〜恋は盲目?〜

「今日はいるかな〜」
 ―ここ、私立天姫学園の生徒じゃない私…山城すみれだけど、でも結構ここにはこさせてもらっちゃってる。
 時間があるときには、この学園のカフェテリアへ足を運んだり…そこでアルバイトしてるあの子に会うのが目的。
 やってきたそのカフェテリア、店員さんの中にその子の姿はないみたい…だけど。
「…あっ、あそこにいるのって」
 テーブルの一つについているのは、あの子に間違いない…今日はお客さんとしているみたいだけど、とにかく会えて嬉しい。
 さっそくそっちに歩み寄ってくんだけど、その彼女はといえば何か本を読んでるみたい?
「…何か熱心に読んでるみたいだけど、どうしたのかな?」
 後ろからこっそりのぞいてみよう…と。
「あ…センパイですか、びっくりするじゃないですか」
 気づかれちゃったみたいでこっちを振り向くのは片桐里緒菜ちゃん。
「あっ、ごめんごめん」
 でも、あんなこと言う割にはずいぶん平然とした感じで、そして何事もなかったかの様に読んでた本を隠そうとしてる?
「…って、何読んでたのかな?」
 気になっちゃって、その本へ手を伸ばしちゃう。
「うっ…何でもないですよ」
「もう、何でもないなら見せてくれてもいいよねっ」
 なおも隠そうとする彼女に、私のほうも身体をくっつけて取り上げようとする。
「うぅ、別に勝手にしたらいいです…」
 と、観念した様子で本を渡してくれた。
「ん、ありがと」
 身体を離して、あの子の隣に座らせてもらう。
「…全く、近いです…どきどきするじゃないですか…」
 と、あの子、何かごにょごにょ言ってる?
「ん、何か言った…って、顔が赤いみたいだけど、どうしたの?」
「別に、ただ近すぎてどきどきしただけですから…」
「…へ?」
 近すぎ、って…さっき、私が本を取ろうとしたときのことかな。
「あ…そ、そういえば、ちょっと近づきすぎちゃったかな?」
 っていうより、もう完全に密着しちゃってたし…。
「あれっ、え〜と、私も何だかどきどきしてきちゃったんだけど…」
 うぅ、どうしたんだろ、里緒菜ちゃんに密着したのとか、別にはじめてってわけじゃないはずなのに…。
「ふふっ、センパイはかわいいですね」
 と、そんなこと言うあの子、私の頭をなでなでしてきちゃう…!
「…わっ、ちょっ、里緒菜ちゃんっ? もうもう、里緒菜ちゃんのほうがかわいいのに、何言って…しかも、ちょっと恥ずかしいんだけど…」
 でも、この子にこうしてなでられるの…嫌いじゃないな。
「私がかわいいとか…あるわけないじゃないですか」
 あの子、なでるのやめちゃうんだけど…。
「もう、またそんなこと言って…里緒菜ちゃんはかわいいよ」
 私の言葉に真っ赤になって黙っちゃったりして、解ってくれたのかな。
「…いい病院、紹介しますけど?」
「ぶぅぶぅ、それってどういう意味かなっ? 里緒菜ちゃんならアイドルみたいな活動しても大丈夫だって思うのに〜!」
 もう、全然解ってくれてなかった…困ったものだよ。
「そんなの、私のキャラじゃないですし…まぁ、センパイと一緒なら考えてもいいですけど?」
 と、私が勢いで口にしたことに反応された?
「まぁ、里緒菜ちゃんならそう言うと思ったけど…って、へ? わ、私と一緒なら、って…私こそアイドルなんて柄じゃないよ!」
 しかもあんなこと言ってきたものだからあたふたしちゃう。
「そうですか? センパイだって十分かわいいですよ?」
 そんな私のことを、あの子はじぃ〜っと見つめてきたりしちゃって…。
「うぅ〜…もうもうっ、里緒菜ちゃんこそ病院に行ったほうがいいかもしれないよっ?」
「恋は盲目…かもしれませんね?」
「…へっ? そ、それってどういう…」
「さぁ、どういうことでしょう?」
 も、もうもう、どきどきが収まらないんだけど、私のこの気持ちって…えっ、わわっ?

「え〜と、そういえばこれって…」
 大きく深呼吸して気持ちを落ち着けて…あの子から受け取った本へ目をやってみる。
「この間出たばかりの写真集ですよ…夏梛ちゃんと麻美ちゃんの」
 彼女の言葉どおり、その表紙にはとっても見覚えのある二人の姿。
「あっ、あの二人の写真集か…二人の活動も順調みたいで何よりだね」
「そうですね…楽しそうで何よりです」
「うんうん、そうだね」
 ぱらぱらっとページをめくってみるけど、写真の二人はやっぱり仲良さげでいい感じ。
「でも、別に隠す様なものじゃないんだけど…どうして隠そうとしたの?」
「いえ、センパイを前にすると隠さなきゃっていう謎の思考が働くんです…謎ですね」
「そ、そうなんだ…むぅ〜、それは本当に謎だね…」
 何なのかな…里緒菜ちゃんっていわゆるツンデレのところがあるから、そのあたりで何かあるのかも。
「隠したりするから、てっきり悪いことしてるんじゃ、なんて考えそうになっちゃったし…もうもうっ」
「まぁ、やましいならカフェテリアなんかで見たりしませんけれども」
「そ、それはそうかもしれないんだけど、ね…?」
 何にしても、おかしなことしてたってわけじゃなかったからよかった、かな。
「でも、里緒菜ちゃん、二人の写真集を買ってあげたんだ…ファンなのかな」
「まぁ、ファンというか、仲間というか、その…友達ですから」
「あ…うんうん、そっかそっか。夏梛ちゃんと麻美ちゃんが…これからも仲良くねっ」
 恥ずかしそうなあの子の言葉に、私は嬉しくなっちゃった。
「この二人は本当にすごいと思います…」
 と、そのあの子、そんなことを呟く…?
「うん、そうだね、二人ともずいぶん頑張ってるし…」
「…私たちも二人みたいに…」
 そのあの子がさらに何か呟いた気がしたけど、よく聞き取れない…。
「…ん、里緒菜ちゃん、何か言った? 顔がちょっと赤いけど…」
「いえ…センパイはかわいいな、って言ったんですよ?」
 何だか誤魔化されちゃった感じも受けるけど、どっちにしても…!
「むぅ〜、またそんなこと言って…!」
 また恥ずかしかったりどきどきしたりしてきちゃう。
 でも、そんなのも含めて、やっぱり里緒菜ちゃんと一緒にいるととっても幸せで…一緒に活動してる夏梛ちゃんと麻美ちゃんが羨ましくなるかも。
 …って、ん、こんな風に感じるっていうのは、やっぱり…え、え〜と?


    -fin-

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