〜時の迷子〜

 ―今日の授業も終わって、私…雪乃ティナは学校から神社へ向かってた。
 今住んでる場所は学生寮になるけど、でも放課後はそこでお仕事のお手伝いをするか弓とかの練習をすることが多い。
 空を飛んで向かうこともあるけど、今日はいい陽気っていうこともあるから普通に歩いて…と、公園に差し掛かったところで人影が目に留まる。
「…ん? あの人、何か引っかかるんだけど…」
 別にそこにいたのが閃那だとかそんなことはなかったんだけど、妙に気になっちゃってつい足を止めた。
「…な、何ですか?」
「あ、ご、ごめんなさい…いえ、え〜と、どうしよ…」
 こちらの視線に気がついたその人が声をかけてきたけど、こっちは少し困っちゃう。
 いや、引っかかったっていっても、実のところ何が引っかかったのかよく解らなかったりして…。
「あ、貴女、同じ学校の生徒よね?」
「そう…みたいですね?」
 ふと気づいたことを口にしたけど、その人は今の私と同じ服装。
「どこかでお会いしましたか?」
「いや、あたしもどこかで会った気が…」
 そこまで言ったところで彼女の頭にある猫耳っぽいものが目に留まったりしてはっとする。
「…って、あっ、そうよ。貴女…もしかしたら、セニアじゃないの?」
「ふにゃっ!? ひっ、人違いですっ!」
 ものすごく慌てるその人は私と同い年くらいに見え、まぁあたしのよく知ってるセニアとは違う…んだけど。
「いや、この間神社で会ったわよね…もっと未来からきた、って」
 元々セニアは未来からきてるんだけど、この間に一度だけそういうことがあって、そのときのセニアはちょうど目の前の子と同じ年恰好…。
「というか、ティナおねーさんは知らない人ですし!」
「…って、あたしの名前知ってるし、やっぱりそうなんでしょ?」
「ば、ばれてしまっては仕方ありませんね…こ、こうなったら力ずくで記憶を飛ばすしか…」
「全く、自分でばらしておいて…って、ど、どうしてそうなるのよっ!」
 認めたと思ったらずいぶん物騒なこと言ってきて…。
「そもそもこの間は事故できたとか言ってた気がするけど、今回はどうしたのよっ?」
「まぁ、ティナお姉さんに勝てないのは昔からですけど…正攻法で倒せないのなら、寝込みを襲うとか? そんな汚い真似はできないし、ましては…」
「…って、ん? ちょっと、何を一人でぶつぶつ言って…こっちの話、聞いてるの?」
「あ、すみません…何でしたっけ?」
「はぁ…いや、だから、今回はどうしてこんなところにいるの、って。確か前回は事故できちゃったんでしょ?」
「き、聞いちゃいますか? 私に関わると色々と面倒くさいですよ?」
 ようやく物騒な考えをやめてこっちの話を聞いてくれたんだけど…その返事が面倒な感じね。
「う〜ん、そりゃ気になるし…それに、もしも何か困ってたりするなら、放っておけないでしょ。別に今日は時間もあるし、何か大変なら予定あっても後回しにするから…ま、言えるみたいなら言ってみなさいよね?」
「…いえ、そんな大したことではないんですけど…」
「あによ、それなら色々と面倒くさいとか、そんなもったいぶったこと言わないでよね?」
「えっと、少しだけ調査を任されまして…」
「…って、調査って、この今の時代に関すること?」
「まぁ…そんなところです。人探しっていったらいいんですかね…そんな感じです」
「…人探し? わざわざ過去にきて探したい人とか…どういうこと?」
「迷い人といいますか…時空迷子ていうと格好いい感じしませんか?」
「…何か閃那が言いそうな台詞よね」
 ぱっとそんなことが思い浮かんじゃった。
「それはそうと、そんな迷子が出ちゃってる、ってことかしら」
「はい、結構向こうでは事件になっていたりするんです」
 大したことじゃない、みたいには聞こえなくなってきたわね…。
「それは結構危ないわね…そもそも、時間を移動するのがそんな簡単にできる様になってる、とか…」
「いえ、閃那お姉さんみたいに特異体質とかじゃない限りは、そう易々とはできないはずです」
 閃那の特異体質って、憑かれやすいことだけじゃなかったのね…。
「…そうなの? でもセニアとかティアとかもきてるし…それに、実際に今現在も迷子になってる人がいるんでしょ?」
「あれは、閃那お姉さんと一緒だからできたわけで…現に、今の時代の私は未来に帰ってないはずですから」
「う〜ん、確かにそれはそうね…」
 でも、それなら目の前にいるセニアとか迷子になってる人はどういう…ま、深くは気にしないでおいたほうがいいのかもしれないわね。

 ともかく、さらに未来からきたっていうセニアの置かれた状況は解ったけど、ちょっと引っかかる。
「…ちなみに、セニアがそうなっちゃってる、ってわけじゃないわよね?」
 ちょっと冗談半分でたずねてみる…と。
「うっ…す、鋭いですね…」
「…へ?」
 言葉を詰まらされるものだから、こっちが一瞬戸惑っちゃう。
「まさか、本当にそういうわけ、じゃないわよね…今の話だと、探しにきてる側のはずだし」
「…ミイラ取りがミイラになったというか、ミイラがミイラ取りになった…というか?」
「あによそれ、もしかしてここがセニアの本来きたかった時間じゃないとか、そういうこと?」
 今の言葉どおりに受け取ると自分を探しにきた、って受け取れちゃうけど、まさかこの間会ったセニアを探しにきたとか…なんて、それはもうずいぶん前のことだし、それにそんなややこしいことはさすがにない、わよね。
「まぁ…おおむね合っているところがティナお姉さんのすごいところですね。勘が鋭いですね…昔から」
「…ん、そうなの?」
 あたしの勘がどうかとかはよく解らないんだけど、まぁセニア自身に何か問題があるのは確かそう。
「全く…ま、とにかく、あたしで何か力になれることとかあったら、遠慮なく言いなさいよね?」
「えっと…あ、ありがとうございます」
 少し照れた様子でそう言ってきたりして、さすがに小さい頃よりは素直になってるみたい。
「別にいいわよ、セニアならなおさら放っておけないし、ね?」
 さっきの態度からして知ってる人とは会わない様にしてたっぽいけど、会っちゃったものは仕方ないんだから…無事に帰れる様に、少しでも力になってあげないと、ね。
 でも、まさか二度も、ただでさえ未来からきてるセニアのそのさらに未来の彼女と会うことになるなんてね…はじめに会ったセニアは無事帰れたのかしら。
 しっかりしてそうでちょっと抜けてるところがある、って感じだからちょっと心配…だからこそ、今回は見送るまで一緒にいたほうがいいか。


    -fin-

ページ→1

物語topへ戻る