せっかくだからよりそういう子の多そうなあそこへ行ってみよう…ということで向かったのは、私立天姫学園。
かつて私も通っていた、そして今は妹が通うそこは、百合な恋をする子が多いの。
さて、誰かいないかしら…と校舎近くを歩く私の目に、見知った子が留まる。
「…あら、すみれちゃん? こんなところで、しかもそんな服装でどうしたの?」
「えっ…あっ、美亜さん、こんにちは。私はジャージ部活動中だよ」
声をかけた私へそう返すのは、ジャージ姿をして元気な雰囲気の子…ときどき私の喫茶店でアルバイトをしてくれる山城すみれさん。
でも、彼女はここの生徒ではないわよね…なのに部活動をしているのかしら。
「そういう美亜さんこそ、今日はどうしたの?」
「ええ、ちょっとね」
そういえば、すみれちゃんにもいい感じになってるお相手がいるのよね。
「ね、すみれちゃん、クリスマスの日は何か予定とかあるのかしら?」
「えっ、う〜ん、その日はお仕事ないし、里緒菜ちゃんを誘ってお出かけしようかな、なんて…あ、もしかしてアルバイトある? なら行くよ?」
「あら、アルバイトなんてないし、そこはその子とお出かけして?」
「う〜ん、でも実はまだ何にも言ってないんだよね…あの子にもお仕事は入ってないはずなんだけど、迷惑にならないかな…」
すみれちゃんたちの関係は微笑ましいから、ゆっくり見守りたいものなのだけど、ここは少しだけ…。
「もう、そんなわけないに決まっているわ。それに、どうだとしても何もしないで諦めるのはすみれちゃんらしくないわ?」
「そう、かな…うん、そうだよね。じゃ、まず誘ってみることにするねっ」
「ええ、それがいいわ」
すみれちゃんたちは両想いなのは確実なのだけど、どうなるかしら…このまま見守っていきたいものね。
せっかく学園へきたし、そういえばまだお昼ごはんを食べていないことも思い出して、学食へ行ってみる。
今日は午前中で授業が終わったみたいで、それに時間もお昼時とは少しずれたから人の姿もほとんどない…部外者がお邪魔するにはこのくらいのほうがいいわよね。
ランチセットを受け取って、適当な席を…と、そんな私の目に留まった子。
「あら、あの子…」
学食の片隅で一人そばを食べる、ツインテールをしたちょっと無表情っぽい女の子だったのだけど…ちょっと、でも確かにあれを感じる。
「…ここ、座ってもいいかしら」
気になったので、隣に座らせてもらうことにした。
「えっ、また…って、だ、誰です? こんなに席空いてますのに、わざわざここにくるとか…」
その子、口調もクールだけど、はじめの一瞬だけ少し、でも明らかに雰囲気が変わってた。
ええ、そう、少し嬉しそうな…待っていたものがきた、みたいな。
「あら、どなたかと待ち合わせをしていらしたかしら?」
「べ、別に貴女には関係ありません。特に待ち合わせなどもしていませんし」
これはあれね、気になる子がいるけれど、自分から声をかけることができないから偶然に期待してしまっている、という…。
「本当かしら? 人を待っている様にも見えたのだけれども」
「本当です、私にはここに知り合いとかいませんし」
「…本当に?」
「うっ…ま、まぁ、一人だけ、なぜかにこにこと声をかけてくるおかしな人はいますけど」
ふふっ、クールに見えて、ちょっと押しに弱いのかしら。
ともかく、その子のことが気になる、ということね…初々しくていいわね。
「その子のこと、待っていたのでしょう?」
「ど、どうして貴女がそんなこと…まぁ、おかしな人でしたし、もう一度くらい会ってもいいかもしれません」
無表情な顔を少し赤らめたりして、微笑ましいわね。
「なら、貴女から会いにいってみればいいじゃない」
「ですから、どうしてそんなこと…そもそも、理由がないですし」
会いたいから、というのも十分な理由なのだけれど、彼女の様な子にはそれでは足りないか…そうね。
「なら、クリスマスプレゼントを渡しにいけばいいのではないかしら。その日は、気になる子へ贈りものをしてもおかしくない日だもの」
う〜ん、少し無理やりなものになっちゃったかしら。
「はぁ、そういうものなんですか、考えてみます…いえ、私は別に気になってなんて…」
…あら、意外と素直に受け入れてくれたみたい。
この性格の子なら、ああは言っていても実行へ移しそうよね。
「ええ、ではお邪魔しました。お食事、ゆっくり楽しんでね」
「は、はぁ…何だったんでしょう…。でも、クリスマスプレゼント、ですか…」
席を立ってその場を後にしたけれど、これできっと少しは進展があるでしょう…まず、あの子が自分の想いに気づくか、ね。
「あと、は…あの子は、どうしているかしら…」
改めてお食事しながら、ある子のことを思い浮かべる。
それはこの学園の生徒で、私の喫茶店へよくきてくれる女の子、源未祐さん。
彼女は百合な恋をしているのだけれど、そのお相手がどうしても全く見えない…こんなこと、はじめて。
何とか応援してあげたいのだけれど、こんなときに役に立てないなんて、困ったものよね…。
「…クリスマスプレゼント、用意しちゃおうかしら」
さっき、気になる子に贈りものをしてもおかしくない日、と言っちゃったものね…私にとって今一番気になるのは、彼女のことだし。
クリスマスの日に私のお店へくる様じゃ恋に進展はないわけだから、こないとは思うけれど…いいわ、それでも用意しておきましょう。
不思議ね、それだけのことなのに、何故だかうきうきしちゃってる気がする。
-fin-
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