう。
「い、いやいや、全然違うよっ! 私とり、里緒菜ちゃんは、そんな…あ、あわわっ!」
「怪しい…怪しいです」
「あ、怪しいって、何がかなっ?」
まぁ、こんなあたふたしてる時点で怪しい感じだけど…はぅ、お、落ち着けっ。
「最近最近仲がいいってもっぱらの噂です」
「そ、そうなの? た、確かに、お部屋にお邪魔させてもらったりしたけど、誰がそんな噂して…」
いや、あの子と仲良くなれるのは嬉しいし、そう見られるのも悪いことじゃないんだけど、夏梛ちゃんみたいな目で見られてたら…。
「それは…どどど同棲というやつですかっ!?」
と、私の言葉に夏梛ちゃんは慌てて…。
「…って、わーっ、そんなのじゃないってばっ! そもそもあの子は学生寮だし、そんなの…もうっ!」
あれはただ軽くお邪魔してお部屋のお掃除を少ししてあげたくらいのことだっていうのに…!
「えっと…じゃあ、センパイは里緒菜ちゃんのこと、どう思ってるんです?」
「…へ? 私が、里緒菜ちゃんのことを? えっと、それは、その、とってもかわいいなって思ったり…」
「それからそれから?」
「一緒にいるとどきどきすることもあったり…って、もうっ、どうしてそんな嬉しそうに聞いてるのっ?」
こっちがどんどん恥ずかしくなってくのに対して、夏梛ちゃんはとってもにこにこしてた。
「いいえ…とてもとても幸せそうに話してらっしゃるので」
そんなこと言う彼女はやっぱりにこにこして…。
「もうもうっ、確かに里緒菜ちゃんと一緒にいるのは幸せな気持ちになれるんだけど…と、とにかく、私とあの子はそんな関係じゃないんだからねっ?」
「え〜っ、本当本当ですか?」
「もうっ、本当だよっ」
そりゃ、私のこの気持ちってもしかして、なんて思いそうになるときもあるけど、だからって、その…夏梛ちゃんと麻美ちゃんみたいな関係っていうのは、相手の気持ちもあるわけなんだから…!
「それよりも、夏梛ちゃんのほうこそ…麻美ちゃんはどうしたの?」
あの子のことから話をそらせる意味もあり、さっき聞きそびれたことをたずねる…私とあの子より、一緒にいるイメージがずっと強い二人だもの。
「麻美は朝から朝からお仕事です…」
と、夏梛ちゃん、ちょっとしゅんとしちゃった…。
「あっ、そうだったんだ…う〜ん、それはさみしいよね?」
「べ、別に別にさみしくなんかななななにゃいですです!」
「もう、そんなに慌てたりして、解りやすいんだから」
何だかとっても微笑ましい。
「そそ…そんなことはねーです!」
「ふぅ〜ん、そうかなぁ…ものすごく動揺してるみたいに見えるけど」
言葉遣いまでおかしくなっちゃってたし。
「はぅはぅ…」
そんな夏梛ちゃんは真っ赤になっちゃってて、かわいらしい。
「もう、二人が素敵な関係なんていうことは、二人のことを知ってる人なら誰だって解ってることなんだから、恥ずかしがらなくってもいいのに」
「だ、だってだって…あぅあぅ」
「ん〜、どうしたのかな? これでも食べて、落ち着いて…サクサク」
「あ、ありがとうございます…」
「ううん、いいって…サクサクサク」
さっきは私が慌ててたし、あんまりからかうみたいなことするのもよくないからチョコバーを渡してあげる。
「最近は、麻美ちゃんとはどうなのかな?」
「べ、別に別に普通ですけど…サクサク」
「普通っていうことは、いつもどおり仲がいいんだね」
夏梛ちゃん、チョコバーを口にしながらうなずく。
「うんうん、それはよかった」
二人はもう正真正銘の恋人さんなんだし、幸せでいてもらいたい…と、その夏梛ちゃんのお相手の子のあることを思い出す。
「あ、そういえば、何だか麻美ちゃんってここで練習してるっぽいんだけど、夏梛ちゃんは知ってる?」
「ですです、たまに見かけますね…」
ここ、っていうのはもちろん神社…の森の中で、声とかダンスとかの練習してるみたい。
「陰で頑張ってる感じだからあえて声はかけないでおいてるけど…あんまり無理させちゃダメだよ?」
「そうですね…あ、でもでも、この間はここで小さな子と遊んだって言ってましたっけ…」
「あ、そうなんだ、そういう息抜きもできてるのかな」
「ですです、かもしれません」
「ま、やっぱり麻美ちゃんにとっては夏梛ちゃんと一緒にいることが一番疲れも取れたりするんだって思うけど、ね」
うんうん、それは間違いないよ。
私も、里緒菜ちゃんと一緒だと…って、う〜ん、私のあの子へ対する気持ちって、やっぱり…?
-fin-
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