〜アサミーナとかなさまの秋のおさんぽ〜
―季節は秋。
今年は何だかちょっと暑かったり涼しすぎたりといった気温の日が多くて困ったものでしたけれど、今日はよく晴れている上に気温もちょうどよさげ。
「夏梛ちゃん、今日はちょっとお出かけしませんか？」
ですから、朝ごはんの時間、私…石川麻美と一緒にお食事してたとってもかわいくって大好きな子、夏梛ちゃんにそう提案してみました。
「お出かけ、です？ それはもちろんいいですけど、どこに行くんです？」
幸い、今日は二人ともお仕事はお休み…最近だとこういう日はちょっと珍しいかも。
「うん、どこでもいいんだけど…特に目的地があるわけじゃなくって、のんびりお散歩とかしたいな、って」
「なるほどなるほどです…それはいいかもしれません」
「うん、それじゃ決まりだね」
朝ごはんの後、私は軽くお弁当を作りました。
お昼はあの喫茶店でもいいかな、とも思ったんですけど、あそこへ行くと自分が恥ずかしい思いばっかりしちゃうからって、夏梛ちゃんが…そういうあの子もかわいいんですけど、今日は二人だけでのんびり、ということでいいかな。
「夏梛ちゃん、新しいおよーふくを作ったから、今日はこれを着てみて？」
お弁当を作ったら、あの子へ一着のゴスいおよーふくを持っていきました。
「わわっ、これ、麻美が作ったんですか？」
「うん、夏梛ちゃんに似合います様に、って心を込めて、ね？」
夏梛ちゃんはゴスいおよーふくが大好きで、さらにとっても似合います…そのおよーふくはお店で買うこともありますけれど、こうして私が仕立てることもあります。
「あ、ありがとうございます…。そ、それにしても麻美ってやっぱりやっぱりすごいです…何でもできちゃいますよね」
「もう、そんなことないよ？」
学生時代、色々な習い事をしてきた成果、でしょうか…あの頃は声の練習をする時間が削られて残念に思いましたけれど、今こうしてその経験が夏梛ちゃんの役に立っているのを実感すると、やっていてよかったって感じます。
「それじゃ、私が着替えさせてあげるね？」
「は、はわはわっ、そ、そのくらい一人でできますっ」
慌てられちゃいましたけど、本当は嫌じゃないって解ってます…うふふっ、かわいいんだから。
お着替えも済んで準備万端…二人でお家を後にします。
「うんうん、今日は絶好のお散歩日和だね」
外へ出ても暑くもなくって涼しすぎることもない、清々しい陽気です。
「ですです…でも、ならわざわざ日傘を差すことはないんじゃないですか？」
「いいの、これは私が好きでやっていることだから」
私は片手にお弁当の入ったバスケットを持ちながら、もう片手には日傘を差しています。
「そ、そうですか…ならいいんですけど」
「うふふっ、うん」
ちょっと恥ずかしそうなあの子ですけど、かなり寄り添っているのが気になっちゃうのでしょうか…こうすれば雨が降っていなくっても相合傘になります。
それに、ゴスいおよーふくがとっても似合ってる夏梛ちゃんはお嬢さまみたいでもありますから、こうして日傘を差して寄り添っている私はメイドさんになるかも…うふふっ、そういうのもいいですよね。
「でも…こうやってのんびりのんびりお散歩するのも、いいですよね」
よかった、夏梛ちゃん、嬉しそう。
私は夏梛ちゃんと一緒にいられるだけでとっても嬉しいんですけど、お仕事などでなかなかそうもできない日も多いです…ですから、今日はいっぱい二人で過ごしたいです。
そう思うと気持ちが抑えられなくなっちゃって、結局ぎゅっと腕を組んじゃいます。
「はわはわっ、あ、麻美ったら、もうもう…」
夏梛ちゃんも恥ずかしそうにしながらも、ぎゅってし返してくれました。
「もきゅもきゅ、やっぱりやっぱり麻美のお弁当はおいしい…なっ、何でも何でもないですよっ？」
「うん…うふふっ、ありがと」
「はぅはぅ…ですから何でも何でもないのに…！」
のんびり歩いて、木々も多い公園へやってきた頃にはお昼になっていましたから、そこのベンチへ座ってお弁当を食べました。
やっぱり夏梛ちゃんの反応がとってもかわいくってついぎゅってしたくなるところですけれど、今はお昼ごはんを食べているのですから何とか我慢をします。
そしてお昼ごはんも食べ終わりますけれど、とっても心地よい日和でそよ風も気持ちいいですから、しばらくそこでのんびりしていくことにしました。
今日は平日ということもあってか公園には私たち以外に人の姿はなく、それに広めな場所の上に近くを走る車もなくってとっても静か…完全に二人きりの世界にいる感覚を受けます。
そんな世界で、すぐ隣には私がいる…それだけで胸の中がとってもあったかくなります。
と…そんな私の腕に、あの子がもたれかかってきました…？
「え…夏梛ちゃん？」
「…すぅ、すぅ」
ちょっと驚いちゃいましたけれど、見るとあの子は穏やかな寝息を立てて眠っちゃっていました。
「うふふっ、眠っている夏梛ちゃんも、かわいい…」
思わずそっとなでますけれど、こんな気持ちのいい日和ですし、うたた寝しちゃうのも仕方ありませんよね。
それに…夏梛ちゃん、毎日お仕事をとっても頑張っています。
人気のある夏梛ちゃんはもちろん私よりずっとお仕事の量も多くて忙しいです…遠距離の移動が続くだけでも、とっても大変なことですよね…。
そんな日々が続いていたのですから、口には出さなくっても、やっぱり色々疲れがたまっていたと思います…今日のお散歩で、夏梛ちゃんの気分転換もできていたら嬉しいです。
「夏梛ちゃん、お疲れさま…ゆっくり、休んでね」
気持ちよさそうに眠っている彼女を起こさない様に、そっとなでなでしてあげました。
「…あっ、麻美、目が覚めました？」
気がつくと、すぐそばから愛しい人の声がしました。
そんな私の視界に入るのは、その子の顔…背景は木の枝と青空です。
「あれっ、夏梛、ちゃん…？ えっと、私…」
「麻美ったら、寝ぼけてるんですか？」
あの子の微笑みがとってもまぶしいですけれど、そういえば頭に不思議な感覚が…。
「…えっ？ わっ、私、夏梛ちゃんに膝枕してもらっちゃってる？」
驚いて身体を起こしちゃいましたけれど、そんな幸せなことになっていたなんて…。
「ご、ごめんね、夏梛ちゃん…私、寝ちゃったみたいで…」
私が眠っている彼女を見ていたはずなのに、いつの間にこうなっちゃったんでしょう…。
「別に別にいいです、私も寝ちゃってたみたいですし…」
うぅ、でも、夏梛ちゃんにゆっくり休んでもらおうって思いましたのに、情けなくなっちゃいます…。
「それにそれに、麻美の寝顔を十分に堪能させてもらっちゃいましたから」
「わっ、え、えっと…」
その一言に少し恥ずかしくなってしまいます…けど、いいですよね。
だって、夏梛ちゃん、とっても素敵な微笑みを見せてくれて…気分転換も、できたみたいですから。
そして、私も…膝枕までしてもらっちゃったりと、とっても幸せです。
「…あっ、麻美。あそこに白たいやきの屋台がきてます…行きましょう」
「うふふっ…うん、夏梛ちゃん」
あの子に手を引かれてベンチから立ち上がります。
これからも、こうして二人でのんびりする時間を作っていけたら、とっても幸せですよね。
-fin-
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