ずいぶん長いこと続いた光がやっと消えて、窓の向こう側が少しずつ見える様になってきた。
「…って、人影?」
何者かが立ってるのが見えた…光が完全に消えるまでははっきり見えないんだけど、さっきまでは何もいなかったはずよね?
で、しばらくしたらちゃんと見える様になったんだけど…。
「…あ、あによ、あれ?」
向こうの部屋の中心にあった箱が開いてて、その前に人が目を閉じて立ってた。
だいたい十七歳くらいに見えるその何者か…白いスクール水着っぽい格好をしてた。
もしかして、あの箱の中にいたのかしらね…でも、ここって遺跡の奥深くだし、あによ?
「各部…良好。トリガーハート・サリサディア、起動したわ」
そいつ、そんなこと言いながらゆっくり目を開けた。
「…は? 何言ってんのよ…っていうか、あんた何者よ?」
窓越しだったんだけど、向こうの声がこっちに聞こえたみたいに、こっちの声も聞こえたみたいで、視線をこっちに向けるとすっとなめらかな動きでこっちの真ん前にまでやってきた。
「あ、あによっ?」
結構な美人だと思うけど、じっと見つめられたってあたしはどきどきなんてしないわよ?
「な、何か言いなさいよねっ? だ、第一、そんな格好してて恥ずかしくないのっ?」
「…貴女が、私を起動させたの?」
「…きゅーっ? ど、どういう意味よっ?」
あ、あによ、冷ややかな視線を向けられても、意味解んないものは解んないんだから。
「…どうやら、偶然起動させてしまったみたいね。けれど、貴女の様な子供が…他に、誰かいないのかしら?」
「あ、あによ、こんな遺跡の奥深くに、他に誰かいるわけないでしょ?」
まぁ、こいつがいたんだけど。
「遺跡…なるほど、では私はずいぶんと長い間、眠り続けていたのね」
眠り続け…って、あの箱の中で、ってこと?
「私を作り出した者たちもすでに亡く、か…こうして目覚めたのは、必要なことだったのかどうか…」
「ちょっと、さっきから何言ってんのよ?」
全然意味解んないし、話もかみ合わない。
「そうね、子供には難しいかしら」
「きゅーっ、バカにしないでよねっ」
「あら、かわいい…私はトリガーハート・サリサディア。対月面勢力殲滅のために作られた戦闘兵器よ」
かわいいって誰のことよ…って?
「月面勢力、ってあによ…っていうか、兵器ですって?」
こいつ、どう見ても人にしか見えないんだけど、あたしが使ってるユニットみたいに昔に作られた、ってこと?
「貴女の様子を見ていると、月面勢力との戦争も遥か古のこと、ということが解るわ。けれど、自分の目で今の世を確認したいものね」
「…は?」
「私を起動させたこと、お礼を言うわ。もっとも、今の世に私が必要とされているかは、解らないけれども…」
そいつ、そんなこと言うと…浮かび上がって急上昇していった?
しかも、その部屋にあった機械もそいつについてって…で、直後に部屋に振動が伝わってきた。
「なっ、何したのよっ?」
向こうの部屋に通じる扉はない…けど、ガラスに氷柱を投げつけて割って、向こう側に行って上を見上げてみる。
そこには大きな穴…さっき開いたばっからしく、煙いし石とかも落ちてくる。
さっきの奴が開けてったみたいだけど、先が見えないし…なかなかやるじゃない。
「って、きゅ、きゅーっ?」
やばっ、何か崩れはじめてきた…こんな穴開けるからよっ。
こ、この穴が地上まで続いてるって信じるしかないわね…行くわよっ。
幸い、長い長いその穴を抜けた先は地上だった。
あたしが飛び出した直後にその穴は崩れてふさがってしまった…間一髪ってとこね。
一応あたりを見回してみたけど、さっきのあいつの姿はどこにも見当たらなかった…。
「…ってまぁ、そんなことがあったのよ」
夜、ひと気のない学校の学食で、今日あったそんなことをあたしは話してた。
「あらあら、それは大変だったわね〜」
そんなあたしの話を聞いてるのは、先生のくせにここで食事作ってる五十鈴っていう幽霊な教師。
ま、あたしも探検が大変だったからおなかすいてたし、そいつの作ったごはんを食べながら話してるんだけど。
「あんなの発見するなんて、さすがあたしよね…すごいでしょ?」
「うふふっ、はい〜、さすがなっちゃんです」
「ま、あたしの実力なら当然なんだけどねっ」
「でも…あんまり、危ないことしちゃダメですよ?」
って、後ろから抱きしめられた…!
「きゅ、きゅーっ、わ、解ってるわよ…お、お姉ちゃんに、心配かけるわけにはいかないもんね…?」
「はい、なっちゃん…」
は、恥ずかしいけど、わ…悪くはないわよ?
料理もおいしいし…そ、それに、まぁ、あたしたちは、そういう関係だから…。
…にしても、トリガー何とかのサリサ…名前忘れちゃったわ。
あいつ、何してんのかしらね…ま、いいんだけど。
-fin-
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