〜おいもはいーもん〜

 ―秋に入っても気温の高い日が続いてたけど、でも十一月に入るとようやく季節の移り変わりをはっきり感じられる様になってきた。
 あたし…雪乃ティナが学校の放課後とかに巫女として務めてる、叡那さんが護る社を包み込む木々もすっかり色づいて、そしてその葉を散らしてく。
 あたしはその葉をほうきで掃いて、境内の片隅の一ヶ所に集めてくんだけど…。
「…ふぅ、ずいぶんな量になったわね」
 さすがにこの時期、落ち葉を集めると小高くなるほどになった。
「おねえちゃん、葉っぱたちをこれからどうするの?」
 そうたずねてきたのは、あたしの肩の上にちょこんと座ってきた小さな女の子…花の妖精のゆきのん。
 彼女も掃除を手伝ってくれてたんだけど、あたしの肩に座れるくらい小さいんだから掃除自体はあんまりできてなかったかも…でも頑張って手伝ってくれる気持ちは嬉しいし、それに見てて微笑ましくもあるわね。
「う〜ん、そうね…今日は風もないし、焚き火にするわ」
「わっ、燃やしちゃうの?」
「ええ、そうだけど、ただ燃やすってのもあれだし…」
 こういう日のために、あれをいくつか用意してたわね…さっそく持ってこようかしら。

 ということで家から持ってきたものを落ち葉の山の中へ入れて、魔法で火をつける。
 今日は寒いってことはないんだけど、でもやっぱり焚き火のそばにいるとあったかく感じる。
「焼けたらゆきのんも食べていいわよ」
「わぁい、ありがとっ。でも、こんなにたくさん、おねえちゃんが一人で食べるの?」
「いや…あたしは一つも食べないんじゃないかしら」
 首を傾げられちゃったし、叡那さんとねころ姉さんは外出中だからそう思われてもおかしくないのかもしれないけど、でもこういうタイミングで現れる子が少なくても一人はいるものね。
 そんなことを思ってると、背後から物音がしてきた。
「…どうやらきたみたいね」
 ゆきのんはまた首を傾げたけど、とにかく背後を振り向くと…そこには、さっきまではなかった段ボール箱があった。
 …全く、どうして素直に出てこないのかしらね。
 あえて見ない振りをしてまた焚き火へ目を移すとまた物音…で、また振り向いてみると段ボール箱がさっきより少しこっちに近づいてきてた。
「お、おねえちゃん、箱が動いて…」
「…ん、気のせいじゃない?」
 ゆきのんは戸惑うけど、あたしはあえてとぼけておいてまた焚き火へ目を移す。
「にしても、誰もこないわね」
「そ、そうみたいだね…」
「これじゃ、あたしとゆきのんの二人だけで食べちゃうことになるかしら」
「…にゅーにゅー」
 と、あたしたちの会話が耳に入ったのか、後ろから切なそうな声が聞こえてきた。
「誰か食べたいって人が現れれば、食べてもらうんだけど…」
「ふにゅにゅ、セニアが食べるにゃっ」
 あたしの言葉をさえぎって隣に飛び出してきたのは、ここの森で暮らしてる二人の小さな女の子のうちの一人。
「あによ、セニアったらいたの? 全然気づかなかったわ」
「にゅ、日々の訓練の賜物にゃ」
 胸を張るその子、セニアに対してゆきのんは何か言いたげな様子だけど、別にこのくらいの方便はいいでしょ。
「ま、とにかく…いたならしょうがないわね。ほら、ちょうど焼けたところだから食べてもいいわよ」
 あたしはそう言いながら手にした棒でたき火の中にあるものを突き刺して取り出し、それを紙でくるんであげてから渡した。
「にゅっ、ティナおねえにゃんがそこまで言うなら食べてあげるにゃ」
 それを手にしたセニアは嬉しそうにしながらもそんなことを言ってくる。
 全く、あたしも人のことは言えないんだけど、素直じゃないんだから。

