―トライアル合格を告げられて、あのかたの魔力についても何とかなって、それに何より…私とあのかたの想いが一つになって。
 全てが幸せすぎて、私にはもったいなさ過ぎるほどのことで、夢みたいに感じる…でも、繋いだあのかたの手の感触は確かで、これが現実だと解らせてくださいます。
 その幸せを感じながら、二人で一緒に合宿所へ戻ります。
「あ、やっと戻ってきたわね?」「お二人とも、おめでとうございますぅ」「うんうん、よかったわねん?」
「…きゃっ? え、えと…」
 と、中へ入ると皆さんが待ち構えていたかの様に声をかけてきますから、びくってなっちゃいました。
「な、何なんだよ、いきなり…しかもこれ、どうしたんだ?」
 さらに、あのかたがまわりを見回して戸惑いの声を上げる様に、部屋の様子も変わっていたんです。
 何だかきれいな飾りつけがしてあったりしますし、テーブルの上には豪華なお料理まで…。
「何、って…見れば解るでしょ? パーティじゃない」「えっと、みんなで頑張って準備したんです」
「いや、だからどうしてそんなことしてるんだ?」
「鈍いわね…そんなの決まってるでしょ?」「ここにいる全員が天姫トライアルの課題をクリアした、そのお祝いってことねん」
 ここにいる私たちにとって、一番のお祝いごとといえばそういうことですよね…って?
「わ、私たちは先ほど合格しましたけれど、それで全員ということは…」「私たちが最後だった、ってことになるな…いつの間に合格してたんだ?」
 それに皆さん答えてくださいますけれど、一番はやく合格した雪乃ティナさんで合宿がはじまってわずか数日、私たち以外で一番遅くなった松永いちごさんでも昨日合格をもらえていたといいます。
 私は自分の…あのかたのことで精一杯で全然気づきませんでしたけれど、やっぱりすごいのですね…。
「ま、そういうわけでパーティしようっていうんなら、解んなくもないな」
「あ、でもこのパーティの理由、それだけじゃないんですよぅ?」
 納得した様子のあのかたですけれど、そんなこと言われてしまいます…?
「何だよ、他に何かあるのか? ちょっと思い浮かばないが…」
 私にも思い浮かびませんけれど、何かいいことなどあったのでしょうか…?
 不思議に思っていると、皆さん…なぜか私たちを見て、意味深そうな笑顔を浮かべます?
「あ、あのっ…?」「な、何だよ、気持ち悪いな…何かあるならはっきり言えよ」
 本当にどういうことなのか、あのかたと二人、戸惑ってしまいます。
「…んっふふ、二人とも、おめでとう」「全く、恋人じゃないとか何とか言ってたけど、やっぱりこうなったじゃない…もう結婚しちゃいなさいよね」「この合宿でカップルが成立するなんて、すごいですよね…おめでとうございますっ」
 と、皆さん口々にそんなこと言ってきて…え、えぇっ?
「わっ、あ、あの、その…!」「ちょっと待て、それって…私たちのこと言ってるのかっ?」
「あによ、他に誰がいるってのよ?」「衣砂ちゃんとエステルちゃん、二人のカップル成立記念パーティよん」
 慌てる私たちにそんなことまで言われちゃって、事態は把握できましたけれど…固まっちゃいます。
「ま、待て待てっ、お前ら、どうしてそんなこと知って…! だ、第一、私とエステルは…!」
 言葉が出ない私に代わってあのかたが声を上げてくださいます。
「それはもう、見たらだいたい解ることだって思いますよぅ?」「だいたい、同じ指輪つけといて否定しようとするなんて…まぁ、その指輪は魔力に関するものなんでしょうけど、でもペアリングにしたなんて、つまりそういうことでしょ?」
 た、確かにそうなんですけど、あまりに恥ずかしかったりして言葉が出てきません…!
「…そっ、そうだよっ、そういうことだよっ! 何か文句あるのかよっ?」
 あのかたもお顔を真っ赤にされて、それでもそう言い返します。
 うぅ、でも、あのかたが私とのことを、皆さんの前でしっかりと認めてくださったのは素直に嬉しいでしょうか…。
「そうそう、そうやって素直に認めればいいのよ」「そうよねん、お似合いの二人なんだし」「ほら、こっちきて」
「わ、あの…!」「ちょっ…全く、しょうがないな」
 皆さんに手を引かれて、私とあのかた、パーティの中心にされてしまいました。

「全員合格、ってことで合宿も今日までみたいね」「じゃあこれは打ち上げパーティにもなるのねん」
 パーティなんてはじめてで少し不安でしたけど、あのかたが隣にいてくださいましたし、皆さんもやさしくしてくださいましたから大丈夫…と、その皆さんがそんなこと言ってきます。
「何だか、ちょっとさみしい気もします…」「そう、ね…これからも、この七人で集まったりしましょ」
 本当に色々なことがあったこの合宿、終わるとなると確かに感慨深い…ですけど。
「あ、あの…それって、私もですか…?」
 おずおずと、そんなことたずねてしまいます。
「おいおい、何言ってるんだよ。もし嫌だなんて言っても私が引きずってでも連れてくぞ」
 すぐ隣にいてくださるあのかたが少しため息をつきながらもそう言ってくださいます。
「そうです、そんなの当たり前ですよぅ?」「そうそう、ここにいる七人はもうみんな仲間、友達…でしょ?」「あ、もしかして…嫌、ですか…?」
「そっ、そんなっ、嫌なはずありませんっ」
 少し強めの口調でそう返してしまいます。
「でも、私なんかをそんな、お友達や仲間だなんて…い、いいのです…?」
 少し前まで、私は一人きりで…人を避け続けてきました。
 あのかたにお会いして、あのかたとはきちんと接することができる様になっていきましたけれど、でも他の人と接することはおろか顔を合わせることも、姿を見せることもできない、というのはこのトライアルがはじまるまで変わらなくって…。
「そんなの当たり前でしょ?」「はいです、よろしくお願いしますぅ」
 そんな私に、皆さんは笑顔でそう言ってくれて…。
「あ、ありがとうございます…! その、こちらこそ、よろしくお願いします…っ」
 皆さんのやさしい気持ちに触れて、思わず涙があふれてしまいます。
 私に、お友達と呼べる人が、しかもこんなにできるなんて、本当に夢みたい…。
「ちょっ、泣くことないでしょっ?」「んっふふ、ここは恋人さんが慰めてあげるしかないわねん?」
「わ、解ってるよ…! ほら、エステル、泣くな…な?」
 私のことを、あのかたがやさしく抱きしめてくださいます。
「うぅ、衣砂さん…ありがとうございますっ…」
「全く、泣き虫だな、エステルは。でも、心配するな…これからずっと、私がそばにいてやるからな」
 そんなこと言われると、さらに涙があふれそうになっちゃいます。
 お友達だけじゃなくって、こんな素敵なかたが恋人として私のことを想ってくださる…。
 とってももったいないことで、私…衣砂さんにふさわしい存在になれる様に、皆さんにご迷惑などおかけしない様にならないと。
「は、はい…私、頑張りますから、これからも…!」
 ですから、涙をこらえて…あのかたを見つめて、強い口調でそう言います。
「全く…お前はかわいいやつだな」
 そんな私を、あのかたはぎゅっと抱きしめてくださって…皆さんの見守る中、口づけを交わしてくださいました。


    -fin-

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