〜アサミーナとかなさまと真夏の一日〜

 ―遠くへお仕事に行っていた夏梛ちゃんも無事に帰ってきてくれて。
 今日は夏梛ちゃんはお休みで、私はお昼までちょっとお仕事があったから、そちらを終わらせてからあの子のところへ向かうの。
「わっ…あ、暑い…」 
 外はまさに真夏の陽射しで、日傘を差してもこれじゃ気休めかな…。
 そんな中で私が向かうのは、もう夏休みに入っててひと気も少なくなっちゃった、私の母校でもある私立天姫学園。
 そこのスタジオを借りてあの子は練習をしているはずですから、そこの扉を開けて中へと…。
「あ…えっ? か、夏梛ちゃん…?」
 扉を開いた先の彼女の様子を見て、私は固まってしまいました。
 だって、夏梛ちゃん、スタジオにある机に倒れこむ様にしていたんですから…もしかしなくっても体調が悪いの…?
「あつい…あついです…」
「…えっ?」
 私に気づいて何とか顔を上げてくれた彼女でしたけど…そういうことだったの。
「もう、お仕事から帰ってきたばかりで疲れているのかと思ったら…うん、確かにとっても暑いけど、ここにはエアコンもあるんだし、かければいいのに…」
 密閉されたこんな空間、しかも真夏なのにエアコンをかけていないなんて暑いのは当たり前ですし、エアコンのスイッチを入れようと…。
「エアコン…嫌いなんです」
 と、その一言に手が止まります。
「喉に悪い悪いですし…それに、エコです」
「わっ、そういえばエアコンのかけすぎは喉に悪いけど、そんなことをきちんと気にしているなんて、夏梛ちゃんはさすがだね」
 そう言われるとお家とかでも彼女はあんまりエアコンを使っていませんでしたけど、とにかく感心しちゃって、隣へ歩み寄って腰かけるとそのまま頭をなでなでしちゃいます。
「あ、あぅ…」
 そんなことをされて彼女は顔を赤くしちゃいました。
「もう、やっぱり夏梛ちゃんはかわいいんだから…」
 ぎゅってしたくなる気持ちを抑えるのが大変です。
「か、かわいくなんかないです!」
「うふふっ、そうやって慌てるところがまたかわいいよね」
「そ、そうなの!?」
 わっ、そこでびっくりされちゃうとは思いませんでした。
「あれっ、今頃気がついたの?」
「そんなことはないと…思うんですけど」
「そんなことあるよ…って、何度も言ってると思うんだけど」
 でも、そうやって毎回照れちゃう夏梛ちゃんもとってもかわいいですよね。
「うぅ…麻美だってかわいいもん!」
 と、顔を真っ赤にした彼女、そう声をあげてきました。
「わっ…そんな、私なんて、夏梛ちゃんの足元にも及ばないよ」
「そ、そんなことはないです!」
「わっ、そんなに強い声あげなくっても…」
 でも、お世辞でも夏梛ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいかも…。
「麻美は私の一番ですから」
 と、さらに笑顔でそんなこと言われちゃったら…はぅっ。
「わわっ、もう…それを言うなら、夏梛ちゃんだって私の一番なんだから」
 お互いに顔を赤くしちゃいましたけど、とっても幸せで、もうぎゅってしたくなる気持ちが抑えられなくなっちゃいます。
「…うぅ、やっぱりあついあついです」
 でも、そんなことを言われて抱きつこうとする動きを止めちゃいました。
 そういえば、その問題が解決してませんでしたっけ…そんな中で抱きしめたりしたらさらに暑くなっちゃいますよね。
「さすがにゴスロリは暑いです…」
 その言葉どおり、私は袖なしの白いワンピースなのに対して彼女はいつもどおりの服装…一応夏物らしいのですけれど、でも暑そうなのは間違いありません。
「う〜ん、じゃあ脱いじゃったらどうかな?」
 服装が原因なら、ということでそんな極論を言っちゃいました。
「ぬ、脱ぐとか…麻美大胆ですね…」
「だって、ここには私たち二人しかいないし…」
 夏休みですから誰もこない気がしますし、それに…恥ずかしがる夏梛ちゃんの反応が見られるかな、って。
 うん、恥ずかしがるよねってそう思ったのに、夏梛ちゃんは本当に服を脱ぎはじめちゃいます…!
「…って、わっ、えっと…!」
 うぅ、まさか本当にするなんて、こちらが恥ずかしくなってきました…!
「…麻美、どうかしましたか?」
 私があたふたしている間に彼女は下着姿になっちゃいました。
「う、ううんっ、な、何でもないよっ?」
 夏梛ちゃんの下着姿を見るなんてこれがはじめてってわけじゃないのに、とってもどきどきしてしまってつい背中を向けちゃいました。
「えっと、そ、それより、涼しくなったかな…?」
 私は熱くなってきちゃいましたけど、目的を果たしているなら…。
「…び、微妙微妙です」
「えっ…そ、そう? う、う〜ん、じゃあ、服装のせいじゃなかったのかな…?」
 やっぱりエアコンを入れれば解決するんだけど…。
「…麻美は脱がないんですか?」
「…えっ?」
 思わず振り向くと、下着姿の彼女が手をわきわきしてます…?
「わ、私は…そ、そんなに、暑くないし…!」
「私だけ脱いでたら変態さんみたいじゃないですか…なんなら脱がしてあげますよ?」
「えっ…!」
 にまりとされましたけど、まさか彼女がそんなこと言ってくるなんて…!
 で、でも、確かに二人きりですし、それに元々は私が言ったことなんですから…。
「え、えっと…そ、それじゃ、お願いしちゃおう、かな…?」
 ですから、どきどきしながらもうなずいたのでした。