 そんなセニアが熱そうにしながら食べてるのは焼きいも…この時期、こうして風のない日には落ち葉を集めて焼いてあげてるわけ。
 今日は落ち葉もずいぶん集ったし、結構な数のいもを焼いておいたんだけど、それが余っちゃう…なんてことにはならない。
「にゅっ、おねえにゃん、おいしい?」「ふにゅ、おいしいよ」
 セニアは同じくらいの小さな女の子…彼女の双子の姉なティアもいつの間にかやってきていて一緒に仲良く食べてる。
「わぁ、おいしいね、カティアちゃんっ」「…ん、おいし、ティセ」
 で、そんな二人とはちょっと離れたところでやっぱり仲よさげに食べてるのは、あたしの妹になるティセとその彼女といい仲なカティアちゃん。
 セニアたちは実は未来からやってきた二人の子供ってことなんだけど、今のところそのあたりはばれてないみたい。
「にゃあ、おいももなかなかおいしいデス」「…うん」
 そんな二組とはまた別に小さい子が二人いて仲よさげ…学園の温室で暮らしてる真紅ちゃんと、ティアが別の世界から召喚したあすなちゃん。
 こうして見ると、小さな子ばっかりで、しかも片方の子が大人しい感じの組み合わせばっかりだけど、まぁ微笑ましくっていいわね。
「ほむ、これはなかなかおいしいのぅ」「うんうん、おねえちゃんが焼いたんだから、当たり前だよっ」
 ゆきのんのほうは、他の神社に務めてるっていう、叡那さん同様にただ者ではない感じのする、ときどき今みたいにここにもやってくる鹿島栞さんの相手をしてるけど、その栞さんも背は低め…って、あたしよりずいぶん年上らしいし、あんまり失礼なこと考えちゃいけないわね。
 ま、とにかく、みんな喜んでくれてるみたいで、よかった。
「私にも一つくれませんか?」
「あ、はい、じゃあ少し待って…って」
 背後からかかってきた声にまたいもを出そうとしたけど、その前にとっても聞き覚えのある声なことに気づいてはっと振り向いた。
「あによ、誰かと思ったら閃那じゃない。閃那も焼きいも食べたいの?」
 そう、そこにいたのは閃那だった…んだけど、その彼女、少し顔が赤い上にふくれた様にも見える?
「あ、あによ、どうしたの?」
「…ティナさんはずいぶんモテモテなんですね」
「…へ?」
 ちょっ、いけない、閃那の機嫌がずいぶん悪い…こ、これってやきもちやかれてる、ってこと?
「こんなにみんなに好かれてるんでしたら、私なんていなくても大丈夫ですね」
「ちょっ、ま、待ちなさいよねっ? みんなただ焼きいも食べてるだけなのに、どうしてそうなるのよっ?」
「おいもでみんなを釣るなんて、ティナさんは悪い人です」
 もう、何言ってんのよ、困ったわね…何て言えば解ってもらえるのかしら。
 思わず抱きしめて解ってもらおうとしそうになるけど、こんなたくさん人のいる中じゃそんなことできないから思いとどまって…う〜ん、困ったわ。
「あの、私たちにもおいもをくださいませんか?」
「ほら、また新しい子が…って、い、今の声って…」
 別に声をかけてくる人が現れ、閃那がまたやきもちをやきそうになった…けど、その閃那が途中ではっとしてそっちを向く?
「は、はわわっ、えとえと、こ、こんなところで会えるなんて…ゆ、夢じゃ、ないですよね…!」
 しかもずいぶん慌ててそんなこと言うものだから不思議になってあたしもその人のことを見てみるんだけど…いつかどこかで見たことある二人?
「あっ、貴女はいつか学園のカフェテリアでお会いした…はい、もちろん夢じゃないですよ?」「そちらの巫女さんも、お久しぶりです」
 私たちにそう言ってくる一人はほんわかした雰囲気の、そしてもうお一人はずいぶん目立つ服装をした女の人だったんだけど、この二人は…。
「は、はひっ、またアサミーナさんとかなさまに会えちゃうなんて、何て言えばいいのか…とにかく嬉しいですっ」
 そうそう、このお二人って閃那が好きな声優さんだっけ。
 全く、ついさっきまであたしが他の人と仲良くしてたことにやきもちやいてたくせに、調子いいんだから…って、あたしは別にやきもちなんてやいてないんだからね?


    -fin-

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