〜地球温暖化だ?〜

「ふぅ、予想はしていたけれど、でも想像以上かも…」
 ―夏休みに入って、少しお出かけして外を歩く私、雪野真綾だけど、思わず公園にある木陰のベンチへ座り込んじゃう。
 普段ならもっと黒くてゴシックなおよーふくを着るところを、今日は白くて涼しげなものにしてみたのに…。
「はぅ、いっそ…全裸になってしまいたい…」
 と、私の前を人影が一つ…さらに蝉の鳴き声に混じってそんな声も届いた気がした。
 しかも、その姿や声は私にとって特別な…。
「あぁ、暑さのあまり、あの子の幻覚が見えてきたわ…。しかも、夢みたいな幻聴まで聴こえて…」
 今日は雲一つない快晴で、ものすごく暑い…そのせいで、おかしくなっちゃったのかしら。
「…あ、先輩? 大丈夫ですか…目が明後日向いてますよ?」
 と、幻かと思ったその人影、私のほうへ歩み寄ってくる…?
「…えっ? あら…もしかして、本物の幸菜ちゃん、なの…?」
「は、はい、そうですけど…目が恐いです」
 私の目の前で足を止めたのは、まぎれもなくあの子…私の理想の大和撫子な真田幸菜ちゃん。
「うふふっ、そんな、何が恐いというの? ほら、こっちにきて…そして、さっきの言葉通り、全てを脱ぎ払って…」
「はぅっ、ぬ…脱ぎませんよっ!」
 真っ赤になっちゃう彼女も汗をかいたりしてとっても暑そう…。
「えっ、でも…さっき、そんなこと言ってなかった?」
 やっぱり、私の幻聴だったのかしら…ふぅ、少し頭がくらくらするかも…。
「た、確かに言いましたけれども、その…あぅ」
「ほら、やっぱり…。ほらほら、他に誰もいないみたいだから、はやくはやく…」
 着物姿も見たいけれど、そういうのもまた…。
「あぁ、何だかどきどきしてとっても熱いわ…」
「…暑さでおかしなことに…。大変、冷やさないと…」
「うふふっ、そんな、私は全然大丈夫よ?」
 そうそう、どきどきするのはあの子のことを想って、だもの…暑いのは確かだけれども。
「そんなことより、幸菜ちゃんのほうこそ、大丈夫なの…?」
「ちょっと、大丈夫じゃないかもですけど…暑くって暑くって…」
「そうよね、ものすごく暑いわよね…というわけで、脱いじゃいましょ」
「…先輩が脱ぐのでしたら、私も覚悟を決めますけれど」
 と、何だかかなり意外な言葉が返ってきた?
「えっ、私? ふふっ、そうね、幸菜ちゃんがそう言うなら…」
 さっそく立ち上がる私…なのだけれども。
「…あぅ」
 立ち上がった瞬間に目の前が真っ白になっちゃって、思わずまた座り込んじゃう。
「ほら、全然大丈夫じゃないじゃないですか!」
「…あぅ、ご、ごめんね、日本の夏がここまで暑いなんて、ちょっと予想以上で…」
 覚悟はしていたつもりだったのだけれど、全然足りなかったみたい…。
「いえ…最近の暑さは少し異常です」
 と、私の隣へ腰掛けながらそんなことを言う彼女。
「う〜ん、やっぱり地球温暖化の影響…?」
 そう言いかけて、あることが思い浮かぶ。
「…あっ、でも、地球温暖化の原因がCO2だって証拠はどこにもない、なんて聖スピカ女学院の変な人が言ってた気がするわ…」
 そうそう、あの台詞はあまりに唐突だったわよね…。
「はい、科学的根拠は全くありませんから…とりあえず、何かのせいにしないと安心できないのでしょうね…」
 う〜ん、幸菜ちゃんが言うと自然と納得できるわ…。
 温暖化なんて自然現象で、そのうち寒冷化が回ってきそうな気がするし…今すぐ寒冷化してもらいたいけど。
「とにかく、大人しくしてましょうね…あ、麦茶いります?」
 と、彼女、そんなこと言いながら水筒を取り出す。
 ムギちゃ…じゃなくって麦茶といえば、日本の夏の風物詩な飲み物だったわね。
「え、ええ、ありがとう…幸菜ちゃんも、ちゃんと飲んでね」
「はい、いただきます…お先にどうぞ」
 コップに入れた麦茶を差し出される。
「そんな、幸菜ちゃんがお先にどうぞ…いえ、そうね、先にいただくわ」
 少し思い直し、コップを受け取り麦茶をいただいて、空になったコップを返す。
「ふぅ、おいしい。それに、これで次に幸菜ちゃんがこれを使って飲めば、間接…うふふっ」
「そうですね…キスしちゃいましたね」
 と、返したコップを使ったあの子、笑顔かつ自然な様子でそう言ってくる…?
「えっ、幸菜ちゃん…え、ええ、そうね…」
 ちょっと意外な反応…もしかして、暑さで少しいつもと違ったりしちゃってるのかしら。
 でも、幸菜ちゃんがきてくれて少し落ち着けた…というより、彼女がいなかったら、私は今頃どうなっていたか…。
 やっぱり、私たちは運命で結ばれている、ということね。
 この運命を大切に…今日は、もう少しお互いに休んでから、二人でどこかへ行きましょうか。


    -fin-

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