〜続・真綾さんファナティクス?〜
―私、雪野真綾ことマーヤ・スノーフィールドが日本の私立天姫学園へ編入してからもう数日。
勉強のほうも問題なくついていけているし、大丈夫…ただ、特殊な能力を持つ人の通う学校ということで、その能力を使わなくてはいけない場合があるのは少しつらいけれど。
高等部のクラスの皆さんとも打ち解けたけれど、皆さんにも「雪野真綾」の名前で呼んでもらっているの。
この名前をはじめて名乗ったのは、忘れもしない…あの運命の出会いのとき。
でも、あの日以来、あの子とは会えていないのよね…中等部へ押しかけちゃおうかしら。
そんな今日は休日ということで、素敵な大和撫子な店員さんのいらっしゃるお店で買った和とゴシックが融合したみたいなおよーふくを着てお散歩。
「これから暑い季節になってくるのね…暑いのは、少し苦手かも」
少し強めの陽射しに黒い日傘を差すけれど、これもこれからもっと強くなるのよね…。
私の母国は冬が寒い分夏は涼しかったし、日本のここは大変なところかも。
「…あら、あそこいにいるのって」
と、ふと通りかかった公園のベンチに座る人影を見て胸が高鳴り、思わずそちらへ歩み寄っちゃう。
だって、そこに座っていた女の子は、あの日屋上で出会った、私の大好きな子だったのだもの。
「…こんにちは。こんなところでまた会うなんて、やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれているのね」
そしてさっそく声をかけてみるけれど、反応がない…。
「…あ、えっ? 雪野先輩、こんにちは」
はっとした様子で顔を上げられたけれど、何か考えごとをしていたのかしら…。
「ええ…隣、いいかしら」
「あ、はい、問題ないです!」
「よかった…ありがとう」
ともかくまずはこの子…真田幸菜さんにお会いできたのが嬉しくって、お言葉に甘えて日傘を閉じるとすぐ隣に腰かけさせてもらう。
「それにしても…やっぱり、とってもかわいい。我慢できなくなっちゃいそう…」
すぐそばで見る彼女はやっぱりそうで、むずむずしてきちゃう。
「そんな…私なんかより先輩のほうが素敵だと思いますよ?」
「わっ、そんな、ありがとう」
その彼女はあんなこと言って微笑んでくるものだから、私も微笑み返す。
「でも、私はやっぱり、貴女みたいなかわいくって黒髪のよく似合う大和撫子な女の子が素敵だって思うわ」
「え、えっと、どうなんでしょう…機械で油まみれな大和撫子なんていないと思いますけど」
戸惑った様子でそう言われたけれど…?
「機械で油まみれ? 幸菜ちゃんって普段そんな感じなの?」
「え…は、はい」
恥ずかしそうにしちゃったりして、かわいいわね。
「そっか…少し意外かも。でも、機械いじりをする女の子、というのも珍しいけどかわいいものよね」
「そ、そうでしょうか…そもそも、大和撫子の基準って何なんでしょう…?」
「う〜ん、そうね、私なりの解釈だと、奥ゆかしいけど芯は強くって、それに黒髪で和服の似合う素敵な女性ね」
「やっぱり、真っ先に九条先輩が思い浮かびますね…?」
私の場合、ついこの間まではアヤフィールさんが思い浮かんだところなのだけれど…。
「あら、私は真っ先に貴女が思い浮かぶわ」
もう我慢できなくってぎゅってしちゃう。
「こんなにかわいいんだもの…ねっ、着物を着てみないかしら」
「はぅあ!? え、えっと、機会がありましたら…」
さらに思わずすりすりしちゃって驚かれちゃったけど…そう、この子の着物姿、見てみたいわよね。
「ええ、きっとよ。とっても楽しみ…」
約束してくれたのが嬉しくって、さらにぎゅってしちゃった。
「そういえば、さっきはずいぶん考えごとをしていたのね…何か悩みごと?」
ゆっくり彼女を離した私、声をかけたときの様子が気になってたずねてみた。
「いえ、悩みごとというわけではないんですけど…」
「そうなの? 悩みごとでないならよかったけれど、でもそれならどうしたの? もしよかったら、私に聞かせてもらえると嬉しいわ」
「え、えっと…どう説明していいものか悩みますけど…」
「あっ、ううん、話すのに悩む様なことならいいわよ? 困らせたいわけじゃなくって、その逆なんだもの」
そう、先輩として、そして好きな子への力になりたい、って考えるのは自然なことよね。
「…私の能力について考えていたんです」
「…能力?」
彼女もあの学園の生徒である以上、何らかのものは持っているはず、なのよね…。
「幸菜ちゃんの能力は、何か大変なものなの?」
「大変…といえば大変かもしれません」
う〜ん、私は自分の能力について特に気にしていないのだけれども、そんな気楽なものではなさそうな雰囲気ね…。
「差し支えなければ、どの様なものなのか聞かせてもらえるかしら」
「えっと、他人の能力をそのままコピーしちゃうんです」
そう、彼女の能力はそうしたすごいものだったのだけれど、それだけに色々制約があったりするそう。
例えば目で直接確認できるものしかダメだったり、三十秒で使えなくなるそうだったり…。
「う〜ん、その時間が過ぎたら幸菜ちゃんがぐっと疲れたりとか、そういうことになったりはしない?」
そこがちょっと心配になって訊ねてみる。
「能力にもよりますけど、負担はそれなりにかかりますよ? この間なんて、危うく気絶しかけましたから…」
「えっ、それは大変! そんな危険なこと、無理してしなくっても…!」
思った以上に危険そうで顔色が変わっちゃった。
「いえいえ、大丈夫ですよ…それに、この能力の解明は私に課せられた使命だと思っていますので」
でも、彼女はそう言って微笑んでくるの。
「そう言うのならいいけど、本当に無理はよくないわよ?」
やっぱり心配…だけれど、そうして何かに熱心なのは感心なことだし、頑張っている彼女を思わずなでなでしちゃった。
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