〜あの子のペットは…?〜
―それは、私…橘深空が学園近くの公園のそばを歩いていたときのこと。
「あの、人影って…でも、何して…?」
何もない、雑草の生い茂る空き地にあった人影が目に留まりました。
それは間違いなくあの人で、なぜか少し胸が高鳴りましたけど…何だかきょろきょろしています。
「どうしたの、かな…?」
なぜだか気になっちゃって、思わず歩み寄っていってしまいます。
あぁ、もう、私はどうして…別に気にしなくっても、こちらから何かしなくってもいいはずなのに。
「…何、してるんですか?」
結局、私のほうから声をかけてみてしまいました。
「あら、ごきげんよう…なの」
私のことに気づいて微笑みかけるのは、かわいらしい服装をした、でもそれに負けないくらい本人もかわいい女の子…松永りんごさん。
「少し、探し物をしていますの」
「そ、そうなんですか…。探し物、って…こんなところで、何を…?」
何だか気持ちが落ち着かなくって、少し距離をとって足を止めます。
「ペットが逃げ出してしまいましたの…」
「…ペット? そ、そうなんですか…猫か犬か、そんなところですか?」
私の言葉に、彼女は意味深そうな笑みを浮かべてきます…?
「えっ…な、何?」
「ペットといえば…猫か犬と思っていると、痛い目にあうかもしれませんのよ?」
戸惑う私に、彼女は少し心配そうにそんなこと言ってきます…?
「…え? え〜と、つまり違う動物、ということですか?」
何なんでしょう、不気味に思えてしまって、あたりを見回してしまいます。
「聞いて引いたりしませんの?」
「引いたり、って…そういうことを気にするなんて、意外かも…」
この人は周囲の目とか全然気にしない子に見えてたから…。
「いえ…血の気が、ですの」
「え…そ、それってどういう…」
ますます不安になっちゃって、またあたりを見回しちゃいます。
「といいますか動くと危険かもしれませんの…」
「え…」
明確にあんなこと言われちゃって固まっちゃう。
「…自分でそういうこと言う様な得体の知れないものを、飼っているんです…?」
「あら…とてもきれいな色をしたへびさんですのよ?」
「蛇…そ、そうなんですか。どうしてそんなものを?」
何だかイメージと違うかも…なんて、私は彼女にどういうイメージを持っていると…。
「あら、へびさんは苦手ですの?」
「う、ううん、苦手なんて、そんなことはないです…けど、そもそも触れる機会もないですし、解りません」
「あら、ではこの機会に…と思いましたけれど、危険ですの…」
「危険、って…見た目が怖くても、何もしてこないなら問題ないと思うんですけど、違うんですか?」
「実は少し猛毒がございますのよ…? この間も…家の若い衆が…」
「少し、って…」
猛毒の時点で少しではない気がします…けど、それ以上にその後にぼそっと続けられた言葉が気になりました。
ずいぶん物騒な意味にも取れそうでしたけど、私の空耳でしょうか…。
「え、えっと、とにかく、蛇が好きなんですか?」
空耳かもしれないものを問いただすのもどうかと思いますし、そちらをたずねてみます。
「はい、昔からへびさんが大好きでしたの」
「そうなんですか…何だか、やっぱり意外な感じを受けます」
「あらあら…」
と、あの子、にこにこしながらなぜかゆっくりとこちらへ近づいてきます?
「えっと、ど、どうしましたか…?」
突然のことにちょっとどきどきしてしまいますけれど、でもこの子はペットを探すことしか考えていないはずですし、ということは…。
「もしかして…いましたか?」
しかもこちらへ歩み寄ってくるということは、私のそばに…?
「はい、なの…じっとしてて、ほしいの」
そう言った彼女が私の肩へ手を伸ばすと、赤と黒の縞模様の大きな蛇が彼女の腕を伝って、そして彼女の首に巻きつきました?
でも、それってつまり…え、私の身体に、今までいたってことですか?
衝撃が大きくてしばし固まってしまいましたけど…大丈夫です、よね?
うん、あの子の飼っているペットだっていうんですし…なんて、どうして私は彼女のことを信じたりしているんでしょう…。
-fin-
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