午前中の授業も無事に終わって、お昼休みを告げるチャイムが鳴った。
「今日のお昼は何にしましょうか」「学食に行ってから決めましょう?」
「いいお天気ですし、中庭でお弁当を食べましょう」「ええ、そうですわね」
 教室内は一気に賑々しくなって、みんなそんな声を交わしたりしはじめるんだけど、あたしはそんな中席を立って一人教室を後にした。
 チャイムが鳴った直後だからまだそれほど人の姿の多くない廊下を抜けて、そして階段を上って向かった場所は校舎の屋上。
 別に立ち入り禁止の場所じゃないんだけど、まだお昼休みになったばかりだから誰もいない。
「さてと、それじゃ…」
 そんな中、あたしは服装を制服からバリアジャケットっていう魔法を使うときの服へと変化させて、ゆっくりと空の上へと向かおうと…。
「…って、ん?」
 少し浮かび上がったところで、後者のすぐそば…グラウンドの端のほうに、小さいながらも見慣れた人影を見つけたの。
 う〜ん、この時間にあんなところにいるってのは、きっとあれよね…じゃあ、邪魔しないほうがいいか。
 そう考えてそのまま上空へ向かおうかと思ったんだけど、その人影はこっちを見上げて…しかも足を止めた?
 さらにはずっとそのままで見上げてきてるし…降りたほうがいいのかしら。

「ティナさん、そんな格好して何をしにいこうとしていたんですか?」
 あたしのことを見上げてたのはやっぱり閃那で、そんな彼女の前に降りるとさっそくそんな声をかけられた。
 …な、何か機嫌悪そうね。
「え、えっと、閃那こそ、学園の中にきたりして、どうしたの?」
「私はこれからカフェテリアのほうにアルバイトしに行くところですけど、私のことよりティナさんのほうは何してるんですか?」
「えっと、まぁ、お昼休みだし、魔法の稽古でもしようかな、って…」
「う〜ん、お昼休みの過ごしかたは自由かもですけど、でもお昼ごはんはちゃんと食べたんですか?」
「い、いや、食べてないけど…」
「もう、どうしてそんな…無理しないでくださいっ」
 ものすごく詰め寄られてしまった…まわりに人がいなくてよかった。
 でも、そんな無理はしてないつもりなんだけどな…お昼を食べないのも、別にそんなにおなかがすいてないだけのことだし。
「そういえば、叡那お母さんもエリスお母さんに誘われるまでティナさんと全く同じことをしてたそうですし、もしかして似ちゃったんでしょうか…」
 あたしに奇跡を起こしてくれたのは確かに叡那さんなんだけど、そうなんだ…。
「じゃあ、私もティナさんを誘えばよかったんですね…今からカフェテリアに行きましょう」
「…へ? い、行ってどうすんのよ?」
「もう、お昼ごはんを食べてもらうに決まってるじゃないですか」
「い、いや、でも、閃那はアルバイトだから食事はできないんでしょ?」
「そうですけど、その分ティナさんをしっかり接客しますから…そもそも、今までティナさんは私がいるってことを知りながら一度もきてくれたことがないですよね?」
「そ、それは…」
 ちょっと不機嫌そうな閃那にあたしは言葉を詰まらせてしまう。
 いや、何か行くのが恥ずかしい気がしたし、それに他にもちょっと思うところがあって、なかなか足が向かなかったのよね…。
「今日は絶対にきてもらいますからね…行きましょう」
 腕までつかまれちゃってもう逃げられるわけもなく、あたしは制服姿に戻って覚悟を決めたのだった。

 お昼休み、食事をする人はだいたい学食へ行くかお弁当を持ってくるかのどっちかなんだけど、学食とは別にあるカフェテリアで取る人も少なからずいる。
 で、そんなお昼休みのカフェテリアへはじめてきたわけなんだけど、やっぱり結構人がいるわね…。
 そんな中、閃那はあたしの手を握ったままで迎えようとした店員さんを制して歩いてって、あたしを端のほうにある空いてた席に連れてった。
「それじゃ、ここで待っていてください」
 彼女は一言そう言ってどっか行っちゃったけど、アルバイトにきたって言ってたし、しょうがないわね…大人しく座って待ってるとしようかしら。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
 ちょっとしたところで店員さんらしき人が歩み寄ってきて声をかけてきた。
「…って、せ、閃那っ? あ、あによ、その格好はっ?」
 それは閃那だったわけなんだけど、彼女の姿を見て少し驚いてしまった。
 だって、今の彼女の服装はねころ姉さんみたいなメイドのもので、しかも見る限り他の店員さんはそんな格好じゃなかったから。
「これは趣味ですよ?」
「んなっ、趣味って…そんな理由で、いいの?」
 まぁ、彼女の嗜好は知ってるんだけど、そんな勝手なこと…。
「大丈夫ですよ、そのあたりはある程度自由になってますから」
 …って、ずいぶん大らかなとこなのね。
 まぁ、この学園自体、そういう妙に大らかなとこがある感じだけれども…。
「それで、ご注文は何になさいますか?」
「あ…ご、ごめん、何も決めてないわ」
 テーブルの上にちゃんとメニューも置いてあるっていうのに、何やってんのかしらね、全く。
 でも、閃那もずっとここにいるわけにもいかないでしょうし、さっさと決めないと。
「えっと、じゃあ、閃那のお勧めなもの持ってきてもらえる?」
「はい、解りました。では、少々お待ちください」
 ぺこりと頭を下げて閃那はあたしのそばから離れていった。

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