あのかたに見つかってしまった翌日、私はまたあの場所…道場というそうなのですけれども、ともかくそこへやってきました。
今日は先日よりもさらに注意をして確認…大丈夫、誰もいないみたいです。
それを確認してから建物の周囲へ結界を張り、その中心へ立つ私…一瞬光に包まれると、先日の様な服装へ変化をしました。
「やっぱり、この服装っておかしいの、ですよね…」
先日、この姿を見たときのあのかたの反応を思い返します…ちょっとよく解らないことも言われてしまいましたけれども、きっとそうした感じのことをおっしゃられたのだって思いますし。
けれど、それも当たり前かもしれません…私自身、この姿を一度鏡で見てみたのですけれど、まるでどこか別の世界のお姫さまが身につけそうなもので、私に似合っているとはとても思えませんでしたから。
と、服装のことなんて気にしなくってもいいですよね…精霊としての力を大きく使う魔法を行使する際にはなぜかこの服装になってしまうみたいなのですけれども、そのことを気にするよりも、魔法を成功させることを考えないと。
「では…いきましょう」
この魔法に、あのかたのこれからがかかっている…そう思うと緊張してしまいますけれども、大きく深呼吸をして何とか気持ちを落ち着けます。
高鳴る胸の上に手を重ね、落ち着けて…。
「私の中に眠る魔力を…あのかたの、ために…」
目を閉じながら、掌の上に出すのはあのかたを想って形成させたアイテム…これに私の魔力を込め、それを身につけていただくことであのかたの魔力を抑える効果を付与する、というわけです。
冴草さんからヒントをいただいて、そして図書館の奥にあった書物に書かれていたこの方法…ついに、ここまできたのです。
手にしたそれを、胸に抱く様にぎゅっとしながら、最後の仕上げに必要な呪文を唱え…私の魔力が、手に集中していくのが解ります。
…お願い、あのかたのために…これだけは、完成してっ。
「我が魔力を…大切なかたへの、光に…!」
手に集中した魔力を、ぎゅっと握りしめたものへ送り込みます…けれど…。
「くっ…そんな、魔力が、散ってしまいます…?」
私の魔力のほとんどが、空しく周囲へ拡散していくのが解ります…。
ほんのわずかだけ、握りしめたものへ篭ったみたいなのですけれど、必要な力にはとても足りません…。
「そんな…どう、して…?」
思わず、その場にへたり込んでしまいます…。
呪文は何度も覚えましたし、それにアイテムのほうも間違った作り方はしていないはずなのに…。
「私の力が、足りなかったのです…?」
この魔法は、精霊のみ使うことができる…そう書物にはありました。
でも、私は…半分は精霊でも、もう半分は人間ですので、そのために力が足りなかったのでしょうか…。
「う、うぅ…私じゃ、あのかたのお力にはなれないのです…?」
そう思うとあまりにつらく、胸が痛くって、涙があふれてしまいます。
「私の魔力全てを使って、もう二度と魔法が使えなくなっても…ううん、私の生命がなくなってもいいですから、あのかたのお力になりたいのに…!」
もしかすると、そういう魔法があるかもしれません…急いで探さなくっちゃ。
「う、うぅ、でも…」
脳裏をよぎったのは、先日のあのかたのお言葉…私が笑っていれば自分の身体なんてどうなってもいい、なんてことを言ってくださったのです。
私なんかのことを気遣ってくださって、あまりにもったいない…そしてなおさら私が何とかお力になりたい、と思うのですけれども…。
「私がいなくなったりしたら、あのかたは…悲しんで、しまわれます…?」
私がいなくなっても、誰も何とも感じない…ずっとそう思ってきましたけれど、あのかたは…?
それに、私だって…私だって、あのかたとお会いできなくなるなんて、嫌ですっ。
好き、なんて想いはご迷惑になるでしょうし伝えたりしては今のこの関係すらなくなってしまいかねませんから心の中にしまっておくしかありませんけれども、でもこれからもお力になったりしたいです…!
「これから、ですか…」
そのためにも、やっぱり…何としてでも、これを完成させないと。
「諦めるなんて、そんなのダメです…」
他のかた…他の精霊のかたにお願いする、という手段もあるでしょうけれど、やはりまずは私の力で何とかしたいです。
落ち着いて…絶望などせずに、何とかいい方法を考えないと。
―あれから、私なりに色々考えたり、調べたりしてみて。
あのかたにはもちろんお弁当をお渡ししていますけれども、ゆっくるお話ししている時間もなくって、さみしい…。
あのかたも心配げ、そしてお身体のことで苦しげで時間なんてかけていられないわけですけれども…そんな中、ある一つの方法が見つかりました。
基本的な魔法、儀式は先日失敗したものと同じながら、ある一部分だけ変えたもの…書物にはない、私なりに編み出したもの。
「何とか、成功しました…けれど…」
今度は成功をしたその方法は、もしかするとあのかたをご不快になどさせてしまいかねないもの、なのでした…。
理由を説明しなければ解らないかもしれませんけれども、でもあのかたに隠し事なんて…いけません。
「まずは、お話しして…それから、ですよね…」
もしもあのかたがどうしても嫌、とおっしゃられたときには…そのときには、また別の方法を探せばいいのですよね。
ですから、まずは…この、今の私での精一杯のものを、お渡しいたしましょう。
私の力、それに想い…全てを込めたもの。
どうか、あのかたのお役に立ってください…それだけ叶ってくだされば、もう私はどうなってしまってもいい、何もかも十分ですから…。
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