注文したものを待ってる間、あたしは特にすることがなかったから、ちょっと周囲の観察をしてみた。
 ほら、これまでこれなかったとはいっても、閃那の働いてる場所なんだから、気になるでしょ?
 席はほぼ満席で、店員さんは休む間もないくらい忙しそう。
 う〜ん、巫女の仕事や魔法の稽古なんかよりよっぽど大変そうであたしには無理そうな感じだけど、閃那はこんなとこで毎日働いてるっていうのよね…すごいわね。
 そう、すごいんだけど、あたしがちらりと耳にした話だとああらしいし、複雑な気持ち…って、そういえばその彼女の姿が全然見えない。
 ただでさえあんな服装してるんだから、ものすごく目立つはずなんだけど…。
「…お待たせいたしました」
「って、わっ?」
「ティナさんったら、そんなに驚いたりして、どうしたんですか?」
「べ、別に、何でもないわよ…」
 も、もう、いないと思ったらいきなり現れたりして、びっくりしちゃったじゃないの。
 ま、まぁ、でもそれはあたしの不注意なわけだし、閃那は普通にお料理を持ってきただけだからそれがテーブルの上に並べられてく。
「…って、閃那? ちょっと量が多い気がするんだけど…」
 というより、明らかに二人分じゃない、これって。
「はい、私も一緒に食べますから」
 彼女は平然とそう言いながらあたしの向かい側に座る…って。
「い、いや、そ、そんなこと言ったって、仕事のほうはどうすんのよ?」
「あっ、そっちは大丈夫ですよ。ちゃんと許可は貰いましたから」
「そ、そうなの…でも、ほんとにいいのかしら…」
 周囲の様子を見ると、ちょっと心配になってくる。
 忙しそうってこともあるんだけど、それ以上に一部の視線が…閃那目当てできてる人、っていそうな感じよね…。
「もう、ティナさんは心配性ですね。私が大丈夫って言ってるんですから大丈夫なんです」
「でも…」
「それに、私はティナさんと一緒にお食事できてとっても嬉しいんですから、まわりのこととか、そんなことは気にしなくってもいいんですよ」
 うっ、完全に心の中を読まれちゃってる…全く、やっぱり閃那には敵わないわね。
「しょ、しょうがないわね、もう料理も持ってきちゃってるんだし、一緒に食べるわよ」

 料理はわざわざ閃那が自分で作ったらしくって、なかなかおいしかった。
「それにしても、ティナさんは毎日お昼を食べてないんですか?」
 のんびり食事をしてると、そんなことをたずねられた。
「ま、まぁ、そうね」
「そんなのいけませんし、明日からもここで一緒に食事をしましょう。いいですよね?」
 笑顔でそう言われるけど、その言葉はどことなく強めで…あたしはうなずくしかなかった。
 まぁ、閃那が大丈夫だって言うなら断る理由もないし、彼女と一緒にいられる時間が増えるっていうのはいいことだものね。
「でも、ちょっと安心したりもしてるんですよ?」
「安心…って、何がよ?」
「お昼休みに誰かとラブラブな時間を過ごしてるんじゃないか、って」
「んなっ、そんなわけないでしょっ?」
 もう、あたしが閃那以外の人とそんなことするわけないっていうのに…。
「そうですね、でもティナさんが今までカフェテリアにきてくれなかったのも、私と似た様な不安をいだいていたから…じゃないんですか?」
「そ、それは…まぁ、そうね」
 う〜ん、相変わらず心を読まれちゃってる。
 あたしがなかなかここに足が向かなかったのは、まぁ…ね、閃那はここでアルバイトしてるくらいなのに結構人気があるっていうし、そんな子たちと好きな人が仲良くしてる姿って、あんまり見たくないもんじゃない?
「ふふっ、確かに常連さんと仲良くなったりはしますけど、ティナさんは特別なんですからね?」
「あ、あたしだって友達くらいちゃんといるけど、閃那は特別な人なんだから…!」
 あぁ、もうっ、何を恥ずかしいこと言ってんのかしら…顔が赤くなっちゃうのを、水を飲んでごまかす。
 そんなあたしを見てた彼女が微笑んで…ちょっとおかしくなって、あたしも微笑み返した。
 …何だ、閃那も同じ様なこと考えてたのね。
 でも、もう大丈夫…明日からは、ここで一緒にお昼を食べましょう。
「…って、でも閃那、アルバイトのほうは本当に大丈夫なの?」
「はい、もちろんこうしている間のお給料は減っちゃいますけど」
「そ、そうなの、それは悪いわね…」
「大丈夫です、それについてはいい考えがありますから」
「ん、あによ、それは」
 働く時間をのばす、とかっていうのならやめてもらいたいわね…。
 そんなことを考えるけど、どこか楽しげな彼女の口から出たのは思いもしないことだった。
「はい、私は放課後までここでアルバイト何ですけど、その時間はティナさんも一緒に、ってどうですか?」
「どう、って…えっと、あたしもここでアルバイトする、ってこと?」
 笑顔でうなずかれたけど、それはちょっと…あたしにできるかって言われると、かなり不安。
「大丈夫ですよ、放課後はそんなにお客さんこないですから。一緒に同じことができるって、素敵なことだと思いませんか?」
 う〜ん、そうね…でも、あの閃那の笑顔には何か裏がありそうな気がする。
 疑うのはよくないんだけど…って。
「…言っとくけど、あたしはその服着ないからね」
「えぇ〜、そんな、一緒の格好をしましょうよ」
 もう、やっぱりそれが狙いだったのね。
「だ、ダメよっ。そんなメイドの服装なんてねころ姉さんや閃那には似合ってもあたしには似合わないし、それに恥ずかしいわよ…!」
「あぅ、似合ってるなんて、ありがとうございます…って、とにかくいいじゃないですかぁ」
「う、うっさいっ!」


    -fin-

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