「…あっ、夏梛ちゃん、お疲れさま」
「…麻美? こんなところで、どうしたんですか?」
 レコーディングが行われていたスタジオのある建物から出てきた夏梛ちゃんを笑顔で迎える。 「うん、今日でアフレコが一段落するって聞いたから、ね?」
「そ、そうですか…でも、別にそんなこと気にしなくっても…」
「ダメだよ、今回の夏梛ちゃんは大役だったんだから、邪魔できないよ」
 だからさみしいのをずっと我慢していたんですけど、今日は一段落するということで我慢できなくって、数時間前にここにきちゃってました。
「もう、麻美なら邪魔なんてこと…」
「…ん、何か言った?」
「なっ、何でもありませんっ」
 お顔を赤くしてそっぽを向かれちゃいましたけど、元気そうでよかった。
「な、何をにこにこしているんです?」
「ううん、何にも」
「その割にはずいぶんずいぶん嬉しそうですけど…って、麻美、ずいぶん汗をかいちゃってるじゃないですか。こんなところで立ち話してないで、どこか行きましょう」
 そう言われて歩きはじめますけど、私のことを気遣ってくれるなんて嬉しいです。
「あっ、そういえば、夏梛ちゃん」
 と、先日聞いたお話を思い出してさっそく声をかけてみます。
「夏梛ちゃんのファンクラブだけじゃなくって、夏梛ちゃんと私、二人のユニットのファンクラブもできたみたいなんだよ」
「そうなの? それは初耳です」
「うん、これは私も知らなくって、ファンクラブに入ってくれたっていう月嶋朔夜さんに言われてはじめて知ったんだよ」
「えっ、月嶋朔夜って…あの月嶋朔夜?」
「うん、そう。そんな有名人が入ってくれるなんて、すごいよね?」
 ちなみに、私たちのユニットは特定の名称がなくって夏梛ちゃんがたびたび変えちゃうから、ファンクラブの名前もまだ未定みたい。
「それは確かにすごいですけど…」
 あれっ、夏梛ちゃんが何か考え込んでる?
「…どうしたの?」
「うん、麻美のファンクラブはないの?」
「えっ、そんなのあるわけないけど、それがどうしたの?」
「うん…って、な、何でも何でもないですよ?」
 本当にどうしたのかな…おかしな夏梛ちゃん。
 でも、やっぱりこうして夏梛ちゃんと一緒にいると幸せで…ずっと考えてた、あのことをお願いしたくなっちゃう。
「…ねぇ、夏梛ちゃん。ちょっと、お願いごとしても、いい?」
 この数日会えなかったことでその気持ちが大きくなって…意を決します。
「どうしたんですか? そんなの、言われないと解りません」
「うん、えっとね…夏梛ちゃんがよかったら、その…」
 うぅ、やっぱり緊張しちゃう…。
「もう、はっきり言ってください」
「う、うん、じゃあ言うけど…わ、私と、一緒に暮らさない、かな…?」
 つ、ついに言っちゃった…!
「え…あ、麻美? い、今、何て言いました…?」
「う、うん、だから、私と一緒のお家で暮らさないかな、って…」
「な、な…!」
 彼女は真っ赤になって固まっちゃいました。
「あ、ご、ごめんね? いきなりこんなこと言って…迷惑、だったかな…」
 私はずっと一緒にいたい、片時も離れたくないって思ってるんだけど、夏梛ちゃんはそこまでは…なの、かな…。
「そっ、そんなことありませんっ!」
 しゅんとしちゃったそのとき、夏梛ちゃんが強い声をあげました。
「か、夏梛ちゃん…?」
「い、今のはただ、いきなりのことで、びっくりびっくりしちゃっただけのことですっ」
「えっ、それじゃあ…」
「そ、そんなこと急には決められませんし、考えさせてくださいっ」
 よかった…嫌がられては、いないみたい。
「うん、そうだよね…じゃあ、考えておいてね?」
 小さくうなずいてくれる夏梛ちゃんがあまりにもかわいくて我慢できなくなっちゃいそうですけど…い、いけません。
 でも、もし一緒に暮らせる様になったら…うふふっ、そのときはいっそのこと名前も「灯月麻美」にしちゃおうかな?
 それはもう実は今ちょっとやってるゲームの主人公の名前にしちゃってるんだけど…とにかく、もし断られても、私は夏梛ちゃんのことが大好きなんですから、ねっ?


    -fin-

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