〜里緒菜ちゃんのアルバイト〜

 ―私、山城すみれは最近天姫学園でちょっとした活動をさせてもらってる。
 私はこの学園の生徒でも何でもないんだけど、特に注意をされたりもしてないしきっと大丈夫だよね。
 で、今日もジャージ姿で学園へきてみたんだけど、特にお願いごととかはなくって…それだけ何にもなくって平和っていうことだしそれはそれでいいことなんだよね。
 じゃあせめて、ここに通ってるあの子に会っていきたいな、って思うけど、どこにいるのか解らないしちょっと難しいか。
 そんな中、帰る前に一息ついていこうかな、ってことで学園内にあるカフェテリアへ向かうことにした…学園内にそんなものがあるなんてすごいけど、この間はそこで偶然あの子に会えたんだっけ。
 今日もそんな偶然があればいいな、なんて思いながらカフェテリアへ入る。
「いらっしゃ…いませ」
「うん…って、あれっ?」
 中へ入って店員さんが出迎えてくれたんだけど、ものすごい違和感…。
「ねっ、そんなことしてどうしたの?」
 不思議になっちゃったけど、その店員さん、手にしたトレーで顔を隠しちゃってたんだ。
「…ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいまし」
 店員さん、顔を隠したままそう言って立ち去ろうとするけど、この声…。
「もう、だからどうして顔を隠したままなの…里緒菜ちゃん?」
「…ふっ、ばれてしまっては仕方ないですね」
 私の言葉にそう言いながら顔を見せてくれたその子は、やっぱり私と同じ事務所に所属していてなおかつこの学園にも通ってる片桐里緒菜ちゃんだった。
「まぁ、里緒菜ちゃんの声を聞き間違えるわけないから」
「…それは、喜んでいいんですかね?」
「う〜ん、どうなのかな…私にとっては自然なことだし」
「自然、って…そういうものですか?」
「そうだよ、里緒菜ちゃんの声なら、ねっ」
「私の…?」
 首を傾げられちゃったけど、こんなこと言う私だってみんなの声を聞き分けられるわけじゃない。
 夏梛ちゃんや麻美ちゃん、それにセンパイあたりの声なら何とか大体は…でも、彼女ならどんな役を演じててもちゃんと解るって自信がある。
「…何だか照れるんですけど」
 そんな私の言葉を聞いたあの子は少し顔を赤くしちゃった。
「もう、何も照れることなんてないって」
「…まぁ、はい」
 そうそう、そんな私のことよりもずっと気になることがあるもんね。
「それで、里緒菜ちゃんはここで…店員さんしてるの?」
「うっ…べ、別に何でもないですよ?」
「何でもないって、その服装とか…気になるなっ」
 あたふたしちゃうあの子はここのカフェテリアの制服らしいメイドさんっぽい服を着てて、思わずじぃ〜っと見つめちゃう。
「こ、これは…こういう制服なんですから仕方ないじゃないですかっ!」
「じゃあ、やっぱりここで働いてるんだ。うん、そっかそっか…そんな里緒菜ちゃんも見れて、嬉しいなっ」
 ちょっとめんどくさがりやさんな彼女がこんなことしてるなんてちょっと意外だけど、いいことだよね。
 それに、あの服もよく似合ってるし…かわいいなっ。

「…というか、何故いるんですか?」
 そんな彼女、落ち着くと冷めた目でこちらを見つつそんな声をかけてきた。
「…って、あぅ、ひどい言われようだよ。この間もここで会ったじゃない」
「だって、学園関係ないじゃないですか…」
「別に生徒じゃなくってもいいじゃない…ぷんぷんっ」
 そうそう、このカフェテリアとか、意外と学園外の人が使ってることがあるみたいだし。
「里緒菜ちゃんに会いたいし、それにジャージ部としても活動してるんだよっ?」
「ジャージ部…そういえば色んな場所にチラシが貼ってありますけど、あれは一体?」
「あっ、里緒菜ちゃんも気づいてくれたんだ。この学園の困ったことを、悪いこと以外だったら何でもお手伝いする部活だよ」
 でも、今のところお願いしている子はほとんどいないし、まだまだ知名度不足かな?
「いやいや、ツッコミどころが多すぎてわけ解りませんけれども」
「あれっ、そう? どこがわけ解らなかったかな?」
「学園の生徒じゃないのに部活やってるとか、あげたらきりがないですけども…」
「もう、そんな細かいこと気にしない、気にしない」
「細かいですかね…まぁ、いいですけど」
 この学園って結構大らかなところがあるって感じてるし、きっと大丈夫。
「で、活動のほうはどうなんですか? 余計なことに手を突っ込んだりしてませんよね?」
「ん、余計なことって何かな?」
「いえ、何だか危ないこととか…別に、心配してるわけじゃなくって…」
 あたふたされちゃったけど、私のことを気にしてくれてる…?
「うん、今のところそんなことないから大丈夫…心配してくれてありがとっ」
「なっ、別にお礼なんて…」
 里緒菜ちゃん、赤くなったりして、お礼を言われたのが照れくさいのかな。
「ううん、里緒菜ちゃんに心配してもらえるなんて、とっても嬉しい」
「何で喜ばれるのか謎ですけども…まぁ無茶だけはしないでくださいね? センパイに何かあったら…」
 最後のほうはよく聞き取れなかったけど、でも彼女が私のことを心配してくれてる、ってことは伝わってきた。
「うん、ありがと」
 そんな彼女をやさしくなでてあげて、カフェテリアで彼女の働きぶりを見ながらのんびり…うん、いい時間。
 でも、そんな彼女だからこそ、彼女の身に何かありそうなときなんかは私が頑張らなきゃ、って思うんだ。


    -fin-

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