またお会いしたい…でも、あんな別れかたをしたのにまた会いにいったりしていいの?
 それに、私が行ってもお邪魔になるだけではないの…?
 色々考えてしまうものの、全然まとまることはなくって…それに、気がついたらあのかたのことばかり、自分でも不思議になるほどに考えてしまっていました。
 どうしたらいいのか解らなくなった私は…学校を離れ、近くの森の中にある神社を訪ねてみました。
 静かで、そして重く張りつめた様な空気の流れるその場所…この国では、そこでお祈りすると願いが叶うっていうのです。
 神頼み…というのも情けないことなのかもしれませんけれど、でも私には本当にどうすればいいのか解らなくって…。
 さすがに神社は神聖な場所らしく、そこへ足を踏み入れた瞬間、周囲の景色と同化する魔法が解除されてしまいました。
 幸い、境内には人影が一つしかなく、その人も間もなく立ち去っていきましたから、木陰に隠れその人をやり過ごしてから社殿の前へ向かいました。
「ここは静かで、少し気持ちも落ち着きます…えと、お参りをさせていただきましょう」
 社殿の前で足を止めて…さすがにこのままでは失礼かと思いますから、フードを脱いでから目を閉じます。
 でも、何をお願いするべきなんでしょう…あまり欲張ったことを言ってもいけませんよね。
 では、このお願いは…これでも私では贅沢すぎることでしょうけれども、望むだけでしたら、いいですよね?
「何願いごとしてるんだ?」
「は、はい、あの人ともう少しお近づきになれたら、って…」
 背後から声をかけられましたのでお返事を…って、えっ?
 はっとして後ろを振り向くと、そこにいらしたのは…!
「あ…あ、そ、その…!」
「ん、どうしたんだよ?」
 不思議そうにこちらを見るのは間違いなく私の頭から離れないあの人で、どういうことか解らず固まってしまいます。
「顔真っ赤だけど…熱でもあんのか?」
 動けない私に対してそうおっしゃると…私の額に手を当ててきました?
 こ、これは夢か何かなのでしょうか…うぅ、全く動けません…!
「微妙に熱っぽいけど、大丈夫か?」
 さらに、心配げにこちらを見つめてきますから、一気に胸が高鳴って…って!
「だっ、だだ大丈夫ですっ」
 見つめられていることがとても恥ずかしくなって、慌ててフードをかぶりました。
「何で隠れるんだよ…っていうか暑くないのか、それ」
「だっ、だだ大丈夫です…そ、それより、えと、どうしてここに…!」
 うぅ、今まで暑いなんてことはなかったのに、急に暑くなってきました…。
「あたしは散歩だよ。何だか今日は神社な気分だったからな」
「け、けれど、先ほど確認したときは、他の人の姿はありましたけれどあなたのものは…」
「ん? 木の上で寝てたからな…気づかなかったんだろ?」
 あ…さすがにそんなところまでは見ていませんでした。
「で、でも、そんなところでお休みして、木から落ちたりして何かあったら…」
「…心配してくれるのな? ありがとう」
「…えっ? そ、そんな、お、お礼なんて…!」
 微笑まれた瞬間また胸が高鳴ってしまって、あたふたとうつむきます。
「お前はやさしいな?」
 さらにそんなことをおっしゃいながら私の頭をなでてきて、とても心地よい…って、えっ!
「は、はぅ、えっと…!」
 今まで置かれたことのない状況に、またどうすればいいのか解らなくなってきてしまいます。
「でも、やっぱり顔が赤いし、本当に大丈夫か? 治癒魔法でもかけといたほうが…」
 そ、そんなことを私におっしゃってくれるあなたのほうが、ずっとやさしいと思いますけど…。
「あ、えと、その様な魔法が使えるのですか…?」
「まぁ、それなりに使えるぞ?」
「あの、えと、私も一応使えなくはないんですけど、あなたも魔法使いなんですね…」
 あの学校では魔法使いも異端ではないとのことでしたけれど、このかたがそうでしたなんて、何故だか嬉しくなって…と。
「う〜ん、でも、あたしの魔法は多分普通のとは違うと思うぞ?」
「そう、なのです…?」
「あたしのは地味だからな…現代魔法って知ってるか?」
「えっと…こういう魔法とは、違うものです?」
 知っているも何も、私は自分の使うもの以外の魔法なんて何も知りませんでしたから…ですから軽く火を起こすという私の魔法を見てもらいました。
「う〜ん…」
 と、そのかた、おもむろに携帯電話というものを取り出すとそれを操作しはじめました…?
 どうされたのか解らなくって、私は見守るしかありません。
「…送信」
 そのかたが携帯電話をこちらへ向けて一言そう言いますと、私を淡い光が包み込んで…身体が、少し軽くなりました?
「い、今のは…治癒魔法、です?」
「あたしの魔法は携帯電話とかPCとかを媒体にするんだ。だからすごく地味でな?」
「そう、でしたか…ですから、現代魔法と…?」
 以前屋上で私の魔法を解除したのも、このお力だったのですね…。
「あぁ、あたしは東堂衣砂っていうんだけど、この魔法を使う奴ってのは他に見たことねーから珍しいんじゃないかな」
「あ…えと、私はエステル・ティターナというんですけど…でも、私と同じ魔法使いであるのは、違いないですよね…」
 お名前までうかがえて、嬉しい気持ちが…。
「…同じ?」
「は、はい、魔法を使えるという意味では、同じかなって…」
 そこまで言いかけたところではっとします。
「あっ、い、いえ、私と同じだなんて、嫌ですよね…!」
 うぅ、私ったら、調子に乗りすぎてあんなことを言ってしまうなんて…!
「あ…その、ごめんなさいっ!」
 いたたまれなくなってしまい、逃げる様にその場を後にしてしまったのでした。

 ―また、私は逃げてしまいました。
 でも、お名前まで知ることができて、それに魔法を使うかた…何より、私なんかにあんなにやさしい声をかけてくださったかたなのですから、ますます頭から離れなくなってしまいました。
 ほんの少しだけ、お近づきになれた様な…神社での願いごとがすぐに叶った、そんな気がします。


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