〜気になる子の能力は?〜

 ―ここは私立天姫学園。
 私、山城すみれはそこの生徒っていうわけじゃないんだけど、今はジャージ姿でそこの校舎内を歩いてる。
「確かここって訓練所、だっけ…使ってる子はいるのかな?」
 そんな中、たまたま通りかかった、少し特殊な場所への扉が目に留まったから、ちょっと気になっちゃって中へ入ってみた。
 そこは名前の通りの場所だからかなり広い空間。
「あれっ、一人だけ誰かいるけど…どこかで見たことある様な?」
 そんな空間にあった、私に背を向けるかたちで立ってる一つの人影…気になって歩み寄ってみる。
「あっ、やっぱり里緒菜ちゃん…」
 後ろ姿でもそれがはっきり解って嬉しくなる…けど。
「…はぁはぁ」
「…って、えっ? すっごく息切れしちゃってるけど、大丈夫っ?」
 彼女のその様子がとっても気になっちゃって、思わず駆け寄る。
「なっ、何でいるんですか…はぁはぁ…」
 そんな私に気づいたあの子、里緒菜ちゃんなんだけど、やっぱり息切れしててしかも顔が赤い。
「もう、それよりそんな真っ赤になって息を切らして、大丈夫?」
 私なんかのことは別にいいし、心配になっちゃう。
「大丈夫です…久し振りに動いたら疲れただけです…」
「そうなんだ、里緒菜ちゃんはあんまり外出とかしないもんね…でも今日はジャージになったりして、どうしたの?」
 そう、今の彼女の服装は私と同じジャージ姿だったりする。
 やっぱり身体を動かすならこの服装だって思うけど、あの子がここで運動…?
「実技のテストが近いんで、少し練習をと…」
「…実技のテスト? 体育とかじゃなくって?」
「体育もありますけど、実技は自身の能力を使いこなせてるか…みたいな?」
 自身の能力、って…。
「そういえば、この学園って特殊な能力のある子が通う学校だっけ」
「そうですよ、忘れてましたか?」
「いや、里緒菜ちゃんの通ってる学校、って印象が一番強かったから」
 そうそう、私がここにきてる一番の理由もまずはそれだし…ん?
「…あれっ、里緒菜ちゃんってどんな能力があったんだっけ?」
 ふと気になったことを口にする。
 だって、彼女もここに通ってる以上、何らかのものは持ってるはず、なんだよね?
「私の能力…大したものじゃないですよ?」
「ん、私は見たことないんだけど、そうなの?」
 あ、でも私もそういうのあるけど、里緒菜ちゃんには言ってたっけ…?
「自分の影を操る…という地味な能力ですけど、見ます?」
 と、そんなことを気にしてる間に、あの子は自分の能力を教えてくれた。
「えっ、それって地味、なのかな…? でも、里緒菜ちゃんが大丈夫なら、少し見たいかも」
「では…少しだけ」
 私の返事にあの子は目を閉じたんだけど…そんなあの子の影がうにょうにょ動きはじめた?
「…わっ、えっ? 影が本人と違う動きしはじめちゃった…!」
 私が驚いてる間に、その影はあの子の足元から離れて…あの子と同じかたちの、でも真っ黒な姿で実体化しちゃう。
「まぁ、こんな感じですけど」
「えっと、それで、この影さんを…操れるの?」
「はい、かなり疲れますけどね?」
「わっ、それなのに私のお願いでしてもらったりして、大丈夫かな…あ、でも試験があるんだっけ?」
 私のために無理なんてしちゃいけないけど、練習でなら…。
「はい、今日くらい実体化できれば多分大丈夫だと思いますよ?」
「そっか、ならよかった。試験のほうも、無理しないで頑張ってね」
 私も陰ながら応援するよ。

「で、結局センパイはどうしてここにいるんですか?」
 影を元に戻したあの子、さっきもたずねてきたことをもう一度聞いてきた。
「えっ、私は見ての通り、ジャージ部活動中だよ」
 ジャージ姿なのにはそんな意味もあった、ってわけ。
「いやいや、さも当然の様に言わないでください…」
「あれっ、何かおかしかったかな?」
「いえ…まぁ、そんなことはいいです」
「ん、そう?」
 あの子がそう言うならもちろんいいんだけど…あることに気づく。
「でも、里緒菜ちゃんもジャージ姿か…」
「な…何ですか?」
 私が見つめるとあの子は不思議そうにするけど、あの服装なら…。
「里緒菜ちゃんもジャージ部に入らないかな」
 そうなったら素敵だな、って思って提案してみる。
「え…ロボットに乗れるならいいですよ?」
 そんな私にあの子は少しにやっとしてそう返してきた。
「…え、ロボット? あぁ、あれか…う〜ん、何とかできないかな…」
 完全に断られたわけじゃないし、確かに本家のジャージ部にはそれがあるんだよね…。
「ふふ、さすがのセンパイもこればかりはどうしようも…」
 あの子はそんなこと言うけど、諦められないな…。
「う〜ん、誰かにお願い…いやいや、迷惑はかけられないし…」
 あらゆる可能性をできるだけ考えなきゃ。
「じゃあ自分で作るか…あ、発掘とか…?」
「は、はっくつ!? 何だか大事になりそうですね…」
 私の独り言にあの子が驚いちゃった。
「でも、ああいう正義のロボットって、結構どこかに眠ってて…とか、そういうことない?」
 特にこの学園の周辺は不思議なものとか多いっぽいし、あり得なくはないよね…。
「センパイって、案外…いえ解ってましたけど、かわいいですね」
 と、あの子はといえば、微笑みながらそんなこと言ってきた?
「…えっ? り、里緒菜ちゃん、いきなり何言ってるのっ?」
 唐突な、しかもあまりに意外な言葉に少し赤くなっちゃう。
「いえ、私は真実を口にしたまでですよ?」
 しかも彼女はにこにこしながらそんなこと言って…もうっ。
「え、え〜と、里緒菜ちゃんならともかく、私がかわいいなんて…どこが?」
「子供っぽいところ…ですかね?」
「えっ、私って子供っぽいかな…」
 と、そんな私のことを、あの子からなでなでしてきちゃう…!
「…って、わっ、ちょっ、里緒菜ちゃん…!」
 そんなことされて慌てちゃうけど、同時にどきどきもしちゃって顔も真っ赤になっちゃう…うぅ、もう何なの…?


    -fin-

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