〜Birthday present?〜
「はぅ、ちょっと心配です…」
―放課後を迎えて賑やかになる教室を後にして、いきなりため息をついちゃいました。
それほど、今の私…松永いちごには不安になっちゃうことがあったんです。
一つは個人的な、でもとっても大切なことで、そしてもう一つは…。
「…私が不安がっててもしょうがないですね。大丈夫だって信じましょう」
実際そうなんですし、無理やり自分を納得させます…っと、気持ちに一段落をつけると、急に寒さが身にしみてきちゃいました。
今は十二月の中旬…期末テストも終わってあとは冬休みを待つだけの時期なんですけど、寒さがつらくなってきちゃう時期でもありますよね。
幸い、教室とかは冷暖房完備ですからいいんですけど、その分廊下とかに出ると余計に凍えちゃいます。
「…きゅーっ、せっかくの冬だってのに、どうして教室に暖房なんてかけんのよ、暑いじゃないっ」
って、どっかからそんな叫びが聞こえた気がしました…う〜ん、やっぱり色んな人がいるんですね。
とにかく、私は暖房がかかってても全然暑いなんてことはないですし、はやくあったかい場所に向かいましょう。
えっと、今日は…そうですね、あのこともありますし、練習に励んで不安な気持ちを吹き飛ばしちゃいましょう。
で、やってきたのは人の姿があたりに見当たらない上映室…の隣にあるスタジオです。
でも、そこって私以外に利用する人なんてほとんどいないですし、暖房を入れてもしばらくは寒そうです。
「…って、あれっ?」
スタジオへの扉を開けると、中からあったかい空気が出てきました…誰かいるんでしょうか。
「…あによ、ヘッドじゃない」
「あっ、誰かと思えば副ヘッドさんじゃないですか。こんにちはですぅ」
もう十分暖房の効いたスタジオに一人いたのは、私のよく見知った人でした。
「ずいぶんはやくからきてたみたいですけど、そんなに集会する気満々なんですね…さすがですぅ」
「あによ、そういうわけじゃないわよ」
ちょっとツンデレな雰囲気のある、そしてちょっと小さめのその人は冴草エリスさんっていって、中等部の生徒です…あ、ちなみに私は高等部一年ですよ?
声優さんを目指してる私がその練習の一環としてラジオ番組をしようっていうときにたまたまこのスタジオにやってきたので、ちょうどいいってことで協力をお願いした人なんですけど、思いのほかいい感じでやってくれましたから引き続き副ヘッドさんとしてやってもらってます。
「そういうわけじゃない、って…じゃあどういうわけなんですか?」
「まぁ、それは…色々と、ね?」
あれっ、何だか様子がいつもと違います…いつもでしたら私をからかいにきますのに。
「副ヘッドさん、元気がないみたいですけど、どうしたんですか?」
「別に…ヘッドはいいわね、いつも元気で悩みなんてない感じで」
むぅ、元気がなくっても意地悪なとこは変わりなかったみたいです。
「失礼ですね、私にだって悩みの一つや二つありますよぅ?」
「そうよね…ごめん、気にしないで?」
…って、今度は妙に素直になっちゃいましたし、何だか調子が狂っちゃいます。
「そう言われても、副ヘッドさん、やっぱりちょっと様子がおかしいですよぅ? 何だかこっちも調子出ないですし、話せることでしたらお話ししていただけませんか?」
ちょっと心配になってきましたし、私もスタジオ内にある椅子に腰かけて話を聞く態勢になります。
「いや、別に話す様なことでもないし…」
「むぅ、そんなの言ってみないと解りませんよっ?」
ああ言われる様なものに限って、重大なことだったりしますし。
「…わ、笑わない?」
「そんな、よっぽどおかしいことじゃない限り、笑いませんよぅ?」
いつもみたいにからかわれてる感じでもないですから、しっかりうなずき返してあげます…って、そこでなぜか顔を赤くされちゃいました?
「えっと…叡那って何がほしいんだろ、って」
そして、ものすごく恥ずかしそうにそう言ってきたんです。
「…ふぇ? それって、九条先輩ですか?」
「そうよ、それ以外にないでしょ…誕生日なのよ、もうすぐ」
「もう、何かと思えば…ずいぶんちゃんとした、立派な悩みじゃないですか」
九条先輩っていうのは、副ヘッドさんがお付き合いしてる人で…つまり、恋人さんへのお誕生日プレゼントについて悩んでたんですから、かわいくはありますけど全然おかしくなんてありません。
私の今の悩みの一つともほとんど同じですし…って、あれっ?
「でも、お誕生日プレゼントでしたか…てっきりクリスマスプレゼントかと思っちゃいましたけど」
私の悩みはそっちのほうでしたから…って、私、まだあのかたのお誕生日を知らない?
「クリスマスも兼ねてはいるんだけど、あんまり興味ないみたいだから…」
ちょっと沈んじゃった私ですけど、副ヘッドさんは話を続けますから、今はそっちに集中しなきゃですね。
でも、ちょっと九条先輩のことを思い浮かべますけど、確かにそういう俗世のことは気にしないって感じの人ですよね…それに、お家が神社だったはずですし。
「まぁ、この国の宗教はかなり寛容ですから、お家が神社やお寺でもクリスマスをお祝いしたりするみたいですよね」
一般の人もあわせて、この時期の日本を他の国の人が見たら色々不思議がりそうです。
「ま、そう言われればそうなんだけど、叡那ってば堅物さんだからね…」
九条先輩がクリスマスをお祝いする姿…う〜ん、想像つかないです。
「ま、まぁ、クリスマスは置いておいて、お誕生日のお祝いなんですよね? それでしたら快く受け取ってもらえるって思いますし、気持ちがこもってましたら何でも大丈夫な気がしますよぅ?」
特に、副ヘッドさんと九条先輩のお二人はこの学園でも知らない人はいないってくらいのラブラブさで有名なんですから、不安がったりすることなんて何にもないと思います。
「そう、ね…」
ちょっと考え込む副ヘッドさん…と。
「プレゼントはわ・た・し…でも、大丈夫かしら」
「…ふぇっ?」
不意につぶやかれた言葉にちょっと耳を疑っちゃいましたけど、聞き間違いじゃなかったみたいです。
「う、う〜ん、副ヘッドさん、ついさっき九条先輩のことを堅物さんだって言ってましたよね? それなのにそれは…ちょっと不安かもですぅ」
それにしても、副ヘッドさんは意外と恥ずかしいことを思いつくんですね。
堅物だっていう九条先輩には難しいかも…ですけど、あのかたでしたら、もしかして…。
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