〜princess blade -prologue-〜
―特殊な力を持つ者が数多くいる学園のある町。
人だけでなく、天使や悪魔、さらにはアンドロイドなど、ずいぶん人々にも多様性のある場所だ。
私がここへやってきて、どのくらいがたつだろうか。
当初は目的を果たすまでの滞在、そしてそのためだけにいる場所であったが、いつしかそこは私にとってかけがえのない場所となっていた。
「アヤフィール・シェリーウェル・ヴァルアーニャ、お召しにより参上いたしました」
「ああ、ご苦労。突然呼んだりして、悪かったな」
―ある日の昼下がり、私は滞在しているホテルの一室に一人の女性を呼んでいた。
「しかし、シェリーウェル公はいつお会いしても若々しいな」
「まぁ、そうでしょうか?」
穏やかに微笑む、深窓の令嬢といった雰囲気の彼女、外見は十代半ばか後半にしか見えないのだけど、我が国の日本大使を務めている。
「けれど、王女殿下はいつも大人びていらっしゃいますね」
「ん、そうかな…?」
私…クレア・エリーシャ・ノースロップは北欧にあるとある小国の第一王女。
といっても現王の養子となって王女となっているわけだけど…長い間ずっとこちらに滞在させてもらったりとずいぶん好きなことをさせてもらっていて、感謝をしないとな。
「しかし、王女殿下か…せめて名前で呼んでもらいたいかな」
「はい、ではわたくしのことも名前でお呼びください」
「うむ…アヤフィール、こちらでの生活はいかがか?」
「はい、とてもよい日々を送らせてもらっております」
「そうか、それは何よりだな」
彼女は天姫学園の教師に想い人がいるのであったな。
クレアもそうなのだが…と、自分のことはどうでもいい。
「では、アヤフィールはこの町が好きであろうな」
「もちろんです。娘のラティーナも、とっても気に入った様子ですし…帰りたくないと言われたときは少し驚きましたけれど、今ではその気持ちが解ります」
若々しい、しかも未婚の彼女に娘…と思ってしまうが、養女だったかな。
一度会ったことがあるけれど、元気な少女だった…と、アヤフィールとは同い年くらいに見えてしまったけれど。
「うん、クレアも、それにクレアのメイドをしてくれているリーサも、この町を気に入っている」
「うふふっ、それに、先日やってきたあの子もそうみたいですわ」
そばに立っていたリーサが言うのは、先史文明の残された少ない技術情報などを元に我が国が作り出した人型戦闘兵器、トリガーハートのエクゼのこと。
戦闘兵器ということでこの町にてクレアの警護に当たってくれているけれど、戦闘能力以外は十代の少女とそう変わらないから、別の生きかたを見つけられたらそれがよいな。
「だから、我が国とこの町との友好を深めるために何か行事を行おうかと、そう考えたのだ」
「まぁ、それは素敵なことかと思います」
「うん、しかし何をすればよいか、なかなか難しくてな…アヤフィールにも一緒に考えてもらおう、と思い今日はこうしてきてもらったのだ」
「そう、ですか…う〜ん、たくさんの皆さんが盛り上がれるものにしたいですね」
「うん、では国から劇団でも呼んで…」
「いえ、皆さんにも参加していただけるかたちのもののほうが、楽しいと思います」
「そうなると…どうなのだろう?」
「あの学園のあるこの町には不思議な、それに強い力を持ったかたがたくさんいらっしゃいますから、その特色を生かすとより盛り上がるかもしれません…けれど、何かあるでしょうか…」
しばらく、アヤフィールと二人で考え込んでしまう。
「あの、こういうものはいかがでございましょう」
と、口を開いたのはクレアでもアヤフィールでもなくリーサだった。
「…っと、申し訳ございません、出しゃばってしまって」
「そんな、お気になさらなくっても大丈夫です」「うん、それよりもリーサの思いついたことを聞かせてもらいたいな」
「はい、では…お二人は、こういうお話を聞いたことはございませんか?」
そうしてリーサが話してくれたところによると、とある国では女王の座を決めるために国はもとより世界中から強者を集め、その者たちで武闘大会を行い、最後まで勝ち残った者が新たな女王となるという。
「といっても、物語の世界での話でございますけれども」
最後にそんな言葉がついたけれど…それは悪くない考えだな。
「うん、この町ならば、そうした大会を行って参加者を集められるだけの力を持った者がたくさんいるし、十分可能そうだな」
あまり物騒なのはよくないけれど、きちんとした大会にすれば盛り上がるだろうし…。
―ということで話は進み、クレアやアヤフィール、それに国の者たちとも検討した結果、我が国が主催をし、私立天姫学園が後援をしてくれるかたちで武闘大会が開かれることとなった。
大会の名は『プリンセス・ブレイド』…さすがに女王の座は無理だけれど、優勝者には我が国の第二王女の位を与える、ということになったのだ。
最後まで勝ち残った者はエクゼと戦い、それに勝利を収めれば優勝、という考えなどもあるけれど、どうしたものだろうな。
いずれにしても、この町の人々が今回の行事を楽しんでくれれば、それが何よりなことだな。
-fin-
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