〜いっしょにおひるね〜

 ―私立天姫学園という学校の近くにある神社に、未来からやってきた二人の女の子がいました。
 ティアちゃんとセニアちゃん…双子の二人はどちらもまだ小さくて、それに猫の耳をしたかわいらしい女の子です。
 妹のセニアちゃんはしっかり者で、また魔法の資質もかなり高いものを持っています…最近は、色々な人に鍛えられて、剣術の腕が特にのびているみたいです。
 姉のティアちゃんはのんびり屋さん…最近はお料理の勉強をしているみたいですけど、そんなティアちゃんはとある力にとってもすぐれていました。
 それは、別の世界などから何かを召喚する力…これを行うのは大変なことなのですけれど、ティアちゃんには天性の才能があるのかもしれません。
 大きくて強い鬼も呼び出せたティアちゃんですけど、はじめて召喚できたのは妖狐…おきつねさんでした。
 その子はただのおきつねさんではなくって、ちょっと大きめの、そしてふかふかな二尾のしっぽを持った子で、そのままでもかわいらしいんですけど、人間の姿に化けることもできました。
 セニアちゃんが「あすな」と名づけたその子は、ティアちゃんとセニアちゃんと一緒に、こちらの世界で暮らしていくことになりました。

 突然別の世界へ呼ばれることになったあすなちゃんですけど、それで困ったことなどはなくって、むしろ毎日幸せです。
 あすなちゃんは自分を呼んだティアちゃんや妹さんのセニアちゃんのことが大好き…おきつねさんの姿でふよふよ浮かびながらお二人の後をついていったり、女の子の姿で手をつないだりします。
 あすなちゃんには、元いた世界で生き別れになったお姉さんがいましたけど、そのお姉さんともこちらの世界で再会できました。
 そんなあすなちゃん、ティアちゃんたちに用事があったりするときは、ときどき一人でお散歩することもあります。
 元いた世界とはずいぶん違った雰囲気のこの世界のことが、ちょっと気になるのかもしれません。
 その日あすなちゃんが向かったのは、町の中で一際大きな施設、私立天姫学園。
 もちろんおきつねさんの姿のままだと目立っちゃいますから、女の子の姿になります…といっても、おきつねさんのしっぽと耳が出た着物姿ですから、それでも十分目立っちゃいます。
 幸い、この町や学園の人たちは少し不思議なくらいの人は見慣れていましたから、あすなちゃんも特に何事もなく歩いてこられました。
 その学園で少し言い香りを感じたあすなちゃん、それに釣られていって…たどり着いたのは、大きめの温室でした。
 気になりましたので中へ入ってみますと、そこはとってもあったかくって、それにきれいなお花もたくさん咲いていたんです。
「わぁ…」
 そんな素敵な場所でしたから、とことこ中へ進んでいきます。
 そんな温室で、あすなちゃんの目に自分と同じくらい小さな人影が留まりました。
「誰、かな…?」
 あすなちゃんはこれまで知らない人へ声をかけたことはありません。
「…こんにちは?」
 でも、その人影が自分と同じくらい小さくってさらににゃあにゃあという猫さんの鳴き声が聞こえてきたからでしょうか、とことこ歩み寄って声をかけてみたんです。
「コン、ニチハ」
 と、あすなちゃんに気付いたその子が顔を向けてきますけど、口調は少し片言です。
「アナタハ…ダァレ?」
 首をかしげるその子はかわいらしい女の子でしたけど、背中に小さな羽根がありました。
「えっと…あすな…」
 一方のあすなちゃんの口調はたどたどしい感じですけれど、彼女は元々口数の少ない子なんです。
「あなたは…ねこ、さん…?」
 先ほどの鳴き声から、それに一緒にいる二人の女の子を思い浮かべてそう思います。
「にゃあ…ネコ、ジャナイヨ?」
 その子はやっぱり猫さんみたいな声をあげながらも否定します。
「ワタシハ、マアカ…コノオンシツニ、スマウモノデス」
「そう、なんだ…?」
 丁寧にお辞儀をした女の子のお名前は真紅ちゃん…そのお名前を連想させる様に、副は赤いワンピースで髪も赤い色をしています。
「まあか、ちゃん…ここが、おうち…?」
「にゃあ、オウチ…マアカハココデウマレタ、トマトナノデス」
「…とまと?」
 聞き覚えのない言葉に首をかしげちゃうあすなちゃんですけど、そんな彼女を見た真紅ちゃんは温室で栽培されていたトマトを一つ差し出しました。
「タベテミルト…イイヨ?」
「…いいの?」
「タベナイト、バケテデルゾゥ?」
 うながされて一口トマトを食べてみます。
「わ…おいしい」
「オイシイ…ヨカッタ、ヨカッタ」
 二人一緒に笑顔になりました。
「あれれ、でも…」
「にゃあにゃ? ドウシタノ、ドウシタノ?」
「まあかちゃん…とまと、なの…?」
 そういえば、先ほどそんなことを言っていました。
「にゃあ、トマトナノデスヨ?」
「とまと…」
 あすなちゃん、先ほど一口食べたトマトと真紅ちゃんを見比べて少し考えます。
「…おばけ?」
 真紅ちゃんは別の意味で言ったのかと思いますけれど、それでも「化けて出る」と先ほど言っていましたからそんな結論に達したみたいです。
「にゃあにゃあ、オバケ…? オバケ…カモ?」
「わ…かわいいおばけ、だね…」
「にゃあにゃあ、カワイイ…? アスナモ、カワイイ…ヨ?」
「わ…あすな、も…?」
「にゃあにゃあ、ウン…」
 またお互いに微笑み合って、あすなちゃんのしっぽや耳も自然と揺れてしまいます。
「にゃあ、ミミト、シッポモ…タノシソウ」
 それをじっと見る真紅ちゃん。
「…キツネ、サン?」
「うん…あすな、きつねさん…」
「キツネサン…こんこん」
「えっと…にゃあ、にゃあ…」
 お互いに鳴き真似なんてしてみます。
「にゃあにゃあ…ナンダカ、フシギナキモチ」
「うん…ちょっと、ぽかぽか」
「ポカポカ…」
 二人とも、心があたたかくなったみたいです。
「ぽかぽか…おひるね…」
 と、あすなちゃんはそんなものを連想しました。
「まあかちゃん…いっしょに、おひるね…」
「にゃあにゃあ…ウン、イッショニ…」
 それから、二人の小さな女の子は温室でお昼寝を楽しみました。
 あすなちゃんと真紅ちゃんはそれからもよく一緒に過ごして、大の仲良しになったみたいです。


    -fin-

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