〜屋上での再会〜
―私、橘深空は天姫学園の生徒ではないながら、色々な理由によってそこの制服を着て、そして学園へ出入りしています。
制服を勝手に着ている、っていっても完全な部外者ですから、見咎められたりするのでは…とも思っていたんですけど、今のところそういうことはありません。
こんなことでいいのかなとちょっと拍子抜けですけど、もちろんそのほうが好都合です。
でも、それでもやっぱりどことなく居心地の悪さを感じますから、どこか落ち着ける場所はないかな…っていうことで、そう人はいなさそうな屋上へ続く扉を開けました。
「ここは落ち着けそうですね…」
思ったとおりの静かな空間にほっとした…のもつかの間、足を踏み入れた屋上に人影が一つあるのが目につきました。
「…って、わっ! えっ、あ、あの子って、この間の…?」
しかも、それは見覚えのある姿…この間の公園で出会った少女でした。
どうしてこんなところに…しかも、なぜか手にした鉛筆を真剣に見つめてます?
「うん、こちらには気づいていないみたい…今のうちに、こっそり…」
立ち去ろうとしたのですけれど、彼女の次の行動を見て思わず足を止めてしまいました。
その子が鉛筆を片手でなでると、鉛筆が削れていく…。
「あれって、どういうこと…?」
あの子は特に刃物など持っていないですし…と、次の瞬間、その鉛筆は真っ二つになってしまいました。
「また、失敗しましたの…あら?」
「あ…」
視線を上げたその子と私、目が合ってしまいました…。
「ごきげんよう…また、お会いしましたのね?」
「え、えっと…ま、また、って…?」
この間のとき同様に微笑まれてしまいましたけれど、私は思わず目を泳がせてしまいます。
「あらあら、この間公園でお会いしましたの…忘れてしまいましたの?」
やっぱり彼女はあのときの子で、何だかじぃ〜っと見つめられてしまいます。
…み、見つめすぎです…視線が痛いです。
「え、えと…も、もうっ、わ、忘れてませんけどっ…」
その視線に負けて、こちらからは目を合わせないもののそう返しました。
もう、何とか誤魔化して立ち去ろうと思いましたのに…。
「あら、どうかしましたの? お顔が赤いの…お水飲みますの?」
「…えっ? べ、別に、赤くなんてないですし…そ、そんなの、いりませんから…!」
「あら、遠慮しなくってもよろしいですのに…」
水筒を差し出してきたその子はにこにこして…もう、この間もそうでしたけど、やっぱり調子が狂います。
「こんなところでお会いできるなんて思わなかったの」
ですから、どうしてそんな嬉しそうににこにこするんでしょうか…。
「わ、私だって思っていませんでした…あ、あなた、この学園の生徒だったんですか…?」
ちらりと見てみましても、その子の今日の服装はやっぱり制服姿…ちょっと普通のものとは違う様にも見えますけれども。
「はい、ついこの間転入いたしましたの」
そういえば、この間は迷子になりかかってましたっけ…。
「そ、そうですか…って、なっ、何ですっ…?」
と、彼女が妙にこちらを見つめてきていて、不安になってしまって思わず持っているみーちゃんを少しぎゅっとしてしまいます。
「先ほどからどうして目を合わせてくださいませんの?」
「…えっ? そ、そんなこと、別にどうだって…え、えと、あなたは、こんなところで何をしていたんですっ?」
何とも説明のしようがありませんでしたから、話をそらしてしまいます。
「あら、私は能力の特訓中でしたの」
「…能力? この学園はそういう人の集まるところでしたね…どういう能力なんですか?」
「私の能力は…」
彼女、床にあった鞄から筆箱、そして一本の鉛筆を取り出すと、もう片方の手でその側面にそっと触れましたけれど、その瞬間に鉛筆は真っ二つになってしまいました。
「…触ると切れてしまいますの」
「あぁ、なるほど、だからさっきも…ん?」
さっきのことは納得しましたけど、別の疑問が出てきました。
「でも、それならその持っている筆箱とかも切れてしまいませんか? それに、そんなのじゃ日常生活も大変そう…」
「ある程度制御できますから、大丈夫なの…心配してくださるなんて、やさしいですのね」
「そ、そうですか、それはよか…」
…って、あの子、またにこにこしちゃってますし…!
「だっ、誰も心配なんてしてませんからっ。そ、それに、私がやさしいなんて…わ、笑えない冗談ですっ」
おかしな言葉にぷいっとしちゃいます。
「あら、やっぱり照れていますのね…かわいいの。それに、そんなことありませんのに…」
やっぱりおかしなことばかり言ってきて…本当に、調子が狂っちゃいます。
これ以上関わる理由もないですし、少しあたふたしてしまいながらもその場を後にしましたけど、何なんでしょうか、もう…。
で、でも、きっともう会うこととか、ありませんよね…。
-fin-
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