〜お社でのこと〜

 ―私、橘深空はとある理由から私立天姫学園へ通っている、でもそこの生徒ではない存在。
 そのとある理由のために、その学園と周囲の様子をよく見て回っています。
「ふぅん…ここは、何だか不思議な力を感じます」
 今日やってきたのは、町外れにある神社…境内へ足を踏み入れると、明らかに他の場所とは違った雰囲気、力を感じます。
「…でも、特に問題というわけでもないですか」
 少なくても、私が調べないといけないこととは関係ありません。
「学園のほうでも、特に動きはないですし…問題なし、なのかな…?」
 私が調べていることについては、もちろん何もないのが一番いいです。
 今のところ、ジャージ部なる怪しい活動をしている人がいたくらいですし、これはもう大丈夫そう…。
「ふふ…だぁれだっ」
 と、背後から突然かわいらしい声がしたかと思うと、視界がふさがれます…!
「…ふぁっ!? えっ…なっ、な、な…?」
 誰かの手で目をふさがれてしまったみたいですけど、こ、この声って…!
「あらあら、かわいい反応ですの」
 そんな声とともに手を放されますから、慌てて後ろを振り向きます…と。
「なっ…あ、あなた、どうして…!」
 そこにいたのはやっぱり見覚えのある、かわいらしい雰囲気の女の子で…なぜかどきっとしてしまいます。
「あら? どうして…とおっしゃられても、困ってしまいますの」
「い、いえ、突然あんなことをされた私のほうが困るんですけど…」
 本当、まさかこんなところで会えるなんて思っていなかった上、あんなことして…。
「そ、それに…どうして、そんな嬉しそうなんですか…?」
 相変わらず、なのかもしれませんけれど、妙ににこにこしちゃってます。
「あら、貴女にお会いできましたので…」
「…えっ? あ、あなたも…」
 やっぱりにこにこしている彼女の言葉に思わず口が滑りそうになるけど…いけない。
「…じゃなくって、ど、どうして、私に会えたことが嬉しい、なんて感じるんです? 私とあなたなんて、その…特に何もないですし…」
 その言葉は、私自身に対する疑問でもありました。
 だって、私…それだけの存在なはずの彼女に会えて嬉しい、なんて感じてしまっているみたいで…しかも、その理由が自分でも解りませんでしたから。
「うふふ…こうやってお話ししましたの」
「そ、そんなの、ただの偶然ですし…そ、それに、私と話しても、特に面白くもなんともない、でしょ…?」
「あらあら、とても楽しいですのよ?」
「…うっ」
 何の迷いもない微笑みを向けられてしまって、思わず顔を背けます。
「そ、そう、なんですか…やっぱり、変わった人ですね…」
「あら、褒めても何も出ませんのよ?」
「…えっ?」
 しかも、つい出てしまった言葉にもあんなこと言われたりして、こちらが戸惑ってしまいます。
「えっと…今の言葉のどこを褒め言葉だと思ったんですか…?」
「あら…解りませんの」
「は、はぁ、そうなんですか…」
 にこにこしたままそんなこと言われちゃいますし…。
「まぁ、何となくそんな気はしましたが…やっぱり、おかしな子ですよね…」
「あらあら、その子もごきげんよう、なの」
 ついいつもの癖で手にしたみーちゃんに話しかけたところを見られて突っ込まれてしまいました。
「あ…え、えと、わざわざどうも…」
 気づかれてしまった以上仕方ありませんし、みーちゃんをお辞儀させます。
「あらあら、かわいらしいの」
「うっ、何だか恥ずかしい…というより、かわいいというのなら、あなたのほうが…」
「あらあら、照れてしまいますの」
 そう言いながら微笑む彼女はやっぱり…。
「…って、わ、私は何言って…。な、何でもありませんから…!」
 誤魔化すかの様にぷいっとしてしまいます。
「あらあら、貴女もかわいいですの」
「な、何を言ってるんですか、もう…!」
 どこまで本気なのかつかめませんけれど、恥ずかしいのは間違いなくって赤くなってしまいます。
 でも、あまり悪い気はしない…だけに、他の人相手なら気にしないことが気になってきます。
「えと…ぬいぐるみなんて持っていて、おかしいなんて、感じないんですか…?」
 みーちゃんのこと、他の人になら何と思われてもいいと思っているのに、どうして…。
「あら、大切なお友達なのでしょう?」
 と、彼女から返ってきたのはそんな言葉…?
「そ、それはそうですけど、解ってくれる人なんて、そういませんし…いえ、別にいなくってもいいんですけど…」
「まあまあ、私では不満ですの?」
「…えっ? えっと、な、何が不満だって、いうんです…?」
「私もお友達じゃ…不満ですの?」
「…えっ? 友達、って…わ、私の、ですか…?」
 一瞬、何を言われたのか解らなくって、固まってしまいました。
 だって、友達だなんて…みーちゃんが全てでしたし、他の人がどうとか、考えたことも…。
「そんな、えっと…私なんかが、いい、のです…?」
 戸惑う私に、彼女はにこにことうなずいてくれます。
 私の、彼女へ対する不思議な、今までに感じたことのなかった気持ち…これは、私もこの子と友達になりたい、ということだった…?
 みーちゃん、私…あなた以外の子と、友達になってもいいのかな…?


    -fin-

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