「むぅ〜、麻美ってやっぱりやっぱり…」
「わっ、え、えっと、夏梛ちゃん…?」
 ということで私も下着姿にされちゃいましたけど、彼女が胸のあたりを見てくるものですから、とっても恥ずかしいです。
 どうやら胸の大きさを気にしているみたいですけど、そんなの今のままで十分すぎるくらいかわいいのに…。
 えっと、とにかく恥ずかしいですし、そうでなくってもこんな格好じゃどきどきしちゃいますし、何か別の話題を…って、そういえば。
「ねぇ、夏梛ちゃん…エアコンをエコのために使わないっていうけど、それで身体を壊したりしたらいけないって思うんだけど…」
 このことがちょっと気になっていたんです。
 だって、確かにそういうことを気にするのは偉いって思いますけど、でも大切な人の体調には代えられません。
「大丈夫…大丈夫、です」
「ほ、本当に…?」
 お返事がちょっと弱々しい気がしちゃいましたので、心配になってじっと見つめちゃいます。
 すると、彼女はちょっと目を泳がせちゃって…。
「…ごめんなさい、二回ほど倒れました」
「…えっ?」
 思ってもみなかった言葉に一瞬固まっちゃいましたけど、それってつまり、先日までのお仕事の期間で、ということ…?
「ちょ、ちょっと、夏梛ちゃん…? そ、そんなこと、私…初耳、だよ…?」
 まさかそんなことになっていたなんて、うぅ…。
「…だ、だってだって、心配させたくないじゃないですか…」
「そ、それは…」
 そう言われると…私が同じ立場なら、同じことをしていた気がします。
「えっと、気持ちは解るけど、でも…やっぱり、ちゃんと言ってもらいたいよ…」
「ご、ごめんなさい」
 あっ、夏梛ちゃん、しゅんとしちゃいました…。
「ううん、今こうして夏梛ちゃんが無事でいてくれるから、謝らなくってもいいよ」
 そんな彼女を見るのは胸が痛くって、何とか元気になってもらおうとそう言いながら頭をなでなでします。
「…うん」
 と、夏梛ちゃん、顔を赤くして微笑みながらうなずいてくれました。
 よかった…ですけど。
「でも、倒れちゃったりするなんて…どういう状況で、そんなことになっちゃったの…?」  頭をなでながらたずねますけど、そんなに過酷な環境下でのお仕事だったのかな…?
「…え? それは…言えません」
 なぜか恥ずかしそうにされましたけど、この反応って…どういうこと?
「言えないって…ま、まさか、私に言えない様なことを…? そんな、夏梛ちゃんが…うぅ」
 それがどういうことなのか、までは解らないんですけど、とにかく言ってもらえないことが悲しいです…。
「…麻美を妄想して…色々してたら、その…」
 そんな私を見るに見かねたのかとっても言いづらそうに、うつむいて小声で言われましたけど…って?
「え、えっ? か、夏梛ちゃん、それって…う、ううんっ、な、何でもないよっ?」
 わ、私が思い浮かべたことが本当ならそれは確かにとっても言いづらいことですけど、でも…あの夏梛ちゃんが、私のことを想って、倒れるくらいにそんなことを…?
「とっ、とにかく、暑い中無理しちゃダメなんだからねっ?」
 うぅ、でも、こんな格好であんなこと言われたら、本当に気持ちが抑えられなくなっちゃいます…!


    -fin-

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