〜みーさのお姉さま〜

「美紗ちゃんの新作、やっぱり相変わらずよかったわね」
 ―ひと気の少ない、大きな図書館の一角にある席に座っている私…藤枝美亜は、つい今しがた読み終えた本を閉じながらそう呟きます。
 その本は、今のところここ…私の母校でもあるこの私立天姫学園の図書館にしかおかれていないもので、私はそれが読みたくってときどきこうしてこさせてもらっています。
 きれいに装丁されているものですけれど、一般では売られたりしていないのですよね…。
「こんな素敵な百合の子たちがいるのだもの、美紗ちゃんも毎日幸せでしょうね」
 思わず微笑みますけれど、その本はこの学園に実際にいる生徒をモデルにして書かれた百合な物語で、そしてそれを書いているのは藤枝美紗…私の妹です。
 あの子は百合なお話が大好きで、こうして自分で書いた上に本にまでしちゃってます。
 私は自分で物語は書きませんけれど、でも百合なお話は大好きで、それで妹の書く物語もよく読んでいる、というわけです。

「あら、あの二人、仲がよさそう…うふふっ」
 図書館、そして学園を後にする私ですけれど、その途中仲のよい女の子たちを見て微笑んじゃいます。
 物語だけじゃなくって、実際に百合な関係の子たちを見るのも大好きですから…この学園にはそういう子が多くって、在校時には毎日の様にそういう子たちが見られてとっても幸せだったわね。
 時には、私の持っている能力を使ったりして、思い悩むお二人を一緒にしてあげたり…今でもあの能力は使えるけれど少し恥ずかしいこともあって使っていませんけれど、それでも相談には乗ってあげられるもの。
「さてと、それじゃ…少し材料を買ってから、帰りましょ」
 ちょっとお店へ立ち寄ってから、大学へ通う傍らでアルバイトをしている場所へと向かう。
 あの場所も、学園ほどではないけれども百合な子たちを見られることがあって、幸せ…うふふっ。
「…あら?」
 そうして市街地を歩く中、ふと視線、それに特殊な気配までも感じて、足を止めちゃいました。
 その気配は百合な恋をしている女の子から感じられるものとはちょっと違うのですけれど、でも全然違うというわけではなくって、それにとってもよく似た気配の子を私はよく知っている…。
 気になって目を向けると、そこには一人の女の子の姿…。
 私より少し背の低めな、気の強そうな子でしたけれど、やっぱりこの子が…みたいです。
「あら、何かしら? わたくしに喧嘩を売っているのかしら?」
 と、その子、私がじっと見つめちゃったのに気づいてか、そう言いながら歩み寄ってきました。
「あら、うふふっ、そういうわけじゃないわ」
 にらまれてしまったのですけれど、それが何だかかわいらしく感じられて微笑んでしまいます。
「貴女から、ちょっと…あの子に似た気配を感じたから、気になっちゃって」
「…ふん! ナンパなら間に合っていてよ?」
 ぷいってされちゃいましたけれど、そんな仕草も微笑ましいです。
「あら、そういうつもりじゃなかったのだけれど…それに、貴女から私へ視線を向けてきた気がしたのだけれど、気のせいだったかしら…?」
「…ぅ、鋭い」
 私の言葉にその子は一瞬顔を引きつらせて…
「き、気のせいじゃないかしら?」
 ちょっと動揺した様子で誤魔化そうとしてきました。
 う〜ん、どうしてこの子が私へ視線を向けてきたのか気になっちゃいます…けれど。
「うふふっ、そうね、ではそういうことにしておきましょ」
 あまり困らせるのもあれですから、そう言って微笑んでおきました。
「なっ、べ、別にいいわよ。感謝なさい!」
 顔を赤くしたりして、かわいい…あっ、いいことを思いつきました。
「ええ、ありがと。じゃあ、お礼に…私のお店へご招待しようかしら」
「お店? 何のお店かしら?」
「ええ、喫茶店なのだけれど、どうかしら」
「ふん…仕方がないわね…」
 言葉の割には微笑みかけてくれましたし、喜んでくれているみたい。
「うふふっ、よかった。じゃあ、もうすぐそこだから、いらっしゃい」
「ち、ちゃんと案内しなさいよね?」
 微笑みながらゆっくり歩き出す私に、その子もついてきてくれました。

 私のアルバイト先は、街の中心部からは少し外れたところにある喫茶店。
「で、わたくしが誰に似てるというのかしら?」
 そこへ向かう途中、隣を歩くあの子にじとーっとした目を向けられながらそうたずねられました。
「ええ、私の妹、かしら」
 昔から感じてきた美紗ちゃんの雰囲気、それに近しいものを感じるの。
「…妹さんに? わたくしに似ているのなら、相当かわいらしい感じなのでしょうね」
「うふふっ、そうね、今は高校二年生なのだけれど、とてもかわいいと思うわ」
 もっとも、外見や性格などはこの子と似ていないのだけれど…でも、どちらもとてもかわいい。
「…姉妹百合…はぁはぁ…」
 と、その子が小声でつぶやいたのが耳に届きましたけれど…あら。
「…やっぱり、似ているわ…ふふっ」
「…こほん。で、どちらが攻め…いえ何でもないですわ?」
 私の呟きも届いたみたいですけれど…。
「あら、何でもないの? ならいいのだけど…ふふっ、妹よりちょっとおませなのかしら」
 美紗ちゃんはそういうったことはあまり気にしていない、無邪気な感じだものね。
「な…何を言っているの?」
「いえ、何でもないわ」
 あたふたしてしまうその子にやさしく微笑みますけれど、やっぱり似ていると感じたのは間違っていなかったみたい。
 つまり、この子も百合なお話が大好き、というわけなのだけれど…ここまで似ていると感じたということは、もしかするとただ読んだりするだけじゃなくって…。

 そんなことを話しているうちに、私たちは目的地へたどり着きました。
「さ、中へ入って」
 せっかくだからのんびりしてもらいたくって、お店を閉めた状態のまま中へ迎え入れます。
「…ふ〜ん。なかなかいい雰囲気じゃない?」
 中へ入ったその子、一通りあたりへ目を通すとそう言ってくれました。
「うふふっ、ありがと。私は一応アルバイトなのだけれど、でも基本的にこうして一人でお店を任せられていて、内装とかも好きにさせてもらっているから、嬉しいわ」
 そういうわけなので、飴色な紅茶館の様にな雰囲気にしているの。
「そうなの? でも、大変そうね…?」
「あら、そんなことないわ? お茶を淹れるのは好きだし、それに…ここにくるお客さんを見ているだけで、幸せだもの」
 今日はこうしてまた一つ素敵な出会いがあったわけだし、幸せ。
 やさしく微笑むと、その子は顔を赤くしちゃって…かわいい。

 ―それから。
 その子に、私の淹れたお茶を出してのんびりしてもらいましたけれど、おいしいと言ってもらえてよかったです。
「そういえば、名前を聞いてない…」
 そして私も名乗っていないと気づいたのは、その子が帰った後。
 また、会えるかしら…お店へきてくれたりしたら、とっても嬉しいのだけれど。


    -fin-

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