これ以上私なんかに会うのは、あのかたにとってご迷惑になるかな…。
そう思いながらも、私はまた…あのかたがだいたいの時間を過ごしているっていう屋上の上空へやってきていました。
そこから見下ろしてみても、屋上には誰の姿もない様に見えます…けれど、これまでもそう思って降りたところで突然現れましたし、もう少し注意深く眺めます。
すると…屋上の端にあるベンチに横になっている人影を見つけました。
ゆっくり降りて姿を確認すると、間違いなくあのかた…ですけれど、ベンチに横になったりして、どうしたのでしょう…？
気になりますし、屋上へ降り立って魔法を解除してから、そちらへ歩み寄ってみます…けど、私がそばに寄っても、大丈夫かな…。
少しおそるおそるといった感じで近づきますけれど、あのかたは全く動きません。
ついにはすぐおそばにまできてしまって、どきどきしてしまいます…と。
「…すぅ」
「あ、眠って…とっても、気持ちよさそう…」
ベンチで横になるそのかたを間近で見てそうつぶやいてしまいましたけれど、そう…ぐっすり眠っていらっしゃいました。
「…もう、食えねー…」
「…えっ？」
少しびくっとしてしまいましたけれど、目覚めた様子はなくって、どうやら寝言みたいです。
何かを食べていらっしゃる夢を見ていらっしゃるのでしょうか…そういえばよくお菓子を食べていらっしゃる印象がありますし、それを私にくださったりもいたしましたっけ…。
「…なんてこと、言わせねーかんな…？」
と、さらにそんな寝言が続きましたから、どんな夢を見ていらっしゃるのかちょっと解らなくなっちゃいました。
でも、その寝顔はとっても幸せそうで、見ていてどきどきしてしまうと同時にこちらも幸せな気持ちになってきて、思わず見とれてしまいます。
「…んっ、ん〜」
…って、そのかた、大きく伸びをしたかと思うとゆっくり起き上がってきました…！
「あっ、わっ…！」
突然のことにとっさに後ずさりしてしまいますけれども、思わずしりもちをついてしまいました。
「…大丈夫かよ」
「あっ、え、えと…！」
まだ少し眠そうなあのかたが手を差し伸べてくださったのですけれど、私のほうは何だかよく解らない気持ちになってしまって、全然身動きが取れません。
しりもちをついた拍子にフードもはだけて真っ赤になった顔も見られちゃってますし…とにかく胸の高鳴りが大きくなってきてしまいます。
そんな私に対して、あのかたは…少し身を乗り出して私の腕を取ったかと思うと、そのまま私を抱き寄せてきました…？
「…えっ、あ、あのっ？」
こ、これって、どうなっているんですっ？
あのかたのお身体が密着して、さらにお顔が信じられないくらい近くに…！
「…おやすみなさい」
信じられないことに混乱しちゃいますけど、あのかたはそんなことを言って…？
「あ、あのっ、おやすみなさい、って…そ、そんなっ」
「…すぅ、すぅ」
もう何が何だか解らない私の耳に届いたのは…あのかたの寝息？
「は、はぅ、眠って…？」
ど、どうやら寝ぼけてしまわれたみたいですけれど、こんな状況、どうしたら…！
うぅ、あのかたとこんな…ど、どうすることもできませんっ。
「あったかい…あれっ？」
と、あのかた、気づかれたみたい…？
「…あたし、抱き枕なんて持ってたっけ？」
「えっ…あ、あの、私は、枕じゃ…！」
はぅ、まだ寝ぼけていらっしゃるのでしょうか…。
「まぁ、いいか…気持ちいいし…」
えっ、そんな、いいの…なんて思う間もなく、ぎゅっと抱きしめられてしまいました…！
さらに、それだけじゃなくって、私の胸に頬ずりまでされて…！
「は、はぅ…」
これって、本当に現実のことなの…夢を、見てるんじゃ…。
「…お前は、本当にかわいいやつだな…」
あのかたのそんなつぶやきが届いた気がしたのですけれど、私にはもう…今の状況を認識することができなくなってしまいました。
気がつくと、あたりは夕焼けに染まりはじめていました。
先ほどまでのことは夢…かと思ったのですけれど、そこは屋上で、さらに私をやさしく抱きしめるかたちであのかたが眠っていらしたのです…！
「は、はぅ…え、えっと…！」
どうやらこれまでのことは夢ではなかったみたいなんですけど、こんなの、どうすれば…！
胸の高鳴りを何とかこらえつつ、それに固まってしまいそうな思考も何とか働かせますけど、気持ちよさそうに眠っているこのかたを起こすなんて、よくありません…。
それに、こんなことになったのもこのかたが寝ぼけていらしたからみたいですし、私がこのままいるとよくないかもです…。
ですから、何とかそこを抜け出して、そしてベンチの上でまだ眠っているあのかたがお風邪など引かない様にあたりがあたたかくなる魔法を使ってから、その場を後にいたしました。
そう、後にしたのですけれど、正直に言うと離れたくない、って気持ちが大きくって…この気持ちは、一体…？
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