今日は休日…お昼休みなどももちろんありませんから、屋上へ行ってもあのかたのお姿はありません。
 そんな休日の私の過ごしかたといえば、まずは学校の図書館で本を読むこと…そこは蔵書量がとっても豊富で興味深いです。
 あとは、ほうきに乗って空のお散歩…いずれも念のため魔法で自分の姿を周囲と同化させていますから多少疲れますけれど、仕方ありません。
 そして、姿を消しているとはいっても人のたくさんいるとことは怖いですから、市街地などは多少高度を取っての飛行です。
 でも、何をしていても、いつの間にかあのかたのことを考えてしまいます…。
「…あれっ?」
 と、市街地の上空から何気なく下へ目をやると、あることに気づいたんです。
「あそこを、歩いている人…」
 歩道を歩く人の一人があのかたに似ていらっしゃる気がして、少し高度を下げつつよく見てみようとします。
「…あっ!」
 そのお姿を見て思わず声をあげてしまった瞬間、その歩いていたかたが足を止めてあたりを見回すものですから、慌てて高度を取りました。
「…え、えっと、いつもと雰囲気が違いますけれど…あのかた、でした」
 上空でどきどきしてしまいますけれど、お姿も確認できて、それに気配も…うん、あのかたを間違えるはずありません。
 ただ、今日のあのかたの雰囲気はいつもお会いしているときのものとは少なからず違いました。
 服装もいつものラフに着ていらっしゃる制服ではなくって、全体的に清楚な感じが…。
「あの様な服装で、どこへ行かれるのでしょう…」
 その間にも、あのかたは再び歩きはじめてしまわれます。
「う、うぅ、気になります…少しだけ、えっと…」
 つい、そんなあのかたの後を追ってしまいます。
 上空からですともちろん表情などはよく確認できませんけれど、角を曲がってひと気のない路地へ入っていくあのかたは…何だか、嬉しそう?
「あっ、もしかして、デートか何か、でしょうか…」
 その可能性に思い至った瞬間胸が痛んでしまいましたけれど、あのかたには想う人がいらっしゃるはずなのですし、あのご様子からしてそう考えるのが自然、です…?
 ならついていっていいはずないですし、ついていってどうしようというのです…もう、どこかに行かないと。
 心ではそう思ってますのに、まだついていってしまって…私、本当に何がしたいの…?
 そんなことを考えている間に自然とあのかたとの距離が詰まってきてしまっていたのですけれど…そのあのかた、不意に立ち止まるとこちらを振り向いてきました?
 さらに、その手には携帯電話があって、あたりが淡い光に包み込まれます…!
「は、はぅ、こちらを見て…って、ま、魔法が…!」
 はっとする間もなく私の姿は見える様になってしまって…さらに空を飛ぶ力さえ失ってしまい、ほうきから地上へと落下してしまいます…!
 …も、もうダメですっ!
「…あら、ごきげんよう」
 覚悟をして目を閉じたのですけれど、身体に伝わってきたのはやさしい感覚で、さらにすぐそばからそんな声がしました…?
 どうやら私はあのかたに抱きとめてもらったみたいで、抱きかかえられていたのです…!
「あ、あぅ、え、えっと…!」
 突然そんな状況に置かれてしまったものですから、どきどきしてしまって言葉も全く出ません…!
「私に何か用事だったのでしょう?」
「あ、あぅ、わ、私は…そんな、な、何も…!」
 ゆっくり降ろしていただけましたけれど、同時に頭をなでられたりしてしまって、どきどきしすぎて言葉が上手く出てきません。
「あら、でも後をついてきましたよね?」
 はぅ、はじめて屋上でお会いした日といい、どうして気づかれてしまうのでしょう…!
「そっ、そそそれは、あなたのお姿を見かけて、つい…あ、え、えっと、ごめんなさいっ!」
「あら、何で謝るのかしら?」
 あたふたと頭を下げる私に、あのかたは不思議そうな表情を向けてきます。
「あ、あぅ、だって、いつもと違うご様子ですし、どこかへ行こうとしていらしたのですよね…? それなのに、お邪魔してしまって…」
「私、お買い物帰りで寮に戻る途中だったのだけど…気をつかわせてしまって、ごめんなさい」
「あっ、そ、そんな、衣砂さ…あ、あなたが謝ることなんて、何も…!」
 とても申し訳なさそうにされて、胸に痛みがはしります。
「で、でも、いつもと違うご様子でしたし、もしかしたらデートか何かかと思ったのですけれど、違ったのですね、よかった…って、あ、あぅ、な、なな何でもありません…!」
 うぅ、つい余計な言葉が出てしまいました…!
「あらあら、私にはそんな相手はいなくってよ?」
「そ、そうなのです…?」
 返ってきた言葉は意外なものでしたけれど…で、では、先日の人は…?
「でも、お好きな…っ」
 …お好きなかたはいらっしゃるのですよね、と言いそうになりましたけれど、そんなことをたずねるのはいくら何でもあれですから何とか言葉を飲み込みました。
「い、いえ、えっと、その…で、では、いつもと違うご様子なのは、どうしたのです…?」
 慌てて違う言葉を続けましたけれど、こちらも気になってしまいます…本当に、いつもとは全く雰囲気が違うのですから。
「ああ…よそ行きの服装をすると、こうなってしまうんです。ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?」
 服装でそうなられてしまうなんて、少し不思議…少なくっても、ほとんどこのローブ姿しかしないわたしにはそう感じられてしまいます。
「え、えと、驚きましたけれど…で、でも、衣砂さんは衣砂さん、ですよね…」
 うん、やさしいところなど、いつもと変わらない…ですから少し微笑み返しますけれど、どきどきします…。
「うふふ、いいことを思いつきました」
 そのあのかた、やっぱりいつもとは違ったほわほわしたご様子でそうおっしゃいます…?
「えっ、あ、あの…?」
「今から私とお茶しませんか?」
「…えっ?」
 少し顔を赤くしながらのあのかたのご提案に一瞬言葉を失いましたけれど…あ、あのかたとご一緒にお出かけ、ということですよね?
 夢の様なことにうなずいてしまうところでしたけれど…だ、ダメですっ。
「わ、私と、そんな…え、えっと、でも、私はこんな服装ですし、それ以上に…」
 たくさんの人の中へ姿を隠さないで行くってなると、ローブ姿ではいられませんし、服装を変えては私の耳が…。
「そんな私と一緒にいては、あなたまでおかしな目で見られてしまいます…!」
 私自身のこと以上に、そちらのほうが…絶対にあってはいけません。
「で、ですから、その…お誘いはとっても、とっても嬉しいんですけど…」
 う、うぅ、でも、あのかたからのお誘いを断るなんて…とっても悲しく申し訳なくって胸が痛んで、ですからうつむいてしまい声もどんどん小さくなっていって…。
「…ご、ごめんなさいっ」
 いたたまれなくなってしまい、あのかたから背を向けると、飛べる様になっていましたのでそのまま飛び去ってしまいました。

「う、うぅっ…」
 あのかたのおやさしいお誘いをお断りしたりして、私は…もう、嫌われちゃいましたよね…。
 もう、お弁当を食べていただくことすら、できなくなったでしょうか…そう、ですよね…。
「ごめん…ごめん、なさいっ…」
 とっても悲しく、胸が痛くって…あふれる涙をこらえることができませんでした。


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