あのかたからのお誘いをお断りしてしまって…もう嫌われちゃって、お弁当も食べていただけないかもしれない。
 こちらから屋上に行くこともできなくって、胸の痛みも耐えられず、誰もいない公園に姿を消した状態で降り立ち、その片隅にあったベンチへ一人腰かけました。
「くすん、くすん…もう、あのかたに合わせる顔なんてありません…」
 そして、そこで一人泣いてしまいます。
 うぅ、誰かを好きになってもそのお相手にご迷惑をおかけするだけですし、自分もこんな…あのこと以上につらい気持ちになってしまうのですから、これからは…。
「…お前、何泣いてんだよ?」
「…えっ?」
 と、うつむいていると正面から声がかかってきましたからはっとして顔を上げると…?
「は、はわっ、ど、どうして、その、あなたがここに…そ、それに、私の姿まで…!」
 そう、目の前に立っていらしたのはまぎれもなくあのかたで、さらにいつの間にかまた私の魔法も解除されてローブ姿が見える様になっていたのです…!
 で、でも、私はもう合わせる顔なんて…!
「隣、座るぞ? 今度逃げたら…覚悟しとけよ?」
「…は、はぅっ」
 立ち上がろうとしたら釘を刺されてしまって動けなくなってしまいました。
 そんな間にあのかたは本当に隣へ座ってきますからどきどきしてしまいます…って!
「で、でも、私なんかと一緒にいたら…」
「一緒にいたら、どうなるんだよ?」
「ほ、他のかたから、おかしな目で見られてしまいます…」
 私のせいでそうなってしまうのがつらく、うつむいてしまいます。
「おかしな目? どうしてそう思うんだ?」
「だ、だって、私はこんな格好ですし、フードを外したとしましても、やっぱり…」
「…かわいいのにな、もったいない」
 何だか残念そうにされましたけれど…えっ?
「なっ、な、何をおっしゃって…そんなこと、ないです…!」
 いつかもそんなことを言われてしまいましたけれど、あり得ないことに慌ててしまいます。
「全く…どうしてそんなに自分が嫌いなんだ?」
 うぅ、何だか呆れられてしまいましたけれど、本当に私なんて…。
「ま、あたしも人のことは言えねーが…」
「えっ…あなたも、って…?」
 さらに続いた一言に、思わず聞き返してしまいました。
「あたし、日本人離れした見た目してるからな…」
「…そう、なのです…?」
 私には、整った顔立ちだとしか…。
「…あっ、私はずっと色んな国を旅してましたから、そのあたりのことはちょっと気づきませんでした…」
 意識をしてみると、西洋のほうのかたに見える、のかも…?
「今はだいぶマシになったけどな? 子供ってのは残酷でな…小さい頃のトラウマなんだ」
「あ…それって、私と同じ…?」
「…同じ?」
 ついはっとしてあのかたを見てしまい首を傾げられてしまいましたけれども、だって…私も、外見のことで小さい頃につらいことがありましたから…。
 えと、このかたになら、お見せしてもいいですよね…それで悲しいことになったとしましても、今のお話をうかがってこのかたに隠し事をし続ける気にはなりません。
「え、えっと、その、私も、子供の頃から…この耳のことで、色々あって…」
 フードを脱いで、さらに長めの髪もかきあげて、耳を…人間のものとは違うかたちをした耳をお見せしました。
 うぅ、こうしてはっきりと誰かに見せるなんてはじめてのことですし、緊張します…!
「そうなのか…触っていいか?」
 と、あのかた、微笑みながらそうおっしゃいました…?
「えっ、触って、って…その、私の耳を、です…?」
「そうだけど?」
 平然とされましたけど、想像もしなかった反応に戸惑ってしまいます。
「え、えと、構いませんけれど…」
 断る理由はありませんでしたけど、ちょっと恥ずかしい…。
「じゃあ…」
 と、あのかた、私の細長い耳をなでる様にやさしく触ってきました。
 思わず耳がぴくっと揺れてしまいましたけれど、あのかたに触れていただけていると思うととってもどきどきしてしまいます…。
「え、えと…私の耳、おかしいとは感じないのですか…?」
 それでも、やっぱりそうたずねずにはいられませんでした。
 うぅ、やっぱりこれまでの人たちの様に思われてしまうのでしょうか…。
「ん? 特には…かわいいと思うぞ?」
「なっ、あの…!」
 緊張する私に返ってきたのは別の意味でどきどきしてしまうお返事でしたので、固まってしまいました。
「どうしたんだよ? かわいいものはかわいいぞ?」
「は、はぅ、そんな、私なんかよりずっと素敵な人にそんなこと言われても…」
 あまりに恥ずかしくって、顔を真っ赤にして縮こまってしまいます。
「…素敵? お前、目大丈夫か?」
 と、耳をなでる手を止めてそうたずねられてしまいました…?
「えっ、目は大丈夫ですけど、どうしてです…?」
「あたしなんか、その…かわいくねーし」
 あ、えと、今度は私の言葉にあのかたが戸惑われました…?
「その、かわいいではなくってかっこいい、じゃないかな、って…」
「かっこいい? あたしが、か…?」
「あっ、え、えっと…!」
 何故だか恥ずかしくなってきましたけれど、本当のことなのですからうなずきます。
「…そ、そんなことはありません!」
 と、あのかたはあたふたされてしまわれましたけれど…あれっ?
「えと、先日町でお会いしたときの、口調…?」
 確かよそ行きの格好をされるとああいう雰囲気になるそうなのですけれど、今日のあのかたは制服です…?
「な、何でもありま…ねーよ!」
「そ、それなら、いいんですけど…」
 とっても恥ずかしそうにされましたし、困らせてはいけませんよね。
 それに、先日のことといえば…うぅ。
「あの、そういえば、その、町でお会いしたときは、申し訳ありませんでした…」
 あの日のことを思い返して、しゅんとしてしまいます。
「別に気にすんなよ…過ぎたことだろ?」
「けれど、せっかくのあなたからのお誘いをお断りして、逃げたりしてしまって…くすん、くすん」
 うぅ、いけません、また胸が痛くなって、涙が…。
「…そんなに気にするなら、今からデートするか?」
「…えっ? で、デートって、な、何をおっしゃって…! わ、私たちは、そんなこと…!」
 とんでもないことを言われて慌てふためいてしまいましたけれど、だって、そんな…!
「は、はぅっ、わ、私、こんな格好ですし…そのっ、お気持ちだけありがたく受け取りますっ…!」
 またお断りするかたちになってしまいましたけれど、こ、こんなの、お気持ちだけで十分すぎるといいますか、もう何がどうなっているのか…!
「う〜ん、そっか…ま、とにかく、この前のことは気にするなよな?」
「は、はぅ…は、はい」
 私のこと、気遣ってくださってあんなことをおっしゃられたのでしょうか…そのやさしさにも胸がいっぱいになってしまいます。
 それに、先日のことで嫌われたりもしていなくって一安心してしまって、思わず涙が出そうになってしまいましたけれど、何とかこらえました。


